アフガニスタン戦争推進用の“人道主義”キャンペーン
2010年8月10日
アメリカのマスコミは、アメリカによる介入の残忍な特質を隠蔽するため、タリバンの残虐行為にまつわる一方的プロパガンダを用いて、増大しつつあるアフガニスタン戦争に対する大衆の反感を抑圧するための本格的な取り組みを開始した。タリバンである夫によって顔を切断された若い女性を載せたタイム誌の表紙から始まったマスコミ攻勢は、金曜日、北東部のバダフシャン州における、10人の医療援助活動家殺害に集中している。犠牲者10人のうち6人はアメリカ国民だった。
こうしたできごとはいずれも、確かに、人間の恐ろしい悲劇だ。しかし、この悲劇、完全な過半数の国民が今や敵意をもって戦争を見つめ、迅速なアメリカ軍の撤退を支持しているという状況の中、アメリカ人を脅して、アフガニスタン戦争の無限継続を受け入れさせようとする実に皮肉な形で利用されつつあるのだ。
“もし我々がアフガニスタンから去ったら何が起きるか”といえば、この残虐行為なのだと断言する見出しを添えて、夫のもとから去ろうとしたため、鼻と両耳を切り取られた若い女性の写真を表紙にし、タイム誌7月29日号は、公式キャンペーン開始記念号となった。政治的メッセージは明白だ。アメリカ軍の撤退を唱導する連中は、アフガニスタン女性を無用の殺生をされに追いやるようなものだ、というのだ。
編集長のリック・ステンゲルは、同誌が陰惨な写真を載せたことに憤慨する読者に対して以下の説明をして、こう書いている。“この写真は、今起きている現実についての、我々全員に影響をあたえ、巻き込んでいる戦争で、一体何が起こりうるだろうかについての、開かれた窓になると感じたのです。読者の皆様には、タリバンによる女性の扱われ方を無視するのではなく、直面していただきたいと考えます。アフガニスタンで、アメリカとその同盟諸国は何をすべきかについて、決断をされる際、読者には現実を知っておいて頂きたいと思うのです。”
だが別の質問をする方が正しかろう。タイムの編集者は一体何故、同誌の表紙にアメリカの空爆、ミサイル、大砲や迫撃砲で殺害された、誰か何千人もの無辜のアフガニスタン男性、女性や子供の写真を使わなかったのだろうか? 一輌のガソリン輸送車を爆発させたたった一度の空爆で、140人が焼かれて灰になったクンドゥスの場面を選ぶこともできたろう。あるいは若い新婦を含め、47人が爆弾やミサイルで木っ端みじんになった東部の州ナンガルハルでの結婚式。あるいはアメリカの攻撃ヘリコプターで、90人が機銃掃射された、ヘラート州の葬儀。あるいは、WikiLeaksによる最近の文書公開で詳述されている小規模な民間人殺害による何百人もの人々の誰でも。
帝国主義による、イラクとアフガニスタンにおける、こうした犠牲者の数は、アメリカのニュース雑誌を今後何十年間も飾るに十分だ。だがマスコミを支配している巨大企業、アメリカ人に、彼らの名においてなされている残虐行為について報じるのが仕事ではないのだ。彼らの任務は、金融界の特権階級や彼等を代表する議員によって決定される諸々の政策の利益になる方向に世論を操作することであり、彼等はその任務に熱心に取り組んでいるのだ。
タイム誌の表紙、別のレベルでは、また一つの嘘でもある。タリバン支配下での、女性に対するぞっとするような扱い(アメリカが支援しているカルザイ政権下でも、かなりの程度までそうだが)は、30年にもわたるアメリカによるアフガニスタン介入の産物そのものなのだ。少なくとも都会においては、女性達がかなり改善された権利、教育、社会的地位を享受していた、ソ連が支援する政権への反対を、カーターとレーガン政権は駆り集めようとしていた。イスラム世界の最右翼分子から徴用されたムジャヒディーンが、サウジアラビアによって財政支援され、CIAにテロ手法の訓練を受け、アフガニスタンに派遣されたのだ。彼らの中には、後のアルカイダ指導者オサマ・ビン・ラディンもいた。
当時、サウジの王家のようなアメリカに極めて親密なほんの一握りの同盟国を除いては、広範な支持を得ていなかったイスラム原理主義の一派を、アメリカ合州国政府は意図的に煽り、広めたのだ。ソ連撤退後、ムジャヒディーン軍閥達が内戦を開始すると、アメリカの支援を得て、パキスタン軍が、より信頼できる代替として、タリバンを助成した。かくて、タリバンはアルカイダのように、あたかも怪物フランケンシュタインのごとく、ソビエト社会主義連邦と戦う冷戦の中で育て上げられ、自分を創造した人々に敵対するようになったのだ。
バダフシャンでの医療活動家殺害事件は、いまやマスコミによる集中報道の焦点と化している。殺人犯達の党派を含め、虐殺にまつわる多くの基本的事実は不明なままだ。タリバンが犯行声明したとは言え、強盗が動機の盗賊が実際には関与していた様子もある。他の大半の非武装西欧援助活動家と武装反抗勢力部隊との出会いは、身の代金とプロパガンダ目的の拉致に終わっており、広く報道されているとはいえ、殺害で終わる場合はごく僅かしかない。
とはいえ、正確な状況が何であれ、こうした残虐行為は、外国人占領者に対して激しく敵意を抱くことで知られている部族社会に根ざす敵に対して、圧倒的な火力を装備した帝国主義国家がしかけた対反乱戦争に絶対に不可避な副産物だ。
アメリカ・マスコミ報道の大半は、当初はそれぞれの医療支援活動家たち、アフガニスタンにおける彼等の長期の活動や、彼等の家族や同僚に対する痛ましい衝撃に集中していたが、事件を戦争推進のために利用し始めた。あるニューヨークの大衆紙は、アメリカのアフガニスタン政策を、19世紀に企てられたアメリカ先住民絶滅に、故意に、あるいは無意識のうちに結びつける“野蛮人”という、巨大なたった一語の見出しのもとで、記事を報じている。
日曜日、ヒラリー・クリントン国務長官が、タリバンの“倒錯したイデオロギー”を暴露する“卑劣で理不尽な暴力行為”を非難し、今やほぼ9年目になろうとしている戦争で勝利を得るという政府の決意を再確認する声明を発表して、オバマ政権は事件から待望の政治的結論を引き出し始めた。
ウオール・ストリート・ジャーナルは、いかにもこの新聞らしく、この事件から最も露骨で反動的な結論を引きだした。“タリバン手法”という見出しの月曜日の論説では、殺害行為を“我々の敵の本性を教育する上で、特に注目に値する”と表現している。
“今回の殺害行為は、もしもアフガニスタン政府にあえて協力しようとした場合に、何千人ものアフガニスタン人が、日々直面する脅威をかいま見ることができる窓だ”ジャーナル紙は続ける。“暗殺と (耳や腕を切り落とす)損傷は、政府が諜報情報を集めたり、国民を味方に引き入れるべくサービス提供をしたりするのを困難にするように考えられた彼等の戦術なのだ。”
これは、大多数のアフガニスタン国民が、アメリカが主導するアフガニスタン占領や、カーブルの腐敗したワシントン傀儡政権に反対しているという周知の事実を無視している。更に、ペンタゴンが駆使しているハイテク兵器は、犠牲者の体にはるかに甚大な損傷を加えるが、アメリカの編集室で仕事をする高給取りの反動主義者達は決して落涙しない。
同紙はこう結論づける。“この戦争におけるアメリカの主な戦略的目的は、アルカイダの聖域を許さないという自衛なのだ。だが、我々の大義には、彼等が何千人もの無辜の人々の手足を不自由にしたり、殺害したりするのを可能にする権力をあたえてしまうことになる、イスラム教過激派の勝利を防ぐという道徳的要請も含まれている。”
これは、9/11テロ攻撃に対する報復としての戦争という、アフガニスタン侵略の元々の根拠である嘘を、アメリカのマスコミによって現在しきりに喧伝されている“道徳的”かつ“人道的”な理由づけとを結びつけたものだ。
何故タイム誌がこの表紙写真を掲載するのかという理由説明の中で、編集主幹ステンゲルは、“大いに喧伝されているWikiLeaksによる機密文書の公開は戦争にまつわる議論を既に徐々に増やしつつある”という事実に触れる吐露している。WikiLeaksに対する激しい敵意の主な理由は、この小さなインターネットを中心とする組織が、巨大企業が支配するマスコミ界が順守している自己検閲を打ち破っているためだ。
意思決定の役割を果たしている人々、主要な新聞や雑誌の編集者、主要テレビ・ネットワークの幹部、プロデューサや、ニュースキャスターは、アフガニスタン戦争の特質を十分承知している。WikiLeaksの情報など、彼等にとって決して驚くべき新事実ではない。アメリカの戦争の残虐さを、彼等が意図的に隠蔽することによって、帝国主義による犯罪を可能にする上で、彼等は重要な役割を果たしているのだ。
Patrick Martin
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/aug2010/pers-a10.shtml
文中で触れられているタイム誌7月29日号の表紙はこちら。
----------
タリバンのテレビや新聞を容易に読める人はそういない。(そもそも、存在するのだろうか?Web等あったとしても、我々彼等の言葉を全く知らない。)
我々、アメリカのテレビや新聞を基にした日本語の報道しか読めない。
アメリカのテレビや新聞が報じない、WikiLeaksの情報、容易には読めない。
日本のテレビや新聞は、宗主国のそれと同様、あるいはそれ以上に、
宗主国アメリカの戦争の残虐さを、それ補助している属国の役割を、彼等が意図的に隠蔽することによって、帝国主義による犯罪を可能にする上で、日米宗主・属国同盟を推進する上で、彼等は重要な役割を果たしているのだ。
庶民がこれから何世代もひどい目にあうに決まっている基地問題や、郵政破壊や、比例議席削減問題や、WikiLeaks情報には一切触れず、庶民生活には実質的影響皆無の、行方不明高齢者、高校野球、アメリカ観光客事故だけを集中的に報道してくれる。
« ベネズエラにおけるアメリカの干渉拡大中 | トップページ | アフガニスタンにおける女性の権利 »
「アフガニスタン・パキスタン」カテゴリの記事
- 9/11:未だ治療法のないアメリカの病(2024.09.18)
- ガザの地獄:新新世界秩序戦略(2023.11.13)
- パキスタンはなぜ、どのようにウクライナを支援しているのか?(2023.03.02)
- ベトナム戦争にもかかわらず依然教訓を学ばないアメリカ(2023.02.08)
- 中国がタリバーンと5億4000万ドルのエネルギー取り引きをした理由(2023.01.09)
「アメリカ」カテゴリの記事
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
- 熟練専門家を前線に派兵して、戦争遂行努力の失敗を示しているウクライナ(2024.11.26)
- ネタニヤフに対するICC逮捕令状はアメリカの政策と共謀に対する告発でもある(2024.11.27)
「マスコミ」カテゴリの記事
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
- なぜワシントン・ポストは存在しないトランプ・プーチン電話会話を報道するのか?(2024.11.18)
- NYタイムズ、ウクライナに関する報道の変更を発表(2024.11.07)
- ジャーナリズムに対する戦争を続けるイスラエル(2024.10.27)
- イスラエル国防軍兵士が殺害された時とガザで病院患者が生きたまま焼かれた時のメディア報道(2024.10.18)
「wsws」カテゴリの記事
- 「人権」を語る殺人国家アメリカの北京オリンピック・ボイコット(2021.12.18)
- ホンジュラスの「左翼」次期大統領、台湾支持でワシントンに屈服(2021.12.12)
- ノマドランド:(ほとんど)経済的理由から路上に追いやられた人々(2021.05.01)
- 『76 Days』:武漢でのコロナウイルスとの戦いの前線(2020.12.13)
- World Socialist Web Siteを検閲しているのを認めたグーグル(2020.11.07)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: アフガニスタン戦争推進用の“人道主義”キャンペーン:
» 8/10なんでや劇場レポート「金貸しとその手先(特権階級)たちの思惑は?」(1) 経済指標指数グラフから欧米金貸しの覇権闘争を読み解く [日本を守るのに右も左もない]
画像はこちらからお借りしました。 去る8月10日に行われた’10年夏なんでや劇場「金貸しとその手先(特権階級)たちの思惑は?」をレポートします。 今回の劇場では、まず’70年以降の経済指標(GDP・株式・原油・金・土地・為替)の変動グラフを参照しながら、世界経済の背後に有る金貸したち(ロックフェラー勢、ロスチャイルド勢、欧州貴族勢)の狙いや手段について、分析を行いました。 重要なのは、マルクスやケインズらの経済理論によって経済が動いているのではなく、十字軍遠征以降、社会は金貸しによって支配... [続きを読む]
ではすぐにISAFが撤退した場合、どうなると予想します?
米軍進行前のタリバン政権やアルカイダと一体化していることを考えると嫌な予感しかしないのですが。
あと、タリバンの被害者を報道することのなにが問題なのですか?報道しないとただのマスゴミですよ。一方の被害者ばかり報道することは偏った事実による誤解を招きます。
投稿: | 2010年12月28日 (火) 15時25分