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2010年8月28日 (土)

2010年の『ジャングル』

2010年8月26日

1906年、社会主義者の作家アプトン・シンクレアが『ジャングル』を出版した。シカゴの家畜置き場で移民労働者が直面する残酷な状況、アメリカ人の食卓用の食肉が加工される場所の汚さ、そして、精肉業界の大立て者の腐敗と貪欲さの、強烈な暴露だ。

小説は劇的な衝撃をもたらし、あっと言う間にベストセラーとなった。シンクレアの同時代人ジャック・ロンドンは書いている。『ジャングル』は“わが国の本当の姿を描いている。圧政と不正の本場、窮乏の悪夢、苦しみの灼熱地獄、人間の地獄、野獣たちの『ジャングル』を。”

一般大衆の抗議が余りに激しかったので、セオドア・ルーズベルト大統領と議会は間もなく、1906年に純正食品・医薬品法を成立させた。進歩的な時代における改革の画期的な出来事の一つだ。

労働・消費者保護規制は、労働者の虐待や、汚染食品の販売を終わらせるほど、十分に厳しいことなど決してなかった。ところが、100年以上へた今日、食品産業の利益志向に対して課されたそうした規制は、すっかり消滅してしまった。今週の卵と、スライスした冷製の調理済み肉の大量リコールで、過酷で不衛生な労働搾取工場というアメリカの食糧供給源のベールが取り払われた。

ネズミの糞で汚染された可能性の高い、サルモネラ菌に侵されているかもしれない5億個以上の卵が、現在、全米の州でリコールされている。卵はアイオワ企業二社、ライト・カゥンティ・エッグとハイランデール・ファームズが生産したものだ。

サルモネラ汚染の、1,300症例が報告されている。吐き気、嘔吐、下痢、そして影響を受けやすい人々の場合には、死亡を招く。過少報告のおかげで、実際の症例の数値は40倍はある可能性がある。

そして火曜日には、世界最大の食肉生産者タイソン・フーズが加工した、171トンのスライスした冷製の調理済み肉が、全米のウォルマート店舗からリコールされた。スライスした冷製の調理済み肉は、吐き気、頭痛、首の痛みや、死にいたる可能性もある回旋病をひき起こす可能性のあるバクテリア、リステリアに汚染している可能性があるのだ。

一週間で立て続けに事件が勃発したのは単なる事故ではない。過去三十年間にわたるアメリカ産業の着実な規制緩和の結果なのだ。ジミー・カーター以降、あらゆる民主党、共和党政権による、政府の官僚主義が資本主義“自由市場”の“見えざる手”の邪魔をするという主張が、基本的な安全、環境、金融規制法規の基準と施行の後退を促進させたのだ。

その結果がこの社会的大災害だ。大手銀行による抑制のない詐欺行為から生じた2008年に勃発した金融危機から、安全法規や環境法規を踏みにじって、生じたBPのメキシコ湾石油災害や、食糧供給における汚染まで、アメリカ国民は極めて強欲な企業権益に翻弄されている。今年には、安全、衛生法規違反で再三召喚されていたウエスト・バージニアのATマッシー炭鉱で、過去40年間で最も破壊的な炭鉱災害が起きた。

こうした出来事の全てにおいて、社会的犯罪人が労働者を容赦なく搾取し、それと知りながら、市場を不良で危険な製品であふれさせるという、企業の犯罪性が大きな役割を演じている。名目的にしか企業を規制しない政府省庁そのものとの協調関係を享受しているので、彼等は刑事免責という状態でそうしているのだ。

ここで問題になっているのは、ライト・カウンティ・エッグの所有者で、労働法、衛生法や環境法違反で長たらしい記録を有するオースティン“ジャック” デコスターだ。1996年、デコスターは、当時の労働省長官ロバート・ライシュが“私が目にした中でも、最悪の違反”だと呼んだものに対して、200万ドルを支払わざるをえなかった。アイオワ“搾取的農場”での違反には、労働者を“ネズミだらけのトレーラーに住ませ、素手で糞や死んだ鶏を処理させた。”ことも含まれているとライシュは語っている。

2001年、デコスターは、彼の会社が、11人の不法滞在のメキシコ人女性労働者を、上司による強姦や性的暴行を含む“性的に好ましくない労働環境”にさらしたという、雇用均等委員会による告訴に対し、150万ドルで和解した。デコスターはわずかな賃金しか支払わず、不法滞在移民を情け容赦もなく搾取していることで悪名が高い。

YouTubeに投稿されている、デコスターが所有する養鶏場や、他社が運営する同様な加工ラインの作業のビデオは、にわとりが腐敗した鳥の死骸と一緒に、かごの中に詰め込まれている様子を映し出している。

そうした環境は例外ではなく、お決まりなのだ。“ほとんどあらゆる畜産場を検査するという必要条件は皆無なのです。七面鳥や、鶏や、豚や牛の検査は全く必要条件ではないのです。” 家禽医でアイオワ州立大学の研究者ダレル・トランペルはフード・セフティー・ニューズに語っている。“この国における法的な要求だけの問題ではありません。”

表向き、検査が必要とされる場合でも、本気の監督や施行は、事実上無いに等しい。予算が過去十年間に半減され、今や350の食品製造施設に対して、一人の検査員という能力しかない。

保健社会福祉省 (DHS) 監察総監室 (OIG)の最新の報告で、 アメリカの全食品生産工場の半数以上が、『ジャングル』刊行の余波の中、創設された連邦政府の機関食品医薬品局(FDA)による検査を一度も受けないまま、五年もたっていることが明らかになった。FDAが違反を発見した場合ですら、違反の実績がある企業に対しても含めて、対策をとることはまれだ。

FDAは、食品汚染を発見した場合に、リコールを命じる権限さえ持っていない。“自律”という精神を踏まえ、違反している企業に対し、自発的にリコールをするよう要求することができるだけだ。

その結果が、疾病対策予防センターによると、汚染した食品を食べて、毎年約8100万人のアメリカ人が病気になり、300,000人が入院し、9,000人が死亡しているという状況だ。

何千万人もの消費者の中毒は、食品生産工場における残酷な労働条件と直接結びついている。『ジャングル』の主人公、リトアニア人移民のユルギス・ルドクスは、現代の食品工場では、何十万人ものメキシコや中米の移民労働者に置き換えられている。

多くは、鋭いナイフで、反復して斬る動作の結果として、毎年職場で、数がわからないほどの人々が怪我をし、不具になっている。こうした負傷は、通常、企業勤務の医師が隠してしまう。政府説明責任局が、2005年に指摘しているように、職業安全衛生管理局(OSHA)には“OSHAが、雇用者に対し、危険をひき起こす原因だとして引用することが可能な特定な基準もなければ”“[食肉処理] ラインが稼働すべき適切な速度を評価する”手段も無いのだ。

ところが、シンクレアの時代とは対照的に、現代の食品加工産業の恐ろしさは、マスコミやら、既成大政党のどこでも、ほとんど何の波紋も呼びはしない。最近の集団中毒によって、食品産業を管理する新たな改正を実施しようという声があがることはなかった。

オバマ政権によって最近施行された卵生産に関する新たな法規は、事態を改善するようなことは一切するまい。特に重要なのは、新法規が、イギリスでは、人のサルモネラ感染症例を95パーセント削減することが認められている対策である、鶏に対するサルモネラ予防接種という要求を除外していることだ。

現代ほど、アメリカ大企業エリートや金融エリート支配者が、これほどまで傲慢で、歯止めの利かない権力を振るったことはない。前世紀始めの数十年には存在していたような改革志向のリベラルなインテリの消滅が、社会的不平等の大幅な増大や、経済的階梯の最頂点における富の集積、そして、長く続く、加速化した、労働者階級の社会的地位の低下と連動して進行したのだ。

この過程で労働組合幹部は極めて重要な役割を果たしてきた。多数の食品労働者の闘争における、労働組合の裏切り、組合つぶし、賃金引き下げや、作業速度の加速に対する彼らの協力が、シンクレアが一世紀前に暴露した労働搾取工場状態の復活を招いたのだ。

こうした社会的な恐怖は資本主義制度そのものに根ざしている。世界中の何十億の人々が、生産、流通と消費という複雑な複雑な関係でつながっている現代の大衆社会は、経済生活の主要な手段が、私的に所有されており、金融界と、実業界の支配階級連中による莫大な資産の集積の下位に属するような制度とは、決して両立しない。

労働者が事態を掌握するまでは、また掌握することなしには、社会に対して破壊的な私企業の慣習が止むことはないのだ。労働者階級は、金融エリーの財産、特権と権力に真っ向から挑戦し、金融エリートによる社会支配を終わらせなければならない。労働者階級は、労働者による民主的管理による食料と農業関連事業の大企業国有化を含む社会主義プログラムの下で団結し、独立した政治勢力として、組織化しなければならない。

Tom EleyとBarry Grey

著者たちは下記記事もお勧めする。(英語原文)

Egg recall exposes unsafe US food supply

[2010年8月25日]

Tainted egg sicken thousands across US

[2010年8月21日]

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/aug2010/pers-a26.shtml

----------

こういうアメリカを賛美する「あんたの党」(自民党も、民主党も基本的には似たようなものだろう)が躍進する国に否応なしに暮らしているわけだ。

アプトン・シンクレアの代表作『ジャングル』松柏社から翻訳本が刊行されている。

3K労働のひどさ、労働組合に対する破壊工作、そして最近の住宅ローン破産、まるで現代の話。労働者の状況、100年たってもさほど変わっていないことが良くわかる。

ジャングル』刊行時、大本営広報部として機能するばかりのマスコミのひどさにあきれたアプトン・シンクレア、マスコミを批判する本『ブラス・チェック(邦訳題名:真鍮の貞操切符) 』を自費刊行した。

マスコミのプロパガンダ機能も、100年前から、変化する理由も皆無。

口蹄疫についてはしつこいほど報じても、アメリカの卵・肉リコールは、ほとんど報じない。

『ブラス・チェック』のごく一部を、『クリスマスの手紙』「百万長者対貧乏作家」として翻訳、ブログに掲載してある。マスコミは昔から、大企業・権力者の声を伝える拡声器のようだ。

Democracy Nowで、この話題を扱ったインタビューが見られる。(読める)
過去最大数の卵を店頭から回収 大規模農業への警戒再燃(ただし英語)

アプトン・シンクレアのもう一つの代表作『石油!』平凡社から翻訳が刊行されている。映画化もされている。

映画版『石油!』、いくつか評価を読む限り、原作から大きく逸脱した駄作のようだ。

ちなみに我が家、大いに貧しいが、家人はアメリカ産というシールのある肉も野菜も購入を避けている。(恥ずかしながら牛肉を購入できる家計ではない。)

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コメント

ugg boots様へ
書き込まれているURLをクリックすると、確かにugg bootsなる靴会社のwebが見られます。
しかし、話題とは関係ないページと思われるので、下記urlは削除します。
http://www.uggbootsinde.com/
ご覧になる方にとって、時間の無駄でしょう。
当方、靴の販売業ではなく、ブーツをお買い求めになる方が、こちらにおいでになるはずはないので。

日本でも朝鮮半島系の人々や中国系、現在では東南アジア人も含まれていると思いますが支配階級と言う物は何処でも民衆の不満を少数民族等の弱者に向ける手段で自己の犯罪を隠す手段を使う事が好きなようですが、其れに何時も騙される庶民と呼ばれる人間集団にも呆れています。

お元気ですか?私の状況は-----最近月々の健康保険料費が400ドルとなり保険料捻出の為クリエイティヴな資金稼ぎ(私は企業戦士ではなくヒッピーですので)をしなくてはならなくなり忙しくってブログの記事翻訳が出来なくなっていますが------------。

 恐らく何処でも同じだと思いますが善と悪が戦うアウラマツダとアーリマンの話は太古から人間社会に存在しているようですね。
 アメリカで19世紀末から盛んになった労働運動はヨーロッパからの労働移民がアナキズムとか社会主義思想を現実社会に持ち込んだことも大きな原因とされているようですが、白人ブルジョワ支配層は其れを上手く利用して反アナキズムプロパガンダで良く手製の爆弾等を手にした東欧諸国からの移民をポスターにしたりしていた様です。中国人もスケイプゴートにされ(カリフォルニアでは中国人のすむ町が白人に攻撃され殆んどの住民が虐殺された事件もあったようです)其の後日本人が利用され現在はアメリカの社会生活を違法労働者として支えている中南米ラテン系移民が其の役割を負わされている様です。
 日本でも朝鮮半島系の人々や中国系、現在では東南アジア人も含まれていると思いますが支配階級と言う物は何処でも民衆の不満を少数民族等の弱者に向ける手段で自己の犯罪を隠す手段を使う事が好きなようですが、其れに何時も騙される庶民と呼ばれる人間集団にも呆れています。
 此のサルモネラ問題もアメリカの大きな問題の一部で、勿論、根本問題はアメリカがファシスト化し(企業と政府が合体する事が特徴)彼等のプロパガンダが成功した事によるのですが(庶民は民主主義とは共存出来ない軍隊と同じハイエラルキー組織である企業が問題の原因である事に気付いていない)----------企業の国有化も行き過ぎるとソ連の様な事になる可能性もあるので企業に代わってアナキズムスタイルのCooperativeは如何でしょうか?

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