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2010年6月27日 (日)

ワールド・カップと南アフリカ

2010年6月26日

サッカーと、ごみごみしたスラム街、決して互いになじまないものとは言えない。ほこりの中でゲームをしている多数の裸足の子供たちにとって、ボールを扱う技能は、貧困から脱出する方法の一つと考えられている。ゲームを見ている多数の人々にとって、ゲームは、日々の困難や、生活上の欲求不満に対する束の間の休息になる。

選手やファンは、改装されたケープタウン空港から贅沢なホテルまで、高速道路を疾走する際に、百万人以上が暮らす無断居留地を通り過ぎるが、この富と貧困の不毛な対比にはなんら新しいものは存在しない。新しいものと言えば、切符売り上げ、テレビ放映権、スポンサーから、ワールド・カップが生み出す収益の規模と、政治家や実業家たちが、ファンの情熱を利用する、ひねくれた態度の規模だ。

世界サッカー運営組織のFIFAは、トーナメントで、30億ドルの純益を生み出せると期待している。この金の一銭たりとも、開催国の国民に還流することはない。南アフリカ人は、トーナメント実現にかかった推計40億ドルを、今後長期にわたって支払うのだ。もしこの数値が曖昧に見えるのであれば、提案書を作成する経営コンサルタントが、こうしたイベントの経費をいつも過小評価するためだ。

同様に、収益も過大評価されるのが普通だ。FIFA会長のゼップ・ブラッターは、ワールド・カップを主催することで、何百万人ものアフリカ人の暮らしが変わるだろうと主張している。イベントは、国際的レベルのスポーツ・スタジアムという遺産、新たな職、より良い交通機関を残すものと期待されている。

南アフリカ人間科学研究会議のウデシ・ピリーは、建設で、わずか150,000の職が生み出されたと推定している。それも短期的なものでしかない。長期的な職は全く生み出されておらず、多くの交通機関も、基本サービスが欠如しているスラム街ではなく、裕福な地域がその恩恵を受けるのだ。

期待されていた観光の嵩上げすら実現していない。当初予想では、75万人の客がやってくるだろうと考えられていた。現在その人数は、200,000人程のようだ。

対照的に、アメリカ企業が新たなバイヤーとして出現し、FIFAはテレビ放映権だけで、35億ドルを得る。全世界では260億人が見るものと予想されている。ウォルト・ディズニーが所有するESPNとABCは、2010年と2014年ワールド・カップのアメリカでの放送権に、1.5億ドルを支払い、アメリカ国内のスペイン語放送権として、ユニビジョンは、3.25億ドル支払った。

サッカー・ビジネスは近親相姦的なことでもある。ゼップ・ブラッターの甥、フィリップ・ブラッターは、マッチ・ホスピタリティーという企業の主要投資家だ。この企業は、トーナメント前に、入手可能なあらゆるホテル宿泊設備の三分の一を予約した。同社は、期待された多数のサッカー・ファンに、10倍の価格で部屋に宿泊させようと計画していたのだ。

売り上げが期待していた数値よりも少ないことが判明すると、同社は400,000室以上を返却した。その頃には、もはやホテルが他から予約を受けるには遅すぎた。

公式にワールド・カップと提携しているナイキやマクドナルド等の世界的企業は、膨大な利益を得る立場にある。目抜き通りに店舗をかまえる高級品店やオンライン小売業者やスーパーマーケット等の直接関係していない企業すらもが、収益増加を享受している。

南アフリカの企業は、素早く一枚加わった。南アフリカの化粧品会社オプティファイは、イギリス選手の夫人やガールフレンドを、慈善イベントに招待した。お返しに、金遣いの荒さで悪名高い女性たちは、全員デザイナーブランドの服、靴、化粧品やサファリのセレクションを貰えるのだ。

“イギリスに対する南アフリカのもてなしを示したいのです”と同社広報担当者は語っている。“ですから、イギリス選手のパートナーの方は全員、弊社のカクテル・イブニングで、100,000ランド(13,000ドル)の価値がある品物が入ったお楽しみ袋を受け取れます。”

ワールド・カップ施設建設にまつわる賄賂についての申し立てがなされている。南アフリカサッカー協会副会長ジミー・モフララは、ムボンベラ・スタジアム建設をめぐって疑問の声を上げた後、自宅で射殺された。

基本的には、5つの新スタジアムが、維持費ばかりかかる無用の長物として残されることになる。準決勝会場となる予定のグリーン・ポイント・スタジアムは60,000席の収容力を誇る。しかし普通の南アフリカ・リーグのゲームは10,000人程度の観客しか集められない。これには6億ドルもの経費がかかっており、現地の人々はFIFAが町を去ったずっと後もつけを払いつづけるのだ。

近傍のアスロン黒人居住区のスタジアムを改装するという、より経費の安い案は、テレビ放映の際に、テーブル・マウンテンを背景に入れることができるという理由で、FIFAがグリーン・ポイントを主張して外された。アスロンは練習設備として使われてきたが、新たな交通手段は皆無だ。

わずか0.5パーセントの切符がアフリカ人に販売されたに過ぎない。FIFAの公式切符販売システムにアクセスできる、インターネット接続や、クレジット・カードを持っているアフリカ人は稀だ。

サッカーが国技のようなナイジェリアでは、わずか700枚の切符が売れたに過ぎない。一番安い切符で20ドルだ。3月に市場調査局が発表した数値は、75パーセントの南アフリカ人は、収入が一日20ドル以下であることを示している。非公式経済で働いている人々や失業者の収入はもっと低い。ギャラップ調査では、35パーセントの南アフリカ人が、2009年のどこかの時点で、十分な食べ物なしで過ごしていたことが明らかになった。

ワールド・カップは、新たな仕事を生み出すどころではなく、南アフリカ経済で最も大きな部分である非公式経済で働いている人々の多くの暮らしを脅かしているのだ。通常は、南アフリカにおける都市交通手段の大半を提供しているタクシー運転者は、特別高速バスによって、行き場をなくされた。市場は、モールに場所を譲るべく、取り壊された。露天商は、会場近辺での営業を禁じられている。FIFA公認商品だけが販売可能だ。FIFA私服警官が絶対命令が守られていることを確認してまわっている。

FIFAゾーンは、国の中の国といった性格を帯びている。トーナメント期間中、ゾーンは南アフリカ国旗に対してさえ、権利を主張した。

そうした企業や関連企業の活動は、大半が南アフリカの法律から免れる。公認された企業は、売上税、所得税、為替規制や関税から免除されるため、“税金バブル”がワールド・カップ会場周辺で起きている。

スタジアムのどれかで群衆が殺到し、ファンがおった負傷のようないかなる法律上の要求についても、FIFAは責任を負わない。国家資金は、莫大な儲けを生み出す事業に振り向けられている。約40,000人の警官が追加採用され、警官は新たな武器と、戦闘車輛を与えられている。

テロ攻撃等の事態が起きた場合、必ず病床が使えるようにするため、病院はカラにさせられた。BBCは、ケープタウン、サマーセット病院の産科病棟屋上に100万ポンドのスタジオを建設した。

このビルの一部は文字通り崩落している。新スタジアム、最先端のスタジオと、崩壊しつつある病院との対比は、余りに歴然としている。

会場最寄りのスラム街やホステルは立ち退かされ、住民たちは、ティン・キャン・タウン(空き缶町)として知られている、ブリッキースドープ等の臨時収容所に囲い込まれている。そこでは、一つの家族がトタン葺きの小屋に押し込まれている。

ケープ・フラッツにある現場は、砂だらけで、吹きさらしの荒れ地で、掘っ建て小屋は極端な暑さ寒さをほとんど防げない。水道やトイレは四家族共同だ。

そこに仕事はなく、ケープタウンまで、32キロも通勤できるような人はほとんどいない。夜には警官が居留地を見回り、屋外にいるのが見つかった住人を威嚇する。

ブリッキースドープは、厄介な連中を捨てるごみ廃棄場として描かれてきており、虚構の『第9地区』にさえなぞらえられている。ワールド・カップが行われている、贅沢な閉ざされた世界の反転画像なのだ。

南アフリカにおけるワールド・カップの興行全体が、資本主義というものは、人間の生存にとっての基本的必需品さえ、提供することはできず、スポーツや他の文化的活動を、儲けのためにだけ利用するものであることを、はっきりと示している。

Ann Talbot

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/jun2010/pers-j26.shtml

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不思議なナショナリズムを生みだすイベントの一つ、FIFAサッカー報道の中、日露戦争当時、夏目漱石が書いた『三四郎』にある、上京する列車の中で出会った男との対話ハイライトを再度引用しておこう。

    「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、「滅びるね」と言った。

江戸の仇を長崎で、というわけでもあるまいが、宗主国に恫喝され、基地問題を放置したままサッカー勝利でつかのま我を忘れても、属国状態は65年間深化し続け、ねじれるばかり。

確かに、

ゲームを見ている多数の人々にとって、ゲームは、日々の困難や、生活上の欲求不満に対する束の間の休息になる。

のだろうか?スポーツに関心がない小生には、残念ながら分からない。そこで、サッカーもお好きであろうと思われる方(本田成親氏)が書かれた「マセマティック放浪記」記事の中から以下、一部を引用させていただこう。

斜めから見たサッカー観

もう何十年も前のことだが、サッカー先進国イギリスの作家ジョージ・オーウェルは、サッカーに熱狂する人々の心理背景を鋭く分析した「The Sporting Spirit」という一篇のショートエッセイを発表した。名作「アニマル・ファーム」において、ロシア革命と革命政権の悲惨な前途を強烈かつ的確な風刺をもって描写し予測してみせたこの作家ならではのサッカー観が、そこには皮肉たっぷりな筆致で語り綴られているのである。ずいぶん昔の作品であるにもかかわらず、昨今のワールドカップ狂騒劇にもそのままぴったり当てはまり、なるほどと納得させられるところも少なくないので、そのサッカー観をすこしばかり紹介してみることにしたい。
  あるとき、旧ソビエト連邦のサッカーチーム、ダイナモスが親善試合のために渡英し、イギリスの名門チーム、アーセナルやグラスゴーと対戦したが、アーセナルとの試合では途中で両チームの選手同士で殴り合いとなり、観客のほうも騒乱状態に陥った。また、グラスゴーとの試合は最初からなんでもありの凄まじい乱闘模様となり、友好親善どころの騒ぎではなくなった。
  さらに、ソ連人たちは「アーセナルは事実上全英チームであった」と主張し、いっぽうの英国人たちは「アーセナルは全英チームなどではなく一リーグチームに過ぎなかった。ダイナモスが予定を切り上げ急遽帰国したのは、全英チームとの対戦を避けようとしたからだ」と主張した。そのため、こころある人々は、このようなサッカー親善試合は尽きることのない憎悪の根源となるばかりで、英ソ関係をますます悪化させ、両国間に新たな敵対意識を生みもたらすだけだと蔭で囁き合ていたという。
  そんな状況下にあって、オーウェルは、「サッカーのようなスポーツは国家間の友好と親善を深め戦争を回避するのに役立つ」などと真顔で唱える人々の気がしれないと公言してはばからなかった。国家や民族の威信がかかる関係上、相手を完膚なきまでに打ちのめして勝つことにこそ意義があり、敗れたら体面を失い屈辱をこうむることになるとするスポーツでは、必然的にもっとも野蛮な人間の闘争本能が喚起される。だから、国際間でおこなわれるサッカーのようなスポーツは擬似戦争そのものにならざるをえないというのである。
  オーウェルはまた、ほんとうに問題なのは、試合における選手たちの野蛮な行為そのものよりも、見方によっては馬鹿げてもいる試合に熱狂興奮し、たとえ一時的ではあっても、懸命にボールを追いかけそれを相手ごと蹴りまくることが国家美徳の証であると信じてやまない観衆や、その背後にある国民のほうだとも述べている。

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