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2010年5月20日 (木)

インド人作家アルンダティ・ロイ、対テロ法による告訴の脅威にさらされる

Kranti Kumara

2010年4月26日

 

東部インド・チャッティースガル州警察はブッカー賞を受賞した作家、エッセイスト、人権活動家のアルンダティ・ロイを、同州の厳格な対テロ法によって告訴する“可能性を調査”している。

 

3月29日号のアウトルック・インドに掲載された記事で“毛沢東主義派を賛美している”としてロイを非難する、ヴィスワジット・ミトラなる人物の告訴に応じて、警察はロイの調査を開始した。それは“同志との歩み”という題名の、主として部族民、つまりインド先住民が暮らす、森林高原地域高地ダンダカラニヤに、毛沢東主義派ゲリラ達と話し、彼らの活動をその目で見るべくでかけたロイによる、33ページにわたる秘密訪問記事だ。

 

ミトラは自分は“一般市民”だと主張している。しかし彼はインドでも人口最大の州ウッタル・プラデーシュの与党バフジャン・サマジ党BSPの現地指導者だと言われている。

 

チャッティースガル州の警察長官(DGP)ヴィスワ・ランジャンは、マスコミにこう語った。“更なる対策を講じる前に、まず本件を調査することが必要だ。… 法律専門家たちに、意見を述べ、結論を出すよう依頼してある。"

 

ミトラの常軌を逸した反民主主義的“苦情”には意義があると、警察長官(DGP)が考えていることは、彼の更なる発言で裏付けられる。ランジャンはこう言ったのだ。“アルンダティ・ロイが、他の連中によって悪影響を受けたのか、あるいは彼女が実際に市民社会にまぎれこんだスパイなのか私にはわからない。どうして私がわかるだろう?"

 

ロイは、チャッティースガル州の悪名高い特別公共Security Act (2005)略称CPSAに基づく起訴で脅されている。ヒンズー至上主義者であるインド人民党(BJP)によって起草されたこの法律には、“違法な活動”に関する見境のない定義があるのだ。

 

この法律の条項によれば、“公共の秩序”に対し“危険や懸念をもたらす”あるいは、“法の執行政権”に対する“障害となりがちな”行為、あるいは、書面の通信文でさえ、あるいは、いかなる法律、あるいは“法律によって定められた”規定への不服従を“奨励する”ものは違法であり、七年間の懲役刑となりうるのだ。

 

CPSAは、インドや国際的な公民権擁護団体によって、大いに非難されている。反対する諸団体は、法律の真の狙いは、その組織が既に2004年に禁止されている、毛沢東主義派武装反抗勢力ではなく、民主的権利を踏みにじり、毛沢東主義派の弾圧に無差別的な暴力を用いている政府や治安部隊を批判してきた、市民的自由を擁護する人々や、NGOやその他の人々なのだと非難している。半年前、CPSAを制定する前に、チャッティースガル州政府は、反政府武装反抗勢力を支持していると疑われた村を焼き払ったことを含め、無数の残虐行為に連座している、反毛沢東主義民兵のサルヴァ・ジュドム(ゴーンディー語で“浄化狩り”という意味)をたちあげた 。

 

東インド“部族ベルト地帯”の毛沢東主義派武装反抗勢力を巡り、政治とマスコミの騒ぎが高まるさなか、対ロイ攻撃が起きた。今月始め、インドの国民会議派主導連立政府が推進する、全国的に組織された対武装反抗勢力作戦、オペレーション・グリーンハントは、毛沢東主義派ゲリラが、チャッティースガル州ダンテワダ県で警官76名を殺害し、大きな挫折を味わった。(“インド政府、対毛沢東主義派・部族民戦争で挫折を味わう”参照:英語原文)

 

ダンテワダ襲撃の後、インドのテレビ局やマスコミ評論家によって、ロイや、鉱山、ダムや他の大企業の“開発”プロジェクトのために、彼ら伝来の土地を没収することに対する部族民の抵抗を弾圧することが本当の狙いだと警告して、オペレーション・グリーンハントを非難したエコノミック・アンド・ポリティカル・ウイークリー編集者等の人々に対する行動がとられるべきだというあらゆる種類の呼びかけが行われている。

 

P. チダンバラム内務大臣自身がこのキャンペーンをあおっている。オペレーション・グリーンハントを擁護し、インド・エリート層の、搾取的で、弾圧的な政策が、今、インド最大の部族地域を震撼させている武力衝突の主要な原因だと主張する人々を、テロ是認ではないにせよ、見て見ぬふりをしていると、彼は繰り返し非難してきた。

 

4月15日、インド連邦議会上院ラージャ・サバーでの演説でチダンバラムは言った。“人権団体やNGOは、夢の世界に暮らしていて、現実を直視してないと私は考えている。もしも[インド共産党毛沢東主義派が]既存政権を打倒して、権力を握ったら、彼らは、いかなる人権団体でも、この国で活動することを許すだろうか? 彼らは、いかなるNGOでも、この国での活動を許すだろうか? 議会は存在するだろうか?”

 

内務大臣は更にアルンダティ・ロイをけなした。激昂の余り、チダンバラムは問うた。“33ページの記事を書いた連中全員が、33ページの記事を書くことを許されるだろうか? 33ページの記事を掲載する雑誌があるだろうか?”

 

何よりも、チダンバラムは、チャッティースガル州のBJP政府に、ロイの捜査を即座に中断するよう要求せず、まして、それが彼女を脅し、告訴しようとする企みだと非難するどころではなかった。

 

もしロイが、インドのブルジョア支配者集団の憎しみを買ったのだとすれば、それは彼女が、部族の人々に開発と民主主義を押しつけるために戦争をしかけるという、連中の偽善的な主張を率直に否定し、台なしにしたためだ。有能な作家である彼女は、インド国家によって遺棄され、虐待されてきたインド先住民の窮状を感動的に語り、チャッティースガル州と東部の部族ベルト地帯全体を巡る自らの決定を、インド政府が強く主張する動機の背後にあるその基本的権益を詳しく説明している。

 

ロイはこう書いている。“過去五年間ほど、チャッティースガル州、ジャールカンド州、オリッサ州と西ベンガル州の政府は、企業と、全てが秘密の、鋼鉄工場、海綿鉄製鉄所、発電所、アルミニウム精錬所、ダムや鉱山に関する、数十億ドルもの価値のMOU(合意覚え書き)に調印している。MOUを本物のお金に変えるためには、部族民たちを移転させねばならない。だから、これは戦争なのだ。”

 

ロイは、多くの場合、暴力的反抗も含む、部族民の国家に対する反対は、毛沢東主義派よりずっと昔からのものであるとし、部族民たちがこうむらされてきた何十年もの蛮行、怠慢と強制退去のおかげで、彼らのかなり多数に、毛沢東主義派の武装闘争の味方につくようにさせているのだと、正しい意見を述べている。

 

インド共産党毛沢東主義派の政治を扱う上では、彼女はさほど鋭敏ではない。しかし彼女が批判的でないとは到底言いがたい。

たとえロイが完全に毛沢東主義派武装反抗勢力を称賛しようとも、彼女のルポルタージュと意見は、憲法上、言論の自由にあたるはずだ。しかしインド・エリート層は、アメリカ・エリート層同様、民主的権利に対する大規模攻撃を正当化するため、過去十年間“対テロ戦争”とされるものをひき起こし、反対意見の人々を益々犯罪人化して扱っている。

 

ロイは、決してチャッティースガル州の過酷なCPSAに巻き込まれた初めての人物というわけではない。チャッティースガル州政府に批判的な多くの人々が、投獄されており、中には何年も投獄されたままの人もいる。この部族地域で活動し、政府が提供し損ねている基本的なサービスを行っているNGOの指導者やメンバーたちが、CPSAの下で逮捕と告訴の標的にされているように見える。

 

こうした犠牲者の中で最も著名なのは、最も虐げられ、政治的にのけものにされている人々に医療を施して人気のある医師ビナヤク・セン博士だ。彼はPeople’s Union for Civil Liberties (PUCL=人権擁護人民同盟?)という名のNGOの副代表だ。

 

セン医師は、投獄されていた毛沢東主義派の指導者を治療した後、2007年5月に逮捕され、ねつ造された容疑に基づいて、チャッティースガル州の中央刑務所で、二年以上拘留された。持続的な国内および国際的抗議キャンペーンによって、インド最高裁が介入し、彼を保釈するよう命じ、彼は最近釈放されたばかりだ。ところが、ビナヤク・セン医師に対する告訴の一つとして取り下げられておらず、インドの国民会議派主導の政府は彼を告訴することへの支持を示している。

 

2008年8月、“毛沢東主義派と関係している”という偽りの容疑で、チャッティースガル州の監獄で90日間暮らしたドキュメンタリー映画作家、ジャーナリスト、アジェイの釈放を祝う集会で、デリー大学社会学教授ナンダニは、この州に満ちている恐怖の度合いを語っている。報道機関は、CPSA法によって告訴されるのを恐れ、サルヴァ・ジュドムの残虐さにまつわる報道を控えるのが当たり前になっている。フリーの法律研究者ウシャ・ラマナサンは、条項を批判することが“違法”だという条項まであると、この法律の中世的性格を語っている。

 

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/apr2010/aroy-a26.shtml

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先住民の方に、全部押しつけるというシナリオ、基地問題も似たようなものでは。

 

長崎大学、谷川昌幸教授のブログに、直接関連した下記記事がある。

 

2010/04/19

ロイ,公安法違反容疑で告訴される

 

2010/04/11

アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(1) 注:(8)まである。

 

Democracy Nowにも、この訪問後の彼女のインタビューがある。2010/3/22付け 英語

 

Arundhati Roy on Obama’s Wars, India and Why Democracy Is "The Biggest Scam in the World"

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コメント

Arundhati RoyとVandana Shivaは印度の進歩派女性の中でも国際的に最も知名度の高い人達ですが日本では余り彼女達の活躍は伝えられていないのでしょうかねえ?
 処で、Third World Traveler (  http://thirdworldtraveler.com/index.html ) と言うサイト御存知だと思いますが若しご存知でなければ一度見てみて下さい。

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