ギリシャ債務危機が東欧・バルカン諸国の問題を悪化させる
Markus Salzmann
2010年5月26日
ギリシャの債務危機は東欧諸国を更なる圧力の下に追い込んでいる。大半の東欧諸国はユーロ圏でないとは言え、東欧諸国は危機の影響を直接受けている。
投資銀行モルガン・スタンレーのアナリストによれば、最も危機にひんしているのは、ブルガリアとルーマニアだ。ギリシャの銀行は、将来、バルカン諸国にある支店には、ずっと少ない資本しか供与せず、融資の規模を縮小するという懸念がある。
金融業界誌ザ・バンカーによれば、ギリシャの四大金融機関は、バルカン諸国で、20パーセント市場占有率をほこり、ブルガリアでは35パーセントにものぼるという。しかも、ギリシャ国立銀行、アルファ銀行、ピレウス銀行、EFGユーロ銀行と、ATE等の、ギリシャ銀行は、セルビア、マケドニア、アルバニア、ウクライナ、クロアチア、モルドバとトルコに多数支店を置いている。
もしもギリシャの銀行が、東欧の子会社から資金を引き上げれば、連鎖反応をひき起こしかねない。ギリシャ政府が、ギリシャの銀行に、昨年支払った国庫補助は、外国にある子会社の資本構成変更には使用しないよう求めたと経済アナリストは指摘している。
最新の数値によれば、ルーマニア経済は予想以上に縮小しているので、更なるIMF支払いを待っているルーマニアは、アテネによる融資の規模縮小によって、特に大きな打撃を受けるとアナリストは予想している。
格付け会社フィッチが指摘するように、ブルガリアの銀行もパートナー企業の資本に依存する部分が大きい。フィッチ社の東欧専門家エドワード・パーカーによれば、“ブルガリアには、低い所得水準のわりに、かなり大きな金融機関があるのだ”。
ブルガリアは、2009年の財政赤字が、GDPの3パーセントというマーストリヒト基準を初めて超えたため、ユーロ圏への加盟申請を延期した。多くの東欧諸国ではユーロ導入に関する疑念がひろがっている。多くの政府は、万一必要となったら、自国通貨を切り下げられる能力を保持したがっている。
“先週、東欧の債券市場で大規模な在庫一掃セールがあった。”世界銀行ウイーン支店の東欧エコノミスト、ユライ・コティアンが警告している。この影響で金利上昇と急激な通貨下落が起きる可能性がある。
東欧は一年前の危機に飲み込まれた。国際通貨基金とEUが、地域の崩壊を避けるため、ラトビア、ルーマニアとハンガリーを何十億ドルも支援した。いまやギリシャの危機がこれらの国々を倒産に追いやりかねない。
多くの東欧通貨の為替レートは、ここ数週間で急落した。ポーランドのズロチは過去二週間で約10パーセント下落した。ハンガリーのフォリントとルーマニアのレイも同様だ。
ワルシャワの中央銀行のヴィトルド・コジンスキ副総裁が、ポーランドはユーロ導入を再度延期すると発表した。単一通貨の導入は“最優先事項”とされていたのだ。昨年、ポーランドは、元々2012年に予定されていたユーロ圏加盟を、金融危機のため、既に延期していた。
債務危機の影響は、伝統的にギリシャと密接なつながりのある旧ユーゴスラビア諸国でも感じられている。最近ドイツの保守的な機関コンラッド・アデナウアー財団は、経済・金融危機の影響はクロアチアでも感じられており、“同様な傾向、つまり国家破産の脅威がありえるのかどうか”という疑問が提起されたと述べている。
既に2008年、クロアチアの経済成長は3パーセント以下に落ちていた。昨年の記録は約6パーセントもの低下で、クロアチア銀行のアナリストが今年は更に低下すると予想している。失業率は公式には約20パーセントとされており、実際の失業率は約30パーセントであることを示唆している。もう一つの重要な指標である海外投資は、2008年に比較して昨年の半分以上減った。
昨年、クロアチアの債務は160億ドルを越えた。これは国内総生産の約35パーセントだ。国家債務はわずか10年間で倍増し、2009年には17.9パーセント増えた。
東欧と同様、クロアチアの銀行は主に西欧金融機関が所有している。オーストリアとイタリアとドイツの銀行がクロアチアの金融機関の約90パーセントを支配しており、ギリシャ国債にはかなり深入りしている。もしも国債が帳消しになれば、クロアチアの金融機関にとって劇的な影響を及ぼすだろう。現在経済危機によってひどい衝撃を受け、自国通貨のディナールが強い圧力に直面しているセルビアも状況は同じだ。
同様に、東欧の危機はオーストリアの銀行に影響を及ぼす。“もちろん、オーストリアの銀行は再び影響を受けました”とウィーン比較経済研究所の東欧専門家ズデニェク・ローカスは語っている。1990年代以来、このアルプスの国は東欧とバルカン諸国に深入りしている。ウイーンの三大銀行、バンク・オーストリア、ライファイゼンとエルステ・バンクは、この地域で最大の貸し手だ。オーストリア国立銀行(ONB)によれば、2009年末、ブルガリア、ルーマニアとセルビアには、約350億ドルの未払い債務と他の未払い負債がある。
あるONBスポークスマンは債務不履行のリスクに触れ、ギリシャ政府がどこまで財政緊縮案を実行し、銀行を“最前線”から救い出せるか否かに大きく依存していると語った。
ギリシャ同様、東欧諸国も、ここ数ヶ月の危機の重荷を国民に背負い込ませようと、厳しくし始めている。国際通貨基金とEUは、賃金と福祉の削減を主張している。
一つの好例は、緊縮政策の結果、社会的インフラが崩壊しつつあるラトビアだ。ルーマニアでは、エミル・ボック首相が新たに、相次ぐ削減に着手した。ハンガリーでは、予算の整理統合がヴィクトル・オルバン首相の右派新政権の政策で最重要事項になっている。
旧ユーゴスラビアの貧困にあえぐ国々では、やはり腐敗したエリートが、銀行う救済するため、国民に血であがなわせることを決定した。ベオグラードは、同国が更なる支援を受けるための条件として、IMFから要求されている過酷な緊縮政策を巡って交渉中だ。既にクロアチアの“マーガレット・サッチャー”とあだ名をつけられたクロアチアのヤドランカ・コソル首相は、社会福祉支出のあらゆる分野における大幅削減を発表した。
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/may2010/east-m26.shtml
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東欧ではなく、ポルトガルのリスボンで「ギリシャに続け」と、緊縮財政に反対する大規模デモがおきている。
どこかの国では、基地を押しつけられても、当該県以外、抗議デモの兆しは皆無。
『牙を抜かれて』いる東海の小島の基地の白浜に...。
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