イラクでの殺戮とマスコミの無関心- 流出ビデオを商業マスコミは、ほとんど無視
FAIR - 2010-04-07
バグダッドで十人あまりのイラク人を殺害した、米軍ヘリコプターによる攻撃を撮影した2007年の流出ビデオテープが、4月5日、WikiLeaksウエブサイトで、公開された。ところが、大半の商業マスコミにとっては、それは全く報道する価値がないか、擁護されるべき不幸な出来事だった。
あからさまで物騒なビデオには、ヘリコプターのパイロットが、自分たちの攻撃に歓声をあげる声も入っている。ロイター社で働く二人のジャーナリスト、カメラマンのナミール・ヌール-エルディーンと、運転手のサイド・チマグも、攻撃で殺害されたが、アメリカ軍当局は、武装反抗勢力の活動への反撃だと主張した。WikiLeaksは、ビデオは軍隊にいる内部告発者から入手したと語っている。
しかし、ビデオの公表は、主要マスコミでは、通り一遍の扱いしかされなかった。ニューヨーク・タイムズ(10年4月5日)は、ビデオを以下の様に要約する、比較的詳しい記事を掲載した。
しかし、ビデオには、敵対的な行動は映っていない。そうではなく、街路を歩き回る人々の集団の光景で始まっている。WikiLeaksによると、その中にヌール-エルディーンと、チマグがいたのだ。パイロットは二人を武装反抗勢力と思い込み、ヌール-エルディーンのカメラを武器と見誤った。兵士たちは、集団を狙って射撃し、自分たちの殺人を楽しんだのだ。
"あの死んだやつを見ろよ" とあるパイロットが言うと、"いいね"と相手が答えている。
一人の負傷した男性が這っているのが見えるが、パイロットは、交戦規則の下で、再びその男性を砲撃できるように、その男性が自分たちをめがけて、射撃しようとしてくれるよう、じれったそうに願っていた。"お前は武器を手にしてくれさえすりゃいいんだよ"と、パイロットは発言している。
ヘリコプターは、一部の犠牲者を運搬しようとして現場に現れたバンにも砲撃した。タイムズは、二編の追跡調査記事を、4月7日に掲載している。
アメリカ軍兵士が、民間人を殺害し、負傷させている様子を撮影しているらしき流出ビデオは、大きなニュース記事になるはずだ。しかし、マスコミの大半は、どうやらそう思わなかったもののようで、ネクシス・ニューズ・データベースを検索しても、該当項目は、わずかしか見あたらない。
CBSイヴニング・ニューズ(10年4月5日)は、ビデオについて報じ、キャスターのハリー・スミスが開口一番こう言った。"戦闘のさなかは、物事は、必ずしも、見える通りのものではありません。" そして、特派員のボブ・オールが、正当化のようなことを言って終わった。"さて、少なくとも、ビデオからは、地上で攻撃された人々の中には武器を持たない人々もいたように見えますが、同じ日、普通の地域にいた、あるジャーナリストは、慌ただしく、激しく、楽ではない日であったというのを忘れないことが我々全員にとって大切だと語っています。"
CNNの番組シチュエーションルーム(=危機管理室という意味)(10年4月5日分)では、この局は、行われた砲撃を一切放送しないことにした。"殺害された二人のイラク人ロイター社員のご遺族に配慮したためだ"と、ペンタゴン特派員バーバラ・スターは説明した。(4月7日のタイムズ紙に、カメラマンの父親の発言が引用されている。"神は私の祈りにお答えになり、このビデオを世界に啓示して下さった.... このビデオを世界中に見せるためなら、家も、持ち物全ても、売りはらって良い。") スターは、以下のように続けた。
この出来事について調査が行われました。軍は、誰も過失を犯しておらず、空中にいた部隊には、空中にいたヘリコプターには、現場に、武装反抗勢力とともに、ジャーナリストがいるだろうと考える根拠がありませんでした。彼らは、近くにいたアメリカ軍兵士が攻撃されていたと言い、この砲撃は、その詳細を皆様にはお見せしてはいませんが、正当化されるものです。
軍が何らかの調査を行ったということは、正しくとも、スターが、一体どのようにして、犠牲者の誰かが "武装反抗勢力"だとわかったのかは不明だ。
パレスチナ・ホテルのジャーナリストに対する戦車による砲撃や、アル・ジャジーラと、アブ・ダビTVのバグダッド事務所に対する攻撃(FAIR Media Advisory、"殺害は、ペンタゴンの、対マスコミ政策の一部か?," 03年4月10日)を含め、イラクで活動しているジャーナリストへの、アメリカ軍の砲撃と殺害について関連する歴史についても、ほとんど論議がおこなわれていない。ビデオに映っているヘリコプター攻撃を擁護する人々は、アメリカ軍は、現場にジャーナリストがいただろうとは知ることができなかったろうと主張するが、これまでのこうした出来事は、マスコミ労働者の居場所が分かっていることで、必ずしも攻撃が防げるわけではないことを示唆している。
ビデオに関しては他の報道もあった。たとえば、MSNBCのディラン・ラティガンは(10年4月5日)、元軍将校だった、サロン誌のグレン・グリーンワルドと、WikiLeaksのジュリアン・アサンジとの長い対談を司会した。デモクラシー・ナウ! (10年4月6日)でも、アサンジと、グリーンワルドとの対談を司会した。ナショナル・パブリック・ラジオは、4月6日に二つの報道を放送した。しかし、それ以外のマスコミは、この話題をどうしたのだろう?
このニュース、2月に、アフガニスタン駐留の特殊部隊が、急襲した家の中で、女性三人を含む5人の民間人を殺害したことが発覚したすぐ後に起きた。NATO軍は、当初この女性三人は、現場で死んでいるのを発見されたと主張していた。ロンドン・タイムズは報じた(10年4月5日)アフガニスタン捜査当局によれば、"しくじった夜襲の直後に、アメリカ軍特殊部隊の兵士たちは、上司に起きた出来事について嘘の報告をする前に、犠牲者の死体から銃弾を取り出してから、傷をアルコールで洗浄した。"
いずれの出来事も、むろん、更なる精査が必要だ。これまでのところ、アメリカの商業マスコミは、ほとんどこの出来事を無視している。
WikiLeaksビデオを見る:http://www.collateralmurder.com/
記事原文のurl:www.fair.org/index.php?page=4057
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日本のマスコミ、アメリカとは、全く異なり、連日しっかり、ロイター社カメラマン死亡事件について報じている。
ただし、タイでの話。上記の、2007年、日本が兵站支援の為、空軍を、またサマワには、陸軍を派兵していた、イラクにおけるロイター社社員の出来事では、もちろんない。
いくら犠牲者はイラク人だとは言え、莫大な税金が、投じられている違法な戦争での、明らかな殺戮。事件の重大さ、ひけをとるまい。
同じ比率で、話題にしてくれたら、有り難いと夢想している。
かつての日本に対する空爆被害については、某新聞、詳しい記事が掲載されている。素晴らしいことだ。
アフガニスタンの爆撃についても、同じぐらい話題にして頂けると、本当に素晴らしいことだと思う。
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WikiLeaksの問題のビデオを見ました。ビデオゲームのように自分たちは安全な状態で無防備の人達を殺戮するビデオでした。ただここで興奮気味に銃を連射する声だけ出演する兵士達を「人非人だ」と平和な日常生活を送る自分が批難することはできないようにも思いました。なぜならこれは「テロとの戦争」という「本来成立しえない戦争」の真の姿だろうと思うからです。軍隊というのは相手国の正規軍に対して戦うことを目的に組織され訓練されているものであって、テロに対処するのは「警察の仕事」だと私は考えます。兵士にとって一般人と区別できない相手と戦争をさせられたらこのビデオのように人を殺すしか戦争の仕様がありません。テロは戦争では解決できないのであり、「テロリストは警察が取り締まり、テロの原因になっている政治問題は政治家が解決する」のが正しい対処法だということなのだと思います。
一方で圧倒的な力を持つ征服者から自由を守るための戦いは常に征服者の側から見れば「テロとの戦い」だった、というのが歴史の真実であるようにも思います。西部開拓時代のインディアンとの戦いは騎兵隊から見れば「テロとの戦い」だったでしょうし、それ以前のアメリカ独立戦争はイギリスから見れば「テロとの戦い」だった時期があったはずです。結局一般人相手に軍隊が戦争をするから絶滅するまでインディアンを殺してしまうことになったのでしょう。このビデオは二千年来歴史上形を変えて行われてきた様々な「テロとの戦い」の象徴のように見えてしまったのは小生だけでしょうか。
投稿: rakitarou | 2010年4月16日 (金) 19時13分