テロという謎
Philip Giraldi
2010年1月20日
"Antiwar"
9/11の影響が残る中、アメリカ政府がすることなら、ほとんど何でも、国民は受け入れた。議会やマスコミからの不満のつぶやきもほとんどなしに、アメリカ人が200年以上享受してきた自由を、制限する愛国者法が、速やかに可決された。ジョージ・W・ブッシュは、自分の安全保障原理は、ホワイト・ハウスが脅威と認識する、いかなる国家に対しても、どこであれ、いつであれ、アメリカ合州国が、先制攻撃をする権利であると規定して、世界に、宣戦布告した。ブッシュは、彼の政権は、彼がテロリストだと定義するものが見つかった所どこへでも、軍事力や諜報機関を用いて介入すると宣言して、グローバル対テロ戦争も布告した。アメリカ人に、国民を、より安全にするために、政府が何かをするのだからと、安心させながら、同時に、国民から、多くの基本的な権利を奪い、戦争行為が、これまで最も重大な犯罪としてとがめられていた国際秩序を逆さまにする悪魔の取引だ。
そもそものはじめから、議会や主要マスコミにすら、落ち着くように呼びかける声があったにも関わらず、彼等は復讐を強く求める連中に圧倒されてしまった。間もなく、復讐は、破滅的なイラク侵略へと至る、多数の無分別な政策へと変身した。2010年の視点から、あの頃を思い返せば 当時国民を突き動かしてていたものは、恐怖であったことがわかるだろう。恐怖こそが、アメリカが、間違った暗黒の道へとを進むことを可能にしたのだが、その恐怖自身が、政府内部にいる連中によって定期的にひき起こされる、テロという姿のない脅威によって、あおられていた。
不幸にして、9/11以来、ほとんど何も変わっておらず、バラク・オバマのアメリカで、目を閉じれば、今は2001年で、ジョージ・ブッシュが依然として大統領だと想像するのも容易だろう。アメリカ兵士達は、イラクで身を潜め、アフガニスタンには増派され、イエメンやソマリアのような場所への介入準備が整っている。今のほうが、ジョージ・W・ブッシュ政権下でよりも、一層頻繁に、パイロットが乗っていない無人飛行機から発射されるヘルファイア・ミサイルが、パキスタンの部族民たちの上に、雨霰と降り注がれている。グアンタナモ刑務所は依然として運営されており、バグラム刑務所は、新たなアブグレイブとなることが約束されている。しかも依然、全ての過程を推進するため、恐怖が利用されている。アメリカ人に対し、継続するグローバル・テロの脅威を警告する、ホワイト・ハウスの、いかめしい言葉で。
多くのアメリカ人は、実際そうであった通り標語作りだ、バンパー・ステッカーによる安全保障政策だ、と認識して、ジョージ・ブッシュのグローバル対テロ戦争には、はなから懐疑的だった。テロというのは国家でもなければ、集団でもない。テロというのは戦術なのだ。テロというものは、人類がお互い殴りあう為に、最初に石を拾い上げて以来、存在してきたものだが、現代的なものとしては、1940年代、パレスチナで、ハガナやスターンのような集団が、イギリスを追い出すため、キング・デビッド・ホテル等の民間標的を攻撃するのに使って発達した。次に、イスラエルという発生期の国家が、パレスチナ・アラブ人に対し、自宅から強制的に退去させる為、これを用いた。テロというのは、現地住民の志気を挫き、抵抗する力を弱めるため、民間標的を攻撃することだ。
従って、テロリストというのは、テロを行使する「誰か」でなければなるまい。まあ、ある種の定義ではそうだが、実際はそうではなく、テロリストという言葉は、究極的には、対テロ啓発にすぎない。テロを行使する集団は、ほぼ確実に、より広範な政治課題を支持する為に、戦術を駆使している政治組織である、と見なす方が遥かに有用だ。この真実を認識すれば、政治の風向きさえ変われば、今日のテロリストが、明日は政治家になりかねない、という言い古された言葉となる。ヒズボラの様に、現在、あるいは、かつて、世界から“テロリスト”と、見なされていた集団の、幾つかの例を見るのが有益なことがある。イスラエルによる南部レバノン占領に抵抗したがゆえに、ヒズボラは人目を引くようになった。確かに彼等は、北部の入植地にいるイスラエル民間人を攻撃するのに、テロ戦術を用いたが、主要な狙いは、イスラエルの占領者たちを追い出すことにあった。彼等は、2006年に、最終的には、テロでなく、通常の軍事戦術を用いて、そうしたが、一方で、彼等が支配している地域の貧しい人々の多くに、物品や奉仕を提供して、評判を磨き上げた。ヒズボラは、レバノン政府のパートナーとなり、ほとんど普通の政党へと変身した。二国間の国境沿いで、依然イスラエルと小競り合いをしてはいるが、それ以外の国々、より具体的には、アメリカ合州国を、脅かす能力はゼロだ。
そして、ベトナムにはベトコンがいた。彼らはテロを用いただろうか? 確かに。しかし、彼等、地方の大部分で政治的支配を確立する為と、ベトナムの都市で恐怖を広めるために、そうしたのだ。自分たちが十分に強い立場になったと感じるや、彼等は、アメリカ軍や南ベトナム軍との本格的戦闘も行った。また、彼等は何といっても、政治的目標、つまり、アメリカ傀儡のベトナム政府に取って代わろうという狙いを持った政治集団だった。ベトコンが、テロ戦術を使うことが出来る能力によって、アメリカ合州国を脅かしたことがあっただろうか? 全くそんなことはない。
最後がタリバンだ。タリバンは、アメリカ政府によって、テロ集団と見なされており、 実際に、アフガニスタンのあちこちで支配を確立するために、民間人を殺害している。しかし、彼等は通常のやり方でも、アメリカやNATOの軍隊と戦い、軍閥を打倒し、腐敗した政府幹部を根絶し、アフガニスタン国民に対して、イスラム教のシャリア法の下で、平等な公正を約束していた。多くの地域で、タリバンは、ハミド・カルザイ大統領の政府よりも人気が高い。かつて、タリバンが、アフガニスタンを支配していた当時、タリバンは厳格な宗教規則を導入したが、麻薬生産や、軍閥支配の根絶もしていた。従って、タリバンをテロリスト集団と呼び、信奉者たちを投獄するか、殺害する以外には、応対する意志はないと表明すると、大事なことを失うことになる。集団は本質的に政治的で、必要と考える時に、テロを戦術として利用するだけの、将来の与党だと、自らは考えている。
テロを使用する政敵に対応するのを拒否する点で、アメリカ政府は、基本的にイスラエルの模範を採用してきた。イスラエルが、タリバンのような集団をテロリストとして棄却してしまうのは、イスラエルの本当の利益という観点から、彼等と交流する機会が失われてしまうことを意味する。しかも、それは、かかわっている集団が、正当な怒りや、前向きな動機を持っている可能性を考えることを不必要にしてくれる、便利な政治的表現にもなる。更にそれは、不都合と思えるような結論を避ける方向に、論議全体を向けてしまう。“彼等”とは、アメリカ本土でよりも、現地で戦う方が良いから、アメリカは、アフガニスタンで戦っているのだということが良く言われている。これほど真実とほど遠い話はない。タリバンは、アメリカがアフガニスタンを占領しているということを除いて、アメリカ合州国になど、全く何の興味も持っていない。ロン・ポールが、まさしく言っている通り、テロ事件があった場合、連中がこちらにいるのは、我々があちらにいるからに過ぎない。アメリカが、“そこ”から撤退すれば“連中”は、理由が皆無なのだから、はるばるアメリカ本土にやって来たりなどはしない。
したがって問題は、我々が使う言葉が、ある問題に対する考え方を形成してしまうということだ。恐怖と不安を生み出す為の、テロやら、テロリストといった決まり文句から、いったん解放されてしまえば、全く違う現実を把握することが可能になる。ホワイト・ハウスや国務省が、テロリストと呼んでいる集団は、実際は、自分たちが政権を掌握するのに有利となるような変化を求めている政治団体なのだ。常にそうした集団は存在してきたし、今後も常に存在するだろう。大半は、アメリカ軍に、国から撤退して欲しいと考えており、多くの人々は、ワシントンには、腐敗した専制的なアラブ諸国の政府への支援を止めて欲しいと望んでおり、また、ほぼ全員が、アメリカお墨付きの、イスラエルによる、パレスチナ人いじめを止めて欲しいと望んでいる。そうした観点から、彼らをみれば、アメリカ合州国に反対する、彼らの動機を理解するのも困難なことではない。また、様々な集団を、ありもしない世界的規模の陰謀の一環としてではなく、選択的に対処すべき個別事例として見ることも、可能だろう。
真相は、アメリカ政府が、マニ教的善悪二元論で単純に規定できる敵を持つことを好んでいるのだ。政府は、テロ集団を、ある種の一枚岩であるかのごとく描き出し、アメリカ人の中に恐怖を作り出すことを狙っているが、実際は、様々な動機や狙いを持った多様な政治的集団の寄せ集めに過ぎない。唯一彼等に共通していることと言えば、連中は時にテロを戦術として利用するという点だけだ。またテロ戦術そのものが魅力を失っている。テロを信奉する集団が増えているかに見える、ただ一つの理由は、アメリカが占領したり、攻撃したりしている国の数が増えているからに他ならないのだが、それでも人数はわずかなものだ。テロを用いる集団の信奉者が、世界中では、確実に、二、三千人未満はいるだろう。若いイスラム教徒の男性達は、次第に争いに引きずりこまれるのを嫌がるようになり、宗教上の義務である聖戦の魅惑も弱まった兆しがある。そして、最高の幸運があってさえ、ほとんど成功の見込みなどないような策謀である、ナイジェリアの下着爆弾犯事例のように、テロを行使する連中自身が、益々取るに足らない素人のようになりつつある。もしも、保安対策や情報交換の上でミスがなかったなら、ウマール・ファルーク・アブドゥルムタラブは、アムステルダムで飛行機に搭乗する前に、拘留されていただろう。
アメリカ人は、もはやほとんど空虚な脅しに過ぎないテロや恐怖について語るべきではないのだ。人は、テロ攻撃で殺されるより、サメに喰われる可能性の方がずっと高い。テロと戦うことによって、アメリカ政府が恐怖を維持できるという有効性が、絶え間のない戦争を、大きな政府を生み出すのを、保証し、アメリカの為政者たちに、現実を把握不能にしてしまう。世界には、権力を求めて張り合う数多くの集団が存在している。テロを積極的に行使することを含め、どのように支配を実現するかについて無節操な連中もいる。しかし大半の場合、アメリカ合州国が彼等をほっておく限り、ワシントンへの関心を無くせよう。連中をほっておくことこそが、アメリカ合州国が採用可能な最善の外交・安全保障政策であっても、おかしくはなかろう。
記事原文のurl:original.antiwar.com/giraldi/2010/01/20/the-terrorism-conundrum/
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翻訳が後先になったが、「元祖ならず者国家」の筆者と同一人物。
クリスマスの日の下着爆弾テロに関連する話題ゆえ、二ヶ月前に、翻訳するべき記事だった。恐縮ながら「無料ブログ」の限界。仙人ならぬ、なまぐさ中高年フリーター、霞を食べるだけで、生きる力はない。
知人が亡くなった。数ヶ月前飲んだ時「いじめが理由ではないが、それもあって退職した」と言っていた。人は霞を食べるだけでは生きられない。
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いつも有益な情報をありがとうございます。この記事はアメリカが主張する「テロ」と表現されるものの「あやふやさ」、「怪しさ」という常々感じているけれどもうまく表現できない部分をきれいに指摘してくれているように思いました。帝国の横暴を止めるには「より強い外部の力」か「自浄能力」しかないのですが、貴ブログの記事「元祖ならず者国家」で示されたように「気に入らない相手には何をしても良い権利がある」などと公言し出した世界一の軍事力を持つ国家をこの記事の著者のような良識が止めることは歴史的に見ても実際問題としては困難なのでしょうね。日本やドイツはまだより強い国(アメリカ)があったから止められて良かったのかも知れません。
ブログ主様は多分私(rakitarou)とはお考えに相容れない部分もあると思いますが、私は貴ブログで勉強させていただいております。ご健康に留意され、今後も活動をお続け下されば幸いです。
投稿: rakitarou | 2010年3月28日 (日) 20時51分
或る種類の政権は仮想敵の脅威を常にプロパガンダで宣伝し(韓国と北朝鮮、ソヴィエト、そしてアメリカ合衆国、等)国民を操るのですが、アメリカの企業メディアでは、フランス政府が長期に亘るアルジェリア人のテロとの戦いの末、ドゴール政権が終に植民地政策を放棄し、同時にアルジェリア人のテロも起こらなくなったと言う当然の歴史が全く報道されていないのです。(MSNBCケーブルテレビのニュース解説番組レイチェルマドーショーのRachel Maddowが一度アルジェリアとドゴールの歴史を紹介していたと言う話ですが 彼女のショーのウエッブサイト http://www.msnbc.msn.com/id/26315908/)
悲しい事に、アメリカの歴史や社会、国際社会等の教育水準は低く(御存知の様に民衆扇動の為に意図的に低くされている)フランスの歴史を説明しても理解出来る人は一部の本当に教育を受けた人工か進歩派位の物で此の“テロ”と言う言葉は米国では当分の間政治利用される言葉なのだと思います。
御友達の御不幸については表現する言葉も無いほど辛い経験であると想像しています。
企業ではいじめは当然起こるのでしょうね。非民主的で軍隊と同じ上下関係が鉄則の機構ですから。やはりクロポトキンやプルードンは正しかったのだと私は思います。
投稿: ejnews | 2010年3月20日 (土) 03時39分
まさに、それに関連する記事を翻訳しようと考えていました。
宗主国が、延々、戦争を続けたいと考えている枠組みにある国家中で、属国が、その国家の警察用給料を負担したり、あるいは、ブロガーの多くの皆様が興奮しておられる、憲法9条を持つ日本が丸腰の軍隊を出して、平定に尽力したりする、という民主党お墨付きの「紛争屋」先生の不思議な発想を実行しても、無意味でしょう。いや無意味どころでなく、宗主国を助ける、余りに愚劣な行為でしょう。
日本は海岸も山もコンクリートで固め、生計をたててきましたが、宗主国は戦争を起こし、武器を売り、破壊した国の復興をうたって生計をたてています。ならずもの国家。
ケインズ流「穴を掘って、それを埋める」経済政策の変種でも、属国の手法の方が、多少はましだったでしょう。しかし「人道的な武器輸出は認める」ことになれば、蟻の一穴。宗主国と同じ経済構造になるのも間近でしょう。
「人道的な武器輸出」というのは、言語的にも、数学的にも、ありえないと、素人は思うものです。
投稿: マスコミに載らない海外記事筆者 | 2010年3月20日 (土) 00時05分
タリバンNo.2とカルザイの話し合いが、同じ部族出身として成功しそうになった、その実に凄いタイミングでタリバンNo.2がパキスタンに逮捕されました。
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「霞」に関してはベーシックインカムですよ?広めましょう。
盗まれた庶民の金を取り返したい。
投稿: 田仁 | 2010年3月19日 (金) 23時44分