なぜアカデミー賞はペテンなのか
John Pilger
2010年2月10日
"Information Clearing House"
一体なぜ、これほど多くの映画が実にろくでもないのだろう? 今年のアカデミー賞候補作品、プロパガンダ、紋切り型と、全くの不誠実のパレードだ。主要テーマは、ハリウッド並みに古びている。よその社会に侵略し、他国の人々の歴史を盗みとり、我々の記憶を占領するという、アメリカが神から授かった権利だ。一体いつになったら、監督や脚本家たちは、「支配と破壊に専心する世界観」のポン引きを辞め、芸術家として振る舞うのだろう?
私はフロンティア時代の西部劇映画という神話で育った。西部劇、見ている本人が、たまたまアメリカ先住民ではないかぎりは、実に無害なものだった。公式はそのままかわらない。自愛によるわい曲で、フィリピンから、イラクに至るまでの虐殺の、隠れみのとして、アメリカの植民地侵略者の気高さを描き出すのだ。戦争報道記者として、ベトナムに派遣されてから、ようやく私はペテンの力を完全に理解した。ベトナム人は“グーク(東洋人)”で“インディアン”であり、連中を工業的に殺害することは、ジョン・ウエインの映画によって運命づけられており、理想化するか、名誉回復すべく、ハリウッドに送り返されるのだ。
私は故意に「殺害」という言葉を用いたが、それはハリウッドが見事に果たしている役割が、アメリカの攻撃にまつわる真実を抑圧することだからだ。こうしたものは、戦争などではなく、銃砲依存症・殺人狂“文化”の輸出だ。英雄とされているものは変質者なのだという考え方が薄らいでしまえば、大虐殺は、不安なサウンドトラックつきの“アメリカの悲劇”となる。
キャスリン・ビグローの『ハート・ロッカー』は、この伝統上にある。複数のアカデミー賞の本命候補である彼女の映画は“イラク戦争に関して、これまで見た、どのドキュメンタリよりも優れている。余りに現実的で、恐ろしいくらいだ”(ポール・チェインバース、CNN)。ガーディアンのピーター・ブラッドショーは、この映画には“飾り気のない明せきさがあり”“イラクでの、長くつらい終局に関するもの”であり、“あらゆる、まじめな善意の映画以上に、戦争の苦悩と悪と悲劇について語っている”と見ている。
何というたわごと。彼女の映画、100万人の人々の死も、映画的に忘れ去られてしまう他人の国で、暴力に夢中になっている、もう一人の標準仕様の変質者を通して、代償的なスリルを提供するものだろう。彼女が、アカデミー賞を受ける初めての女性監督になる可能性があるということが、ビグローを巡る騒ぎにはある。女性が、典型的に暴力的で、女人禁制の戦争映画を作って称賛されるとは、何たる侮辱。
こうした絶賛、評論家連中が“国家の犯罪を清めることができる映画だ!”と、称賛しまくった『ディア・ハンター』(1978)に対する評価の、焼き直しだ。『ディア・ハンター』、抵抗する人々を、粗野なアカのでくのぼう、としておとしめる一方、300万人以上のベトナム人を殺した連中を賛美していた。2001年、リドリー・スコットの『ブラック・ホーク・ダウン』も、ソマリアにおけるアメリカのもう一つの“崇高な失敗”に対する、同様ながら、より露骨なカタルシスであり、最大10,000人ものソマリア人を虐殺したヒーローたちを美化していた。
これと対照的に、アメリカ製の素晴らしい戦争映画『リダクテッド 真実の価値』の運命は示唆的だ。2007年に、ブライアン・デ・パルマによって作られたこの映画は、アメリカ兵士による、ある十代のイラク人女性の輪姦と、彼女と家族の殺害という実話が元になっている。ヒロイズムも、お清めも皆無だ。イラクにおける人殺しの連続、大規模犯罪における、ハリウッドとマスコミの共犯が、デ・パルマによって、巧みに描き出されている。映画は、殺害されたイラク民間人たちの一連の写真で終わる。“法的な理由から”そうした人々の顔を黒塗りにするよう命じられた際、デ・パルマは言った。“こうした被害者となった人々に、それぞれの顔という尊厳さえ与えてあげられないとは、痛ましいことだと思う。『リダクテッド 真実の価値』(訳注:Reducted=編集済み)の大いなる皮肉は、この映画が編集されてしまったことだ。”アメリカ国内でわずかに上映された後、この素晴らしい映画は、ほとんど消えてしまった。
生死にかかわらず、非アメリカ人(あるいは非西欧人)は、興行成績上、受けないものと見なされているようだ。連中は、せいぜいのところ、“我々”によって救われることが許されている“違う連中”にすぎないのだ。ジェームズ・キャメロンの壮大かつ暴力的なドル箱3-D映画『アバター』では、ナヴィ族と呼ばれる気高い野蛮人達は、彼等を救ってくれる善玉のアメリカ兵ジェィク・サリー軍曹を必要としていた。これによって、連中は“善玉”であることが確認される。当然だ。
アカデミー賞候補作品の中で、私が最悪だと思うのは、クリント・イーストウッドの、南アフリカにおける反アパルトヘイト闘争に対する、やたら愛想の良い侮辱『インビクタス 負けざる者たち』だ。イギリス人ジャーナリスト、ジョン・カーリンによる、ネルソン・マンデラを聖人化したような伝記を元にしたこの映画、アパルトヘイト・プロパガンダ用作品だったとしても、おかしくない。人種差別主義を奨励するに当たり、暴力的なラグビー文化が“虹の国家”の万能薬とされており、マンデラが、嫌われているスプリングボックという、彼等の苦難の象徴であるエンブレムを(それがついたシャツを着て)奉じたことに、多くの黒人南アフリカ国民が、ひどく当惑し、傷つけられた点を、イーストウッドは、ほとんど示していない。彼は白人の暴力は美化し、修正するが、黒人の暴力は美化せず、常に存在する脅威として描いている。ボーア人の人種差別主義者は、“我々本当に知らなかった”のだから、黄金の心をもっていたことにされる。潜在意識に働きかけるテーマは、嫌という程おなじみのものだ。つまり、植民地主義は、法に照らし、善悪を明らかにされるべきものでなく、寛容と和解による対応こそがふさわしい、というものだ。
最初、私は『インビクタス 負けざる者たち』など、まともに受け止められるはずはなかろうと、たかをくくっていたが、映画館中の、アパルトヘイトの恐怖に、全く関係がない若者や他の人々を見回して、こうした調子の良いまがい物が、私たちの記憶や、教訓に対して与える打撃の重さを理解した。イーストウッドが、これに相応する、アメリカのディープサウスにおける『のんきなサンボ』映画を制作することを想像されたい。そんなことを、彼はあえてするまい。
最もアカデミー賞の呼び声が高く、評論家たちが推している映画は、ジョージ・クルーニーが、人を首にするため、アメリカ中を旅して回り、マイレージ・サービスのポイントをためている男として登場する『マイレージ、マイライフ』だ。陳腐さが、感傷的なものへと化す前に、あらゆる紋切り型、とりわけ女性のそれが勢ぞろいする。あばずれあり、聖人あり、いかさま師あり。とはいえ、これこそ“当代の映画だ”と、本当に首にされた人々に演じさせたことを誇りにしている、ジェイソン・ライトマン監督は語っている。“この経済の中で失業するというのは、どういうものか、我々は、彼等に尋ねた”とライトマンは語る。“それから我々は、撮影中に連中を首にし、彼等が職を失った時にした反応をしてくれるように頼んだ。こうした素人による、100パーセント本物のリアリズムを見るのは、とてつもない経験だった。”
ウワォ、何たる受賞者!
www.johnpilger.com
記事原文のurl:http://www.informationclearinghouse.info/article24639.htm
おことわり:
アカデミー賞と訳した部分、原文ではOscarとなっている。
アカデミー賞受賞者が貰うのが黄金のトロフィー、オスカー像Oscar Statuette。
宗主国では、「オスカー」が常用されているようだが、個人的に「アカデミー賞」という固有名詞になじんでいるので、勝手ながら、置き換えさせて頂いた。
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世の中では、権力が、見せたくない事実は、覆い隠されるか、ねじ曲げられる。
『ハート・ロッカー』と、あの『ザ・コーヴ』!ドキュメンタリーで、『ザ・コーヴ』に苦杯をなめた作品が、『アメリカで最も危険な男:ダニエル・エルズバーグとペンタゴンペーパーズ』。この素晴らしい作品を落として、『ザ・コーヴ』を推したことで、アカデミー賞もノーベル平和賞なみの「ペテン」だということはすぐわかる。自分の頭の蝿を追え!
映画評論家の佐藤忠男氏の言葉に、たしか「映画は民族の自惚れ鏡」というような表現があった。それもあるだろう。その言葉を目にする前の、高校一年生時代から偏屈な小生、なによりも「映画はプロパガンダ」と思っている。
同じような現象を書いた記事に、下記がある。
人々が目にしてはいけないことになっている戦争写真-Chris Hedgesのコラム
マスコミやエンタテインメント、その資金源、経営方針などについて考えさせられる過去記事の一つに下記がある。お時間あれば、ご一読を。
大変不思議なことに、この「国境なき記者団」のまやかし、旧ブログのエントリー、サーチ・エンジンによって、まったく扱いが違う。
キーワードに、「国境なき記者団」と、入力すると、
- 検索結果最初のページに、この記事があらわれる検索エンジンあり。
- 検索結果を何ページたどっても、全くあらわれない検索エンジンあり。
なかなか興味深い結果がでる。これも、お時間があれば、お使いの検索エンジン、そして、お使いでないエンジンでも、お試しあれ。この記事のタイトル、『なぜアカデミー賞はペテンなのか』を検索する文言として、比較してみられるのも面白いだろう。
検索エンジン別アクセス結果、時折確認しているが、後者の検索エンジンから、このブログにおいでになる方は、当然、極めてすくない。検索エンジン村八分という言葉を思い出しても不思議はあるまい。『リダクテッド 真実の価値』のように、意義があるブログだ、などと主張するつもりは皆無だが、検索して、すぐに見つからなければ、結果だけは、『リダクテッド 真実の価値』と同様、このへそ曲がりブログ、ほとんどネットの海に消えてしまったも同じ。被害妄想と、おっしゃられるだろうか?調べてみると、当方のブログ記事がほとんど検索できない「検索排除エンジン」、しっかり、件の会社と業務提携していることがわかる。これも、お試しの上で、「被害妄想」か否かご判断いただきたい。
どなたか、『「検索エンジン」のまやかし』、あるいは『なぜ検索エンジンはペテンなのか』という記事を書かれないだろうか?首を長くしてお待ちしている。
blogの引越し作業に膨大な時間がとられ、なかなか、この記事の翻訳ができず、後出しとなった。
これからブログを始められる皆様は、そのブログが、長期間、安定して運営される可能性が高そうか否かを、十分考慮されることを、強くお勧めする。
良いワープロや、漢字変換ソフトを開発することと、ネットワーク・サービスの運営、全く別物ということは、始めからわかってはいたのだが。
blogの引越し、全く想像していなかった、無駄な、連日の作業。
移転後の、文中リンク確認作業のおかげで、目が痛い。
まあ、これも、与野党大政党の皆様がお好きな新自由主義の合い言葉「自己責任」の一例だろう。
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此の記事は絶対貴方が翻訳すると思っていましたので私は別の記事に取り掛かっています。
『全てのアートはプロパガンダだ!世界的にそして不可避的にプロパガンダだ。時々は無意識だが多くの場合意識的なプロパガンダだ!』とか何とかあの“ジャングル”で有名なアップトン シンクレアーが言っていたそうですが、全くですね!
次回も興味深い記事の翻訳を心待ちにしています。
投稿: ejnews | 2010年3月10日 (水) 07時28分