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2009年10月26日 (月)

資本主義復帰から20年後:東欧の生活水準、急降下中

Stefan Steinberg

2009年10月24日

今月早々イスタンブールにおける会議の過程で、世界銀行は、グローバルな経済・金融危機を受けて、旧ソ連と東欧で生じた、生活水準の大幅な低下を示す報告書を刊行した。

「グローバル危機、新興ヨーロッパと中央アジアを痛打」と題した報告書は、この地域全体における“失業と貧困の急増”について語っている。

ヨーロッパ・中央アジア担当世界銀行副総裁Philippe Le Houerouは、イスタンブールでの記者会見で、こう語った。「金融危機として始まったものが、社会的、人的危機と化している。食糧および、石油危機のすぐ後に続いて、グローバル危機が起きたが、先行した危機が、購買力を引き下げることで、既にこの地域の人々を弱体化させていた。今日、貧困と失業の増大が、家計を貧困へと押しやっており、既に貧しい人々にとって、事態を一層困難にしている。」

報告書は「グローバル金融・経済危機は、新興ヨーロッパと中央アジアの多くの部分を、まさに痛打した」と書いており、2009年、この地域の経済成長において、5.6パーセントの減少を予測している。

世界銀行は、地域における失業が、2008年の830万人から、2009年の1140万人へと急増したと計算している。失業はバルト諸国で倍増し、トルコでは60パーセント、地域の他の諸国ではその三分の一増加した。

世界銀行のヨーロッパ・中央アジア地域担当チーフ・エコノミスト、インダーミット・ギルは、こう言明した。「2009年、貧困層人数を、1500万人減らすのではなく、貧困層が、およそ1500万人増加すると、我々は予想しています。」ギルは、地域には既に、1億4500万人の貧者、総人口のおよそ三分の一が存在していることを認めた。彼はこう語った。「彼等にとって、金融危機は、既に厳しい生活を一層厳しくしてしまいました。世界の大半では、今秋、良い経済ニュースを聞いています。しかし、新興ヨーロッパや中央アジアの労働者やその家族にとって、ニュースは明るいものではありません。」

この地域全域にわたる貧困の程度を指摘しながら、世界銀行の報告と在イスタンブール代表団は、この社会的窮状を存続させる上での、この機関自らの役割については沈黙している。

そうではなく、そもそも、世界銀行が、東欧の労働者の益更なる貧困化を招いた、まさに更なる諸政策を唱道しているのだ。この地域にとっての最優先は、Le Houerouによると、“金融部門を整理し”….. “民間資本の流入を呼び込む為に、事業環境を改善し”、“公共投資をより効率的に”することなのだという。

ギルは、銀行に対して行った膨大な緊急救済措置により、この地域の政府赤字は、2008年のGDPの1.5パーセントから、2009年の5.5パーセントへと増大するだろうとしている。ギルは、更に社会的支出が政府支出の半分以上を占めていると指摘し、政府とっての本題は「教育、医療および社会保障を、より効率的にする必要性」結論づけている。これはつまり、既にしてお粗末な福祉制度の更なる大幅な削減だ。ギルは、「必要な“改革”は、政府を財政的に健全に、経済を強固に、そして社会をより公正にするのに役立とう。あらゆる責任のある政策立案者は、これらの改革を厳しく検討すべきだ。」と結論している

世界銀行の提案は、“より公正な”社会を作り出すのではなく、東欧と中央アジアにおける社会的不平等と、それに伴う貧困の膨大な増加を促進することにしか役立つまい。2008年金融危機の波紋について焦点を当てながら、世界銀行報告書は、この地域の住民の三分の一が、貧しい生活を送っていることを認めている。これは、ソ連と東欧への資本主義再導入から20年後の、自由市場制度に対する、辛辣な非難だ。

ソ連とそのスターリン主義衛星諸国の崩壊後、世界銀行は、一連の他の国際金融機関(IFI)や欧州連合と共に、出来るだけ短期間の間に、東欧諸国とロシアに対し、資本主義の自由市場環境を押しつけるべく計画された“ショック療法”を押しつけるのに尽力した。同時に、続く“経済自由化のビッグ・バン”は、先進資本主義国の銀行が、利益を最大化するため、益々、最もリスクの高い、投機的な投資に向かっている時期に起こったのだ。

ウォール街の相場師の活動と、国際ヘッジ・ファンドの二桁、あるいは三桁の利益率が、旧スターリン主義諸国に導入された自由市場資本主義の模範となった。世界銀行、国際通貨基金とEUの命を受け、これら諸国において長らく続いてきた福祉政策は、最少のコストで、最小限の社会福祉しか提供しない“セフティー・ネット”制度を容認した上で、一夜にして一掃された。

欧州連合このプロセスにおける役割について触れて、ソフィアにある、Centre for Liberal Strategiesの代表イワン・クラステフは2004年にこう述べていた。「国境を越えて、経済発展を推進するプロジェクトをEUが支援する際に、EUが自国内では非難しているのと全く同種の新自由主義学説の別種を輸出しているのを見るのは実に印象的だ。」

この政策の結果は、地域全体における、かってないほどの社会的不平等と貧困だ。現在、西欧マスコミは、資本主義制度の導入を無批判に美化する膨大な情報を報じてはいても、これらの国々に広がっている社会条件については、ごく僅かな情報しか提供していない。自由市場経済の利点だとされているものを巡る、あらゆる陶酔を消散させるには、過去数年間に作成された、幾つかの資料を、概観するだけで十分だ。

2008年の金融危機の数年前に刊行された研究の中で、ロシア人研究者オルガ・キスリーツィナは、移行経済における、所得の階層化という点では、ロシアは圧倒的にトップだと既に注目していた。「ロシア国民のうち、最も貧しい10パーセントは、総収入金額の2パーセント以下しか占めておらず、一方最も豊かな10パーセントは、約40パーセントを占めている」と彼女は書いている。報告書はこう書いている。「所得不平等という観点からすれば、ロシア経済は中南米モデルにずっと近く」ロシアは、社会的不平等という点では、ブラジル、チリやメキシコにぴったり続いている。

ロシアにおける社会的不平等の発展で異例なのは、それが起きた速度だと、キスリーツィナは注目している。生活水準が、スターリン主義官僚機構の悲惨な政策のおかげで、全般的に低いものとは言え、それでも、比較的、平等主義的だった社会は、20年もたたない間に、地球上で、最も不平等な社会の一つへと変貌した。

金融危機を受け、ロシア人億万長者は、ひどい損害を被ったものの、2009年世界リスト上の793人の億万長者中、ロシアは未だに32人を占めているとフォーブズ誌は報じている。2008年にフォーブズ誌が報じていた、87人の億万長者が保有していた4714億ドルと比較すると、これら32人のロシア人は1021億ドルという富を得ている。

資本主義経済制度の再導入は、特に大都市部で、ごくわずかな中産階級層も生み出しはした。大都市で、貧困、失業と過少雇用が、一般的ではあるが、より辺鄙な地域や地方における生活条件は、一般に、壊滅的と見なされている。

近年における経済成長復活にもかかわらず、現在のロシアの経済的実績は、依然として、資本主義自由市場導入以前の1989年の、わずか四分の三程度でしかない。他の旧ソ連衛星諸国におけるGDPの落ち込みは、遥かに劇的だ。2008年、グローバル危機の開始の前に、グルジアとモルドバの経済は、1989年に生産していたものの、およそ40パーセントへと縮小した。

同時に、ロシアにおける所得不平等の増大は、莫大な社会的費用の上で起きている。ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルによると、1991年のソ連崩壊は、ロシアにおける死亡率の大幅な増大をもたらしたが、最大の増加は、アルコールによる死で、それに続くのが、事故と暴力行為による死だ。

2004年の著書The Status Syndrome中の、疫学者マイケル・マーモットの調査によると、1990年代の資本主義復活は、およそ400万人の死亡者を生み出した。

資本主義の再導入以前は、つまり1984年から1987年までの間、ロシアの平均寿命は、男性で、61.7から64.9歳に、女性では、73.0から、74.3歳に伸びた。しかし、1987年から1994年までの間に、ロシア人男性の平均寿命は、わずか57.6歳に、女性のそれは、71歳へと低下した。

1970年代初期、いわゆる共産主義の“停滞”時期には、ソ連と西欧先進資本主義諸国との平均寿命の差は、2.5歳だった。2000年代中期、この差は、ほぼ15年に拡大した(UNDP 報告書2007)。

上記報告書の著者は、こう結論している。「ロシアに関して報じられている、死亡率と平均寿命の変動の大きさと急激さは、平時として、史上類がないものである ...」

こうした数値の全てが、自由市場経済への自由化後に、旧スターリン主義ブロック諸国で起きた、福祉給付や社会標準の大崩壊の記録だ。この過程での、旧スターリン主義官僚機構の役割にも、注意を向ける必要がある。彼等は、実際に起きた大規模な社会的衰退を促進する上で、主要な役割を演じたのだ。

ミハイル・ゴルバチョフが率いたソ連官僚機構が、資本主義を再導入するための政治的条件を生み出したというだけでなく、ソ連および東欧諸国共産党主要指導者達の多くが、資本主義企業、銀行、政府のトップに自ら変身し、IMFと世界銀行が処方したショック療法の導入に、直接的な役割を担ったのだ。

ロシアは、社会的不平等の激増と、それに対応する貧困の増大を経験してはいるが、他の東欧諸国における状況は、はるかにひどい。これはルーマニアの現状を垣間見るだけで明らかだ。

ヨーロッパの機関Eurequalのある調査によると、「ルーマニアは、ヨーロッパにおける最貧国の一つで、人間開発指数の点で、最も評価が低い国の一つだ。ポスト共産主義も、EU加盟も、その順位を変えはしなかった。」報告書は更にこのように書いている。「ポスト共産主義(つまり資本主義)は、収入の分配のみならず、窮境の発生という、社会的不平等の増大をもたらした為、貧困は極めて重要な問題と見なされている。」

全国紙を、ちょっと読むだけで、基本サービス崩壊の現実や、ルーマニアにおける“貧困の問題”という婉曲的な表現の背後にあるものが明らかになる。

不満な冬という見出しの下、ルーマニアの新聞アデバルルの編集者は、最新の記事でこう書いている。「TVをつけてみよう。災難だ! トランシルバニア、ブラショフの小学校の映像だ。雪合戦の服装をした子供たちが、暖房用資金が枯渇した学校で震えている。しかも誰も気にしているようには見えない! ジャーナリストが温度計を確認すると、教室は12°Cだった。次に、弁当箱を詰めているある母親が映る。この子にサンドイッチはないが、母親は鎮痛薬ニューロフェンを、子供に与えることには気をつかっている(最近の研究によると、8-9歳年齢層のルーマニア学童の大半が疲れ切って、うつ状態だ。)

「二番目のニュースは、同じくトランシルバニアのズラトナ病院だ。昨年以来、放熱器に生命の兆しは皆無だ。放熱器に触ってみよう。放熱器は霊安室の死体のように冷たい。ある患者は、何枚もの毛布の下で、胎児の様な格好で丸く縮こまり、辛うじて生きている。病室の温度は、屋外より、わずかに二、三度高いだけにすぎない。衣類を何枚も着込んで、ミシュランマンそっくりな女性は、ある病気で入院したのに、違う病気をもったまま退院するのだとこぼした...」

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/oct2009/east-o24.shtml

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マスコミは、オバマ大統領のプラハ演説を詳しく伝えても、こうした実情、全く伝えない。各社の特派員、日本から時折遊山にでかける幹部や政治家の接待要員ではあるまいに。

郵政破壊政策の見直しに反対する竹中元大臣のコメントを流したり、記事を大々的に掲載したりはするが、森田実氏や植草元教授の意見はもちろん伝えない。

プラハと言えば、「八ッ場ダムのムダ」論議には元気なマスコミも、チェコ・ポーランドのミサイル配備・レーダー基地問題や、米日共同開発しているというMDの「無駄について」はほとんど触れない。建設予定の空母についても。これこそ無駄の極致だろうに。

その一方で、女性タレントのクスリ裁判はこぞって報道する。ムダ報道の極致。ああした取材合戦や、報道合戦なかりせば、多少とも、地球温暖化のペースは押さえられよう。

北朝鮮の翼賛テレビ・新聞を、本質的に馬鹿にできる立場に我々があるとは思えない。

もちろん日本には、「政府」を批判する自由は無制限にある。

ただそれは、「北朝鮮」政府批判であり、日本政府批判や、まして宗主国政府批判は意味しない。

「アメリカ元大統領を始球式に招待する」というのは本当なのだろうか。

カナダでは、カナダ国内演説行脚に出た彼を迎えるデモで、死に神を担いだりするデモ参加者までいる。イラク人記者にならって「古靴を持ち寄ろう」という呼びかけもあるという。該当英文記事

野球と言えば、安倍元首相の祖父岸信介首相が、安保反対デモが高まる中、言ったと伝えられている言葉がある。

「国会周辺をとりまくデモの参加者などは、国民のごく一部にすぎず、声なき声は私を支持している、そういう人びとは、国会ではなく、後楽園球場で野球を見ている」

ちなみに、ブッシュ始球式を、テレビで見る声なき声に、小生の声は含まれない。

他意はない。恥ずかしながら、野球なるもの、子供時代から楽しめず、難しすぎて全く理解できず、ラジオも、テレビも、新聞も、見たことも、読んだこともないというだけのこと。

「運動神経なき声」というのかも知れない。

しかし、オリンピックといい、ゴルフといい、野球といい、テレビ、新聞、雑誌報道、地球温暖化に相当貢献をしているように思うのは、その「運動神経なき声」ゆえだろう。

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