アメリカ、軍撤退に関するイラク国民投票に反対
wsws.org
Tom Eley
2009年6月13日
昨年のアメリカとの安保協定に対するイラク国民投票が、現在は、7月30日に行われる予定になっている。イラクの法律によると、万一有権者が、アメリカが2011年12月31日までに全兵士を撤退させることを要求する協定を拒否した場合、ワシントンは、軍隊を、17ヶ月早めて、2010年7月30日までに撤退させねばならないことになる。万一、投票が予定通り行われれば、イラク大衆が協定を拒否するのは、事実上確実だ。
ワシントンは、もちろん国民投票などに従う意図など皆無だ。とはいえアメリカは、アメリカによる石油豊富な国の占領が、あからさまに拒否されるという政治的なバツの悪さは避けたいと願っている。「アメリカ外交官は、イラク政府に対し、国民投票をしないよう、こっそりロビー活動をしている」ニューヨーク・タイムズは書いている。アメリカは、イラク侵略と占領をずっと正当化してきているが、「デモクラシー」建設のための無私無欲の行為が、100万人をはるかに上回るイラク人死者と、数百万人以上の難民を生み出した。
イラク国会の大多数は、昨年、アメリカとの安保条約、地位協定を承認したが、協定に対し、国民投票を行うことを規定する方策を含めた追加法律によって、それを薄めていた。アメリカ占領に対する大規模な国民の嫌悪感をなだめるための手段として、「ほとんど触れられてはいないが、強力な毒薬条項」とタイムズが評価するものが追加された。
これまでのところ、投票を中止あるいは延期させよう、というアメリカの企ては、余りうまくいっていない。「おそらく、アメリカの懸念に従ったのだろうが、イラク内閣は「火曜日に、‘経費と時間を節約するため’1月の国政選挙と同時に行うべく、六ヶ月延期したいと考えているという発表をおこなった」とタイムズは憶測している。ウォール・ストリート・ジャーナルの解説は、更に断定的なもので、投票は、既に遅延させられており、「国民投票は全く行われない可能性がある。」と主張している。
ただし、投票日程を合法的に変更するには、国会での長たらしい手順が必要であり、イラク国会議員幹部は、それはありえそうもないシナリオだと思うとタイムズに語っている。シーア派派閥の与党ダーワ党のある議員は「日程は安保協定の根幹部分だ。」と語っている。スンナ派のイラク・イスラム党出身の国会議長アヤド・アル-サマライエは言う。「誰も、国民投票など希望しないと言うことはできない。これは法律だ。」
イラク内閣は、火曜日、国民投票用に、9900万ドルの予算を割り当て、国会は国民投票実施に必要な追加法律を通過させる見込みだ。
イラク国会議員は、投票を中止するようなことになった場合の、国民の反動を恐れている。「誰も『そうだ、安保協定が必要だ』と言いたがりはしません」アメリカが資金をだしている、ロンドンのイラク・デモクラシー・開発財団の理事長、ガッサン・アル-アッティヤは、タイムズにそう語った。「今年はイラクにとって選挙の年です。アメリカ人に宥和的だと見られたがる人は皆無です。イラクでは今、反米主義がはやりです。」
スンナ派政治集団の大半は、ムクタダ・アル-サドルのシーア派サドル主義者運動同様に 条約には反対するようキャンペーンしている。ヌリ・アル-マリキ首相も、「そう発言すれば、それを言質に相手側に足をひっぱられるのが心配なので、安保条約に賛成だと明言したがる可能性はありそうもない」とタイムズは報じている。マリキは、舞台裏でアメリカと協力し、国民投票を先送りにしようとするだろう。
アメリカ軍幹部たちは、アメリカ軍兵員がイラク人囚人、男性、女性、子供に対して行った拷問の証拠を見るイラク人の権利に反対しているのと同様に、「イラクの自由作戦」という間違った名前のアメリカ占領に対して投票するイラク人の権利をあからさまに馬鹿にしている。
実際、アメリカ軍兵員がイラク人囚人を拷問している証拠写真の封印されたものを、公開させるという裁判所命令と戦うというバラク・オバマ大統領の決定では、万が一、国民投票が行われた場合の潜在的な影響も、理由の一部だった。
中東および中央アジア・アメリカ軍最高司令官、デビッド・ペトレイアス陸軍大将は、5月28日、第2巡回控訴裁判所に報告を提出し、万一写真が公開されれば、「安保協定と戦略枠組み協定に関する国民投票を準備するようにという圧力が、首相にたいして高まろう」と警告した。イラクのアメリカ軍司令官レイモンド・オディエルノ陸軍中将も、申告を提出し、「写真の公開はイラク国民を刺激する可能性があり、国民投票での敗北を招きかねない。」と書いている。
マリキ首相も、写真の公開を巡り、オバマ大統領に同様な、個人的な警告をしている。「イラク首脳」は、彼に、写真を公開すれば、こうした虐待を犯した国と提携している「政府」に対する、「抵抗勢力」によるレジスタンスを増すことになると警告した、とオディエルノは法廷陳述で述べている。あるアメリカ軍幹部は、オバマが写真を公開するだろうということをマリキが知った際、「彼は顔面蒼白になった。」とマクラッチー紙に語った。マリキはこの軍幹部に、もしも写真が公開されれば、イラクで武力衝突が勃発し、イラク人は、アメリカの安全保障協定に対する国民投票を要求するだろう。「バグダッドが燃えあがる」と、マリキは軍当局に語ったとされている。
イラクでの武力衝突勃発の可能性を際立たせるかのように、イラク国会で最大のスンナ派党派「イラクの調和」の指導者が、金曜日モスクの外で暗殺された。ハリース・アル-ウバイディと彼の派は、アメリカ占領への反対を表明していた。水曜日、シーア派が圧倒的な南東イラクのバサアで、車載爆弾が爆破し、32人が死亡した。イラクのアメリカ兵にとって、5月は一年間でも最悪の月となり、28人が死亡している。
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/jun2009/iraq-j13.shtml
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日本で、憲法破壊でなく、安保条約で国民投票が実現したら、と夢想してしまう。
しかし、それは100年?早いのだろう。イラクのほうが不平等の程度が低い?
「従属」から「自立」へ日米安保を変える 2009年6月10日発行 本体価格1300円という新刊と、『自衛隊 変容のゆくえ』とを読書中。いずれも前田哲男著。後者も非常に良い本だが、57ページから、現在の北朝鮮船舶臨検論議を思わせる、「船舶検査活動」について、詳細に描かれている。
自衛隊、設立当初から、アメリカの都合で、アメリカの為に作られた組織。今後、アメリカによる世界侵略テロ永久戦争の、永久傭兵となるのは、予定されていた当然の結果だろう。
Security Agreement and Strategic Framework Agreement、日本のマスコミはなぜか「地位協定」と訳している。正しいのだろうか?
(日米)地位協定、元の公式英語は、status of forces agreementだ。
素直に読めば、「安保協定と戦略的枠組み協定」だ。どうして地位協定になるのだろう。
素人には誤訳としか思えない。アメリカ政策を日本語にする際の典型的婉曲表現?
こうした不思議な訳になる「語学的」理由、どなたかご教示いただきたいものだ。
49年前の1960年6月15日安保闘争で全学連の国会突入時に樺美智子が死亡した。
当時の内閣総理大臣岸信介(安倍元首相の祖父)安保成立後の6月23日総辞職。
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