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2009年5月15日 (金)

オバマと海賊: 国家暴力の賛美

wsws.org

2009年4月16日

四日間にわたるアメリカ第五艦隊と、少数のソマリ人海賊とのにらみ合いは、復活祭の日曜日に、ソマリ人三人の射殺と、マースク・アラバマ号のアメリカ人船長、リチャード・フィリップスの解放という結末となった。

世界での出来事の規模という点で、このにらみ合いは、かなり些細な出来事、人質事件なのだ。

全ての警察署は、こうした出来事に対処すべく訓練されている。こうした出来事をいかにさばくべきかについての教本は、例外なく、目的は、事件を平和裡に解決することであり、人質と警官の命を守り、そして、できれば、致命的な武力の行使を避けることを強調している。

この場合、人質事件は、マスコミがお膳立てしたドラマ、バラク・オバマ大統領の軍事力使用への意欲に関する、いちかばちかの政治のテストへと転化した。海賊の殺害それ自体が、政治目的と化していた。

殺害の余波の中、マスコミは、フィリップス船長の生存を巡るアメリカ国民の無理からぬ安堵につけこみ、狙撃兵の銃撃による射殺の血なまぐさい祝賀へと転化した。海賊が、三人のソマリ人の若者が、殺害されたことに対するマスコミの歪んだ満足に、完全に欠落していたのは、銃撃が理にかなったものなのか、あるいは、アメリカの海外政策という枠組みの中でも、一体望ましいものなのかどうか、という問いだった。

船長が差し迫った危険にあったため、殺害は不可欠だったという公式説明は、説得力がない。海賊が殺害される前に、この一団の四人目、16歳の少年がアメリカ海軍に投降し、アメリカ貨物船をハイジャックしようとした際に負った怪我の治療を受けていた。疲労困憊し、船長の解放と引き換えに、自分たちの命乞い交渉をするつもりでいた彼の仲間三人は、自分たちが、アメリカ戦艦ベインブリッジに引き綱で繋がれることを認め、彼らの船は戦艦から23mの近さにまで引き寄せられていた。海賊が最後の絶望的な抵抗を準備していた様子には到底見えない。しかも、600m以上の距離にある標的に命中させるよう訓練されている軍の狙撃兵にとって、海賊を射殺することは朝飯前だった。

海賊を銃殺するという決断は政治的理由で行われたのだ。オバマに対する右からの批評を無力化し、軍とアメリカ人支配層エリートに対する、大統領の根性を証明するのに役立った。ホワイト・ハウスが、オバマが致命的攻撃を承認したと、ほぼ即座に公式発表することで、これが明らかにされた。そして、フィリップス船長が、この状況を生きのびられたのは、政治的動機による決定の、偶然の産物であることも。

こうした殺人の本質を最も物語ってくれるのは、商業マスコミの反応だが、それは、死んだソマリ人に関する胸の悪くなる殺戮への欲望と一緒にと、オバマにとって、どれほどの政治的“勝利”事件かという記事類をまとめたものだ。

もはや、マスコミから衝撃を受けることは困難だ。マスコミの政治的奴隷根性、後進性、そして、下劣な本能への訴求は、長らく、アメリカの政治風景の一部となっている。だが今回は、ほとんど錯乱気味とも見える、残虐性があった。

最も注目すべきなのは、アメリカの首都での出来事を記録する新聞として機能しているワシントン・ポストの反応だ。救出から二日後、同紙は、第一面に、全段抜きの見出しを掲載した。「三発の銃撃、三つの死体

同紙の海外問題コラム執筆者、デーヴィッド・イグナティウスは「狙撃兵を褒めたたえて」という題のコラムを書いた。記事はこうだ。「まさに政策の大御所たちが、ソマリ人海賊に対処するための入念な政治-軍事戦略についての議論を始めようとしていた矢先、最善の解決策は、時に、最も簡潔かつ最も直接的なもの、今回の場合は、狙撃兵のライフル銃であることを我々は思い知らされた。」コラムは更に、ソマリアにおける危機の解決策として、秘密CIAや特殊部隊の殺人分隊が「迅速かつ、音もなく動き、戦場での力のバランスを変える」という類の事を主張している。

最後にポスト紙は、元同紙の映画評論家で大衆小説作家スティーヴン・ハンターによる、狙撃兵を称賛する記事を掲載した。ハンターの記事は、狙撃兵は「ある種、騎士道的英雄だ。彼は国家で、雷の中で語り、道徳的な世界へと秩序を回復させる。あるいは、彼は野蛮人に連中の窮状の無益さを知らしめる文明だ。」と熱烈に支持している。

アメリカの歴史における狙撃兵の役割を、つまり、ジョン・F・ケネディとマーチン・ルーサー・キングの暗殺を思い浮かべる様な年齢の人々にとって、こうした類のファシスト志向の与太記事を大手新聞が掲載するのは、とりわけうんざりさせられることだ。

銃を持った、錯乱した自暴自棄の人物による大量殺人が、少なくともほぼ週に一度は起きずに済まないアメリカで、孤独な銃の名人(ローン・ガンマン)への、こうした賛美が現れるのは、注目に値する。軍隊が、複雑な問題に対する解決策として喧伝される悪臭を放つ政治環境が、こうした無差別の暴力の一因だという何らかの疑念はないのだろうか?

マスコミに、ほとんど欠落しているのは、ソマリアの危機に対する理性的な論評と、再三のアメリカ軍の介入が、ソマリアの崩壊と海賊の増加に、決定的な影響を与えたという事実だ。「テロの正当化」だとして非難される恐怖から、9/11攻撃に関する、いかなる思慮ある説明をも、マスコミが避けたのとほぼ同様、ソマリアにおけるアメリカの役割に対する、批判的な評価を沈黙させるために、同じ言葉上のテロが使われている。つまり「海賊の擁護」だという烙印を押されるのだ。

インド洋における狙撃兵の殺人を称賛するのには、明白な政治的動機がある。一つは、これが、アメリカと世界経済の不況突入が続いていることや、何百万人もの仕事と、生活水準の破壊から目をそらす格好の話題として役立つこと。

もう一つは、ブッシュが開始し、オバマが継続中の、敗北と失敗で特徴づけられているイラクとアフガニスタンにおける戦争の後で、これは、ワシントンが、アメリカ人に向かって、軍事力は実際に有効なのだと主張できる機会だったことだ。世界における自分たちの権益を推進するために、アメリカの相対的な軍事的優位性に大きく依存しているアメリカの支配階級にとって、これは極めて重要なイデオロギー的概念だ。

アメリカの政治支配階級内部の、有力なオバマ支持者たちが、大統領候補を彼に集約する際に、彼らの主張の一つは、ワシントンだけでなく、中国やヨーロッパもが切望している戦略的なエネルギーと鉱物資源を持ったアフリカとの関係を改善するのに、アフリカ系アメリカ人大統領は役立つだろうというものだった。

結局、三人のソマリアの若者を銃殺したことは、ソマリ族の間にある、そうでなくとも強い反米感情を燃えあがらせ、アフリカ大陸中で、オバマは、「チェンジ」だという意識を傷つけることにしか役立つまい。

Bill Van Auken

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/apr2009/pers-a16.shtml

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スティーヴン・ハンター、狙撃手を主人公にした大衆小説作家のようだ。彼の作品はほとんど読んだことがない。彼の『極大射程』は、ヴェトナム戦争で87人の命を奪った伝説の名スナイパー、ボブ・スワガーが主人公。そのもとになった作品?というのが『魔弾』原題はThe Sniper、狙撃の名手が登場する。『ブラックライト』でも、名スナイパー海兵隊退役一等軍曹ボブ・スワガーが登場。『ハバナの男たち』では、スナイパー、アール・スワガー(ボブの父親)が、カストロ抹殺作戦に登場。

スティーヴン・ハンターのような大衆小説、狙撃兵、銃殺を当然のことと考える文化から生まれるのだろう。海賊対処法案が間もなく、成立し、わが傭兵による 戦闘で、双方の戦死者、民間人の巻き添え被害が増えるにつれ、日本版スティーヴン・ハンターも生まれるだろう。マスコミ(テレビも新聞)は、全てワシント ン・ポストのように国家暴力を賛美するようになるだろう。今の白痴番組状態のほうが、まだましに見えてくる。

ワシントン・ポストの同じ話題に関する別記事 Kill the Pirates「海賊を殺せ」については、藤永茂氏のブログ『私の闇の奥』、「ソマリア沖の海賊と黒いロビン・フッド (1),   (2)現在いずれもリンク切れ」で、詳細に触れておられる。拝読すると、宗主国アメリカと、わが属国日本、基本的な価値の共有などないことが、つくづく良く分かる。憲法を破壊することは、宗主国のこの恐るべき価値観を、そのまま属国日本の価値観として受け入れることを意味する。

今マスコミがしきりに話題にしている、民主党代表の選挙など、「海賊対処法案成立」という「憲法破壊」にくらべれば「かなり些細な出来事」。

自民党、公明党を攻める、民主党が、攻める相手と同じ穴のむじななのだ。自民党、民主党、いずれも、企業献金がなければ生きて行けない政党だ。そうではない政党が、もっと議席を得られる選挙制度に変える必要がある、というのが、普通の結論ではなかろうか。

折しも、屈辱的なグアム移転協定が、13日、国会で承認され、成立した。こちらの方が、民主党代表選挙より、はるかに重要だろう。

民主党代表選挙もまた、「海賊対処法案成立」という露骨な「憲法破壊」を推進するための八百長芝居かも知れない、と疑心暗鬼になる。

「小沢傀儡うんぬん」などというつまらない話題以前に、小泉政権を見れば、端的に「与党」そのものが「アメリカ傀儡」だろう。

自民党、公明党、あるいは民主党、そしてマスコミの対米奴隷根性、後進性、そして、下劣な本能への訴求は、長らく、日本の政治風景の一部となっているのだから。

ところで、中村正三郎さんのブログ、『ホットコーナーの舞台裏』で、下條信輔著「サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 」が紹介されていた。細かい内容には触れていないが、あの中村さんが、

個人的には、今年のノンフィクションNo.1です。きっとそうなりそうと
思います。\(^O^)/

と書いておられる。無条件にこれは買いだと思い、読んでみた。はたしてその通り。繰り返し読んでいる。たとえば206ページから引用しよう。

†雪だるま式に独り歩き

 不確かさの下では、人の判断にはバイアス=偏りが生じます。そのバイアスには大きく二通りあります。
 送り手が情報を選んで流すことで、情報そのものが偏るというのがひとつ。「サンプリングバイアス」と呼ばれるものです。先に述べた米国のメディアの現状は、これが大きいと思いますし、日本のメディアもそれに近づいていると思います。
 もうひとつ、人々の側にも自分の信じたいものだけ受け入れる傾向があるので、その方向の情報だけが記憶され、行動に影響する、という受け手の側のバイアスもあります。
「動機のバイアス」とも言います。このふたつが重なると、どうなるでしょう。人々の嗜好に応じる情報を送り手が選んで供給し、今度はそれに人々の嗜好が影響される。そういうことがくり返されると、情報は事実から離れ、雪だるま式に独り歩きをはじめるのです。

関連記事翻訳:

(ドイツも)憲法改悪の口実に海賊を利用

なぜフランスは、 ソマリア沖で実力行使に及んだのか?

ソマリア沖で作戦活動中のドイツ海軍

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