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2009年5月12日 (火)

EU加盟から5年: 危機的状態の東欧諸国

wsws.org

Markus Salzmann

2009年5月9日

2004年5月1日の中・東欧10ヶ国の欧州連合加盟を祝うべく華麗な祭典が催された。五年前、欧州連合は拡張し、およそ7500万人の住民がいる10ヶ国を包含した。ポーランド、チェコ共和国、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビアとリトアニア、更に地中海の島国マルタとキプロスだ。新旧加盟諸国の元首も政府も、経済の好転、国民の繁栄と、民主的な安定への約束を、お互いに競い合った。五年後の今日、まさに逆のことが起きているのは明らかだ。

東欧のEU加盟諸国は今や、集団で経済崩壊に直面している。ハンガリー、ラトビアとルーマニアは、大規模な国際的支援によって、破産からかろうじて救われたが、東ヨーロッパ全体で、経済は不況に突入しつつある。ラトビアは、昨年の12パーセントという成長のあと、2009年は、経済が14パーセント下落すると予想されている。自動車製造に大きく依存しているチェコ共和国とスロバキアの産業も、経済活動の落ち込みを味わっている。

多くの東ヨーロッパ諸国の通貨は急落している。ポーランド、チェコ共和国とバルト海沿岸諸国の貨幣は、ユーロに対し、10から30パーセント、価値低減した。この低落の結果は、国家と個人の負債の急増であり、バルト海沿岸諸国の赤字予算はヨーロッパで最高だ。エストニアでは、国内債務と対外債務は、国家の国内総生産の二倍にものぼっている。

10のEU新加盟諸国の政府は、危機の重荷を国民に転嫁すべく、素早く動いた。つい最近の例はハンガリーだ。社会党による指揮の下、いわゆる専門家の政府が任命されたが、それは大企業幹部のみで構成されている。最近任命された諮問機関は、大幅な賃金引き下げ、公務員削減、同国のさなきだに貧弱な社会福祉ネットの更なる削減という計画を既に書き上げた。

元民間投資銀行のトップだった、政府の新首相バイナイ・ゴルドンは、公務員に対する、6000億フォリント(およそ20億ユーロ)の賃金引き下げ、社会保障の解体、国有鉄道の削減を発表した。

欧州連合に加盟するために、加盟を希望する国々は、ブリュッセルのEU官僚による命を受け、経済人の過激な公職追放を強いられた。元国有企業の民営化は、何百万もの仕事を失わせ、この地域中の政府が、EUが策定した財務基準に合致すべく、一連の予算削減を実施した。当初、国外からの高水準の投資から生じた、相対的に高い成長率が、国民各層で、より高い生活水準という希望をかき立てた。

最近の国際金融危機の悪影響が効果をあらわすにつれ、そうした幻想は消散し、東ヨーロッパ資本主義の寄生的な性格が、はっきりと表面化した。東ヨーロッパの低賃金労働者を土台に、膨大な利益を生み出した国際的企業は、産業が不振となった今や、余剰人員の大量解雇を行っている。東ヨーロッパで高い利幅も絞り取った西ヨーロッパの銀行は、その資金も引きあげている。

これらの国々の広範な国民は、失業と貧困という暮らしを運命づけられている。バルト海沿岸諸国では、失業は今年15パーセントを上回ると予想されている。ハンガリーでは、失業率予想は、6から8パーセントの幅だ。もしも自動車市場における危機が進展しつつければ、チェコ共和国だけでも、この部門で、300,000人の労働者が仕事を失う可能性があると推定されている。

これは、既に緊張した社会状況を更に悪化させるだけだろう。今や、大部分の個人家計は、もはや絶望的な赤字だ。2004年以来、エネルギー価格は平均30パーセント上昇した。プラハやブダペストのような都会では、高い家賃や生活費が、国民のわずかな給与のほとんど全てを消費してしまう。若者の家族は、若夫婦の家賃を払う余裕がないため、両親との同居を強いられることが多い。

東ヨーロッパ諸国の国民は、ブリュッセルから開発費として流れ込んだ膨大な金額の恩恵を受け損なった。EU資金の大半は、うさんくさい、半ば犯罪的な連中によって、かすめ取られたか、あるいは、国家が支援する主要建設プロジェクトを任された主要な起業家連中のポケットに直接流れ込んでしまった。

EU新加盟10ヶ国の国民は、経済的、社会的向上という希望を葬り去るだけでは済まなかった。デモクラシーについてのあらゆる約束も空手形に終わった。

東ヨーロッパにおける既存政党の一つとして、国民の利益を更に推進できるような政策を実行してこなかった。ほとんどの国で、政治舞台は、ネオリベの自由市場勢力か、正当化された社会的要素をまるごと、最も反動的なチャネルに流し込むことを狙っている後ろ向きの国粋主義者によって牛耳られている。

1989-1990年の自由市場再導入の後、元スターリン主義者の幹部たちは、早速自らの私腹を肥やし、自由市場状況を、できる限りのあらゆる手段で擁護した。この過程は極右勢力を鼓舞することとなった。ハンガリーでは、9年間の社会民主主義政府統治の後、人種差別主義者と、反ユダヤ主義攻撃が、当たり前になっている。保守派野党のハンガリー市民連合(FIDESZ)は、ファシスト勢力と緊密な接触を保っている。反政府デモは、超国家主義者に支配されていることが多い。スロバキアでは、数年前、社会党が、ネオ・ファシストの自由民主連盟と連立政権を組んだ。権力の座についた自由民主連盟は、その財源と政治影響力を大幅に増大させている。

ここ数ヶ月に行われた抗議デモは、これらの国々における潜在的な社会不安を現している。最近、ラトビア、リトアニアとハンガリー、更に、ルーマニアと、ブルガリアで、政府と、危機の結果に対する大規模な抗議デモや暴動があった。

現在、新たな加盟国内に、低賃金労働者の宝庫と、新たな販売市場を見いだした、ヨーロッパ金融エリートの利害関係のために、欧州連合が加盟国拡大を実行したことは明白だ。同時に、東ヨーロッパの窮状と貧困は、西側の生活水準と賃金を引き下げるのに利用されたのだ。

しかし、東欧市場の搾取は、ヨーロッパの銀行業界に、ブーメランのように返ってきた。東ヨーロッパにおける、西側銀行の総投資金額は、1兆5千億ユーロにものぼる。オーストリアの銀行だけでも、東ヨーロッパ諸国における貸付金額は、2240億ユーロにのぼる。これは、オーストリア国民生産の78パーセントにもあたる。こうした膨大な金額のごく一部の債務不履行は、一連の国家破産をひき起こす恐れがある。

同盟国拡張というプロジェクトそのものが、資本主義という条件の中で、ヨーロッパの調和的統一を実現することが不可能であることを、まざまざと実証した。ヨーロッパ大国間の軋轢は増しており、今やユーロ圏の崩壊すら、完全にあり得ると見なされている。

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/may2009/euex-m09.shtml

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「日本はハンガリーとは国交樹立140年、ルーマニアとブルガリアとは国交再開50年」だと、新聞記事にあった。

コメントで、国名の誤りをご指摘いただいた。「オーストラリアの銀行」は、「オーストリアの銀行」が当然正しい。

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