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2009年4月15日 (水)

血の国境 より良い中東とはどんな姿なのか

Armed Forces Journal 2006年7月号 ←以前に翻訳した記事

Ralph Peters

国境は決して完璧に公正ではありえない。だが国境が、国境によって統一させられたり、分離させられたりする人々の上にもたらす不公正の程度には大きな違いがある。自由と圧政、寛容と暴虐、法による統治とテロリズム、あるいは平和と戦争の違いだ。

世界で最も恣意的でゆがんだ国境はアフリカと中東のそれだ。(自分たちの国境を決めるにあたってすら問題山積だった)身勝手なヨーロッパ人連中が描いたアフリカの国境は何百万人もの現地住民の死を引き起こし続けている。だが中東の不公正な国境は、チャーチルの言葉を借りれば、現地で解決できる以上の多くの問題を生み出している。

中東は、機能不全な国境以外にも、恥ずべき不平等による文化的停滞から、破壊的な宗教的過激主義に至るまで、遙かに多くの問題を抱えているが、地域の総合的な失敗を理解しようと努力する上で最大のタブーは、イスラム教ではなく、我が外交官達が崇拝する、ひどいものながら、神聖犯すべからざる国家間の境界だ。

もちろん、いかに過酷なものであるにせよ、国境の書き換えで、中東の全ての少数派が幸せになるわけではない。場合によって、民族や宗教の集団が混住し、人種間結婚もしてきた。各地において、血縁や信仰に基づく再統一は、必ずしも現代主唱している人々が期待するほど楽しいものになるとは限らない。本記事の横に掲載している地図に描かれた国境は、クルド人や、バルーチー族やシーア派アラブ人のような最も大きな「裏切られた」人口集団が味わってきた過ちを改めてはいるが、中東のキリスト教徒や、バハーイ教徒、イスマーイール派信徒、ナクシバンディやその他多数の人種的少数派に対しては十分な配慮をしそこねている。それに、忘れがたい過ちは、領土という報償で決して償えるものではない。滅亡に瀕していたオスマン帝国がアルメニア人に対して犯した大虐殺だ。

とはいえ、ここで再考しているあらゆる不公正な国境が放置されている限り、大幅な国境の改訂が無い限り、より平和な中東を見ることはありえまい。

国境を変えるという話題を忌み嫌う人々にとってさえ、ボスフォラスとインダス川の間にある、様々な国境を、たとえ不完全なままであるにせよ、より公正なものへと改変する想像を試みる知的演習に参加することで得るものは大きかろう。国際的外交手腕を認めることからは、戦争を除いて、有効な手段は生み出されなかった。間違った国境を再調整し、中東の「有機的な」辺境を把握しようという知的努力は、我々が直面し、これからも直面し続けるであろう困難さを理解するよすがとなるだろう。改められるまで、憎しみと暴力を生み出すことをやめようとしない、人間が作り出したとてつもない奇形に、我々は立ち向かっているのだ。

国境は変更してはならない、あるがままにすべきだ、と主張して、「考えられないことを考える」ことを拒絶する人々にとっても、国境が何世紀もの間常に変動し続けてきたことを思い出すことは意味があろう。国境はこれまで決して静的なものではなく、コンゴ、コソボからコーカサスに至るまで、多くの国境は、(大使や特使が現実から目を背け、自分たちの靴先の輝きぶりを調べている間に)現代においてさえ変わり続けている。

そう、5,000年の歴史には薄汚いささやかな秘密が一つある。民族浄化は機能するのだ。

アメリカの読者方が最も気にする国境問題から始めよう。イスラエルが隣人達とほどほどの平和裡に暮らせるという希望を持てるようになるには、1967以前の国境にまで戻らねばなるまい。正当な治安問題解決には、現地での調整が不可欠だ。しかしながら、何千年もの間血塗られてきた都市エルサレムを取り巻く領土の問題は、我々が生きている間には到底解決が困難なのかもしれない。関係者全員が、それぞれの神を不動産の大立て者にしてしまっており、文字通りの縄張り争いは、石油の富を求める単なるどん欲さやら、民族的な口論とは比較にならない粘り強さがある。そこで、この研究されつくした大問題は脇に置いて、注意深く無視されてきた事柄に目を向けてみよう。

バルカン山脈とヒマラヤの間にある悪名高い不公正な諸国において、最も著しい不正は独立したクルド人国家の不在だ。二千七百万人から三千六百万人のクルド人が、中東内の隣接する諸地域で暮らしている(いずれの国家もこれまで正直な国勢調査を許しはしないため数字は不正確だ)。これは現在のイラクの人口よりも多く、少ない方の数字ですらクルド人は自分自身の国を持たない世界最大の民族集団だ。より悪いことに、クルド人はクセノフォンの時代から暮らしてきた丘や山を支配しているあらゆる政府によって迫害されつづけてきた。

アメリカと同盟諸国は、バグダッド陥落後に、この不正の改正を始めるという光栄ある機会をつかみ損ねた。ぴったりとはあわない部分を一緒に縫い合わせた、フランケンシュタインの怪物のような国家であるイラクは、即座に三つの小さな国家に分割されるべきだった。臆病さと展望の欠如から、我々はそれをし損ない、イラクのクルド人を新たなイラク政府を支持するよう追い込んだが、我が国の善意に対するお返しとして、彼らは切ないながらもそうしたのだ。自由な国民投票が行われていたなら確実に、ほぼ100パーセントのイラク・クルド人は独立に投票しただろう。

何十年もの残虐な軍事的圧政や、彼らの独自性を根絶やしにすることを狙って何十年間も「山岳トルコ人」としておとしめられて、じっと耐えていたトルコのクルド人がそうするであろうように。アンカラに支配されていたクルド人の窮状は過去十年の間に多少良くなったが、弾圧は最近またひどくなり、トルコの東部五分の一は占領地域と見なされるべきなのだ。シリアとイランのクルド人については、彼らも、もしも可能であれば独立クルディスタンに飛びつくだろう。世界中の正統な政権がクルド独立支持を拒否したことは、我がマスコミが常々犯している無様でささいな罪よりも、遙かに深刻な、怠慢による人権上の罪だ。そしてついでながら、ディヤルバキルからタブリーズまで広がる自由クルディスタンは、ブルガリアと日本の間に存在する最も親西欧的国家となろう。

この地域を公正に調整すれば、イラクのスンナ派が多数を占める三つの州は、沿岸地帯を、地中海指向の大レバノンつまり再生フェニキアに奪われてしまうシリアとの統合を、最終的には選択するであろう切り詰められた国家となる。古いイラクのシーア派南部は、ペルシャ湾の大半を囲むシーア派アラブ人国家の基礎となろう。ヨルダンは現在の国境を保持し、南方は現在のサウジ領土部分へと多少拡大することになろう。不自然な国家サウジ・アラビアも、パキスタン同様に大きな領土を失う悲哀を味わうだろう。

イスラム教世界が停滞している根本原因は、サウジ王家がメッカとメディナをその知行地として扱っていることにある。イスラム教の最も聖なる神殿が、世界で最も偏狭で圧政的な政権の一つである警察国家、膨大な石油の富という不労所得を支配している政権の支配下にあるのだ。サウジ人は、厳格で、非寛容な信仰である彼らのワハブ主義宗教観を国境のはるかかなたにまで及ばせることができてきた。サウジが富を得た結果としての影響は、イスラム世界全体に対し、預言者の時代以後、そしてオスマン征服(蒙古でなければ)以来、アラブ人に対しておきた最悪の事態だ。

非イスラム教徒はイスラム教聖都の支配を変えられる立場にないが、メッカとメディナが、世界の主流イスラム宗派の代表と、イスラム教諸国における運動の輪番制評議会、ある種イスラム教のスーパー・バチカンによって統治されたら、イスラム教世界がどれほどより健全になるか想像されたい。その場合、偉大な宗教の未来は、単に宣言されるのではなく、議論されるようになる。我々の好みではないかもしれない、本当の公正さから、サウジ・アラビアの沿岸油田をその区域に住むシーア派アラブ人に渡し、南東の四半部分をイエメンに渡すこととなろう。残ったサウジはリヤド周辺の独立領土という国に閉じこめられることとなり、サウジ家がイスラムと世界に及ぼす悪はずっと小さなものとなろう。

無鉄砲な国境を有する国家であるイランは広大な領土を、統合アゼルバイジャン、自由クルディスタン、シーア派アラブ人国家と自由バルチスタンに引き渡すことになるが、歴史的、言語的にペルシャに対して親近性を持っている現代アフガニスタンのヘラト周辺の州地域を得ることになろう。イランは事実上、再び民族に基づくペルシャ国家となるが、最も難しい問題は、イランがバンダル・アッバス港を保持すべきか、あるいはシーア派アラブ人国家に手渡すかだ。

アフガニスタンが西部でペルシャによって失う領土は、東で取り戻すことができ、パキスタン北西辺境の部族が自分たちのアフガン同胞と再統一するのだ(この実験のポイントは、我々の好きなように地図を描くというのではなく、地元住民が好むように描くという点にある)。パキスタンは、これももう一つの不自然な国家だが、バルチの領土を自由バルチスタンに引き渡すことになる。残りの「自然な」パキスタンはカラチ周辺西方の突出部を除けば、インダス川の東のみとなる。

アラブ首長国連邦の運命は、おそらく実際そうであるように、複雑なものとなろう。一部はペルシャ湾の多くを囲むシーア派アラブ国家に取り込まれよう(ペルシャ・イランの同盟者というよりは、対抗勢力として発展するであろう国家だ)。あらゆる禁欲的な文化は偽善的だから、ドバイは、必要上、豊かな放蕩者どもにとっての遊び場という立場を保持することが許されよう。クエートはオマーン同様に現在の国境内に留まろう。

どの場合も、この仮定上の国境引き直しは、民族的な親近性か、宗教的な共同体主義、場合によってはその両方を反映している。もちろん、もしも魔法の杖を振って問題となっている国境を改めることが可能なのであれば、我々は入念に選んでそうしたいところだ。けれども、改変した地図を、現代の国境を示す地図と比較して検討すると、フランス人とイギリス人が20世紀に描いた国境の大きな過ちが、19世紀の屈辱と敗北から抜けだそうと苦闘している地域に対して及ぼしたことがどれほどだったかが多少は理解されよう。

人々の意志を反映して国境を改めることは不可能かも知れない。今の所は。しかし時間がたったら、そして付随して生じる不可避の流血があったらどうだろう- 新たな自然の国境が現れるだろう。バビロンも一度ならず陥落したのだ。

その間、我が国の軍服を着た男女がテロリズムから治安を守るため、デモクラシーへの見通しと、地域の石油資源の入手を目指して戦いを続けるだろう。アンカラとカラチの間における現代の人々の分裂と、無理強いされた統一は、この地域が自ら招いた悲哀とあいまって、宗教的な過激主義、相手を非難する文化、そしてテロリスト補充の、完璧な温床となっている。男女達が自分の国境を悲しげに見つめるような場所では、熱心に敵を求めたがるものだ。

世界におけるテロリストの供給過剰からエネルギー供給の不足に至るまで、現代の中東のゆがみは、状況の改善ではなく、悪化を保証している。最悪の姿の民族主義だけが根付き、最も堕落した姿の宗教が、かなうことのない信仰を支配する恐れがある地域において、アメリカと同盟国と、何よりもわが軍隊は、果てしのない危機を予期できる。我々がこの土地から時期尚早に立ち去るのでないとすれば、イラクは希望の反証を提供してくれる一方で、この広大な地域の他の部分では、ほぼ全ての戦線で問題が悪化している。

大中東の国境を、血族と信仰という自然の紐帯を反映すべく改めることが不可能なのであれば、地域で流される血の一部分は、我々自身のものであり続けるということを、一つの信仰箇条として考えるべきなのかも知れない。

勝者と敗者

勝者(領土が増える国)

アゼルバイジャン

アフガニスタン

アルメニア

イエメン

イラン

シーア派アラブ人国家

自由クルディスタン

自由バルチスタン

聖イスラム国

ヨルダン

レバノン

敗者(領土が削られる国)

アフガニスタン

アラブ首長国連邦

イスラエル

イラク

イラン

カタール

クエート

サウジ・アラビア

シリア

トルコ

パキスタン

ヨルダン川西岸

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記事原文のurl:http://www.armedforcesjournal.com/blood-borders/

地図 国名 黒 面積が増える国 赤 面積が減る国 グレー 面積は変化しない国

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タープレイの本「オバマ、危険な正体」のどこかで、バーナード・ルイス計画という言葉が出てきたような気がする。

また、オルタナティブ通信には、下記記事がある。

オバマの人間奴隷化計画の深慮遠謀

そこにも「バーナード・ルイス計画」という言葉がある。

ところで、直接は関係ないが、ソマリアやアフガニスタンがらみということで、『世に倦む日日』の下記最新記事をお勧めする。座布団三枚!

因果はめぐる朝日新聞と小沢一郎 - 「政治改革」と「小沢信仰」

朝日の早野透なる人物の、ニュースステーションの久米宏なる人物の、大学教授の山口二郎なる人物の、評論家の内田健二なる人物の、そして、今人気の小沢一郎なる人物の、いかがわしさが気になっている人間として、「その通り!」と、思える文章。もちろん、これが日本で多数派の意見になるはずもないのは残念だが。そもそも、大本営広報部である新聞にもテレビにも、こういう意見は絶対に載らない。

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