アメリカの新たな機密情報報告書、イラクでの「勝利」は確実ではないと警告
2008年10月7日公開
Jonathan S. Landay, Warren P. Strobel and Nancy A. Youssef | McClatchy Newspapers
ワシントン
ほぼ完成した、高官レベル向けのアメリカ機密情報分析は、イラクにおける、未解決の人種的、宗派的緊張が、武力活動の新たな波を解き放ちかねず、昨年中に実現された、治安上と政治上の主要な進歩を、反転させてしまう可能性があると警告している。
新しい「国家情報評価」に詳しいアメリカ政府高官は、この極秘報告書がいつ完成し、11月4日の大統領選挙までに刊行されるかどうかは、よくわからないと語っている。
アメリカの諜報コミュニティーが作り上げる最も権威ある分析「国家情報評価」は、主要な所見部分だけが公表されるごく稀な場合を除いては、大統領、側近高官と議員への限定公開なので、半ダース以上の役人が、匿名を条件に、マックラッチーに語っている。
イラク戦争をめぐる意見の相違は、大統領選挙戦上、重要な問題なので、16のアメリカの諜報機関全ての合意を反映する、新「国家情報評価」は、共和党のジョン・マケインと、民主党のバラク・オバマに対して、非常に大きな意味を持っている。
所見は、マケインが議会における主唱者であった、総勢30,000人のアメリカ兵増派にもかかわらず、状況についての深刻な先行き不安を強調することで、アメリカ合州国が、イラクにおいて、"勝利への道にある"という、マケインの頻繁な主張に、疑問を投げかけているように思われる。
しかし、マケインは、この所見を、自説を強化するため、事態が安定化するまで、アメリカ兵をイラクに駐留させておくるに利用することが可能だ。
オバマにとって、この報告書は、アフガニスタンで、増えつつあるタリバン反抗分子と戦うべく、より多くのアメリカ軍を派兵できるようにするため、就任から16カ月間以内に、アル・カイダと取り組むため、および、アメリカ人外交官や民間人保護のため若干の兵士を残して、駐留している152,000人のアメリカ兵の大半を撤退させるという彼の約束を実現できるかどうかという、疑問をひき起こす。
国防省によれば、2004年始め以来、イラクでの暴力事件が最も少ないレベルにあり、民間人の死亡が、2008年6月から2008年8月の期間、2007年の同時期に比べ、77パーセント減少している時に、この「国家情報評価」草稿の話が現れた。
アメリカの関係筋は、現在既に全員が撤退した、昨年の30,000人の兵士増派は、状況改善の、理由の一つに過ぎなかったと語っている。他の要素としては、イランが支援するシーア派イスラム教徒の民兵の指導者、反米聖職者ムクタダ・アル-サドルが宣言した停戦協定、および、イラクのアル・カイダや他の過激派たちと戦わせるべくアメリカ軍が作り出した覚醒部隊への、元スンナ派反抗分子の編入等も含まれる。
しかしながら、「国家情報評価」草稿は、地方選挙法案が最近、通過したことに見られるような、治安の向上と政治的進歩が、多数派のシーア派アラブ人、スンナ派アラブ人、クルド人、および他の少数派民族の間の、長引く論争によって、脅かされていることを警告していると、アメリカ政府高官は言う。
「国家情報評価」が明らかにしている対立の原因には、石油の豊富な北部の都市キルクーク支配をめぐる、スンナ派アラブ人、クルド人とトルクメン人間の争い、そして、覚醒部隊に参加した元スンナ派反抗分子を雇用するという、シーア派主導の中央政府が実行していない公約などが含まれる。
自分の元で「評価」を編集させたマイク・マコーネル国家情報長官のスポークスマンは、当該官庁は「国家情報評価」については話題にしないとして、コメントを拒否した。
「情報評価」の所見は、状況を"脆弱"で"元に戻りかねない"と表現し、イラクでの勝利を宣言することは決してないだろうと語った、元駐イラク・アメリカ軍司令官デービッド・ペトレイアス陸軍大将の最近の発言に、反映されているように見える。
ペトレイアス陸軍大将とライアン・クロッカー駐イラク・アメリカ大使に対する国務省での月曜日の授与式において、コンドリーザ・ライス国務長官もその論調に同調していた。
「皆さん、この世には確実なことなどありません。イラクにおける成功も、確実なことではありません」と、ライスは、彼女らしからぬ悲観的発言をした。
「国家情報評価」の所見は、「前向きな流れにもかかわらず、イラクにおける治安上の進歩は、脆弱な状態なままである。いくつかの問題が、進展を狂わせる可能性がある。」と警告した先月の国防省による評価と、似ている。
問題点としては、「イラクの息子たち」としても知られている元スンナ派の反抗分子が終身雇用の口を見つけられるかどうか、一月に予定されている地方選挙、キルクーク情勢、国内で強制退去させられた人々と、帰国する難民の運命、そして「有害なイランの影響」が含まれている、と非機密のペンタゴン報告書にはある。
「評価」の内容に詳しい諜報機関幹部によると、諜報機関によるこの「評価」は、もしも反米聖職者のサドルが、再び自己主張をしようと試みた場合に、何が起きるかについての懸念を表明しているという。
もしもサドルが停戦命令を放棄した場合、かつての彼の信奉者が、彼の大義に再結集するのか、それとも、彼の活動が永久に分解し、制御が困難になってしまうのか、はっきりしない。
四面楚歌状態の「イラクの息子たち」が、ラクの持続的な安定性に対する究極的な課題となる可能性がある。大半がスンナ派の元反抗分子たちに、近隣を警備したり、場合によっては、アメリカ人に対する攻撃を止めさせたりするため、給料を支払うという、アメリカの事業が、今やシーア派主導の政府の管理下に移行しつつある。
大半がスンナ派である民兵集団のおよそ100,000人のうちの多くはシリアに逃げたが、シーア派政府が、集団を解体し、拘束するのを恐れ、イラクに残っている人々もいる。アメリカ軍は彼等を見捨てないと約束し、そのうち約54,000人が今月イラク政府の支配下に移された。
(レイラ・ファデルがバグダッドから協力)
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