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2008年10月14日 (火)

ナオミ・クライン:「新自由主義に対する、ウォール街の危機」は「共産主義に対する、ベルリンの壁の崩壊」に匹敵

Democracy.now

2008年10月6日

ナオミ・クラインが、ミルトン・フリードマン研究所と言う名の経済研究所創設に、反対する教職員グループに招かれ、シカゴ大学で行った講演筆記録(冒頭部分のみ翻訳)。

(全文(英語)は、Democracy.nowをどうぞ。日本版Democracy.nowに、皆様の浄財がもっと集まれば、日本語翻訳も更に促進されるのでは?)

   2002年、ミルトン・フリードマンが90歳になった時、ブッシュのホワイト・ハウスは、彼を讃えるため、思想的遺産を讃えるため、彼の誕生パーティを催し、ジョージ・ブッシュを含む誰もがスピーチをしたのだが、ドナルド・ラムズフェルドによる実に素晴らしいスピーチがあった。それを私のウエブに置いてある。このラムズフェルドのスピーチの中で、私のお気に入りの文句はこうだ。彼は言った。「ミルトンは、思想は結果をともなうという真実の権化だ。」

      そこで、何よりも私がここで主張したいことは、ウォール街やメイン・ストリートや、ワシントンで、私たちが今目にしている経済的な混沌は、もちろん多くの原因から起きているのだが、その中には、ミルトン・フリードマンや、多くの彼の学派の同僚や学生たちの思想があるということだ。思想は結果をともなうのだ。

      それだけではなく、我々が目にしている「フリードマン理論に対する、ウォール街の崩壊」は、「独裁主義的な共産主義に対する、ベルリンの壁の崩壊」に相当するものに違いないと私は確信している。イデオロギーに対する告発だ。なぜなら、レーガン以来、我々が暮らしてきた世界は、もちろん、1929年の株式市場崩壊以後、大いに普及した思想である、強欲の有害な影響から国民や消費者を保護する調整役としての政府、という考え方を放棄し、強欲の力を解放する政策だったので、単に、腐敗や、強欲として、清算するだけでは済まない。しかし、私たちが暮らしてきた世界なるものは、実際には、解放運動、実際、現代で最も成功した解放運動、資本が集積しようということに対するあらゆる制限から、資本を解放するという、資本による運動だった。

      だから、このイデオロギーが崩壊しつつある際、私は同意しかねるのだ。シカゴ大学の教科書で学ぶ術語だけではない、もう大変な大成功だったと、私は本気で信じている。そのプロジェクトが、実際に、世界の発展と貧困の根絶だったとは思わない。これは、裕福な人々が、貧しい人々に対してしかけた階級戦争であり、裕福な人々が勝利したのだと私は考えている。そして、貧しい人々が反撃しているのだと思っている。これはイデオロギーへの告発に違いない。思想は結果をともなうのだ。

      様々な理由で、様々な分野で、人々はミルトン・フリードマンにすこぶる忠実だ。ところで、ミルトン・フリードマンには、儲かる思想を考えつく才覚があったと、私はひねくれて、言ったことがある。彼には才覚があったのだ。彼の思想は、とてつもなく儲かるものだった。そして、彼は報われた。彼の仕事は報われた。彼が個人的に強欲だと言っているわけではない。彼の仕事は、大学で、シンクタンクで支持され、FedExとペプシがスポンサーになった「選択の自由」という題名の10回シリーズのドキュメンタリー作品も制作された。彼の思想は、企業にとって有用だったので、企業世界は、ミルトン・フリードマンに好意的だった。

      しかし、彼はまた、あきらかに素晴らしく学生を鼓舞する教師で、しかもあらゆる偉大な教師がそうであるように、彼は自分の学生たちを、その教材に惚れ込ませる才能を持っていた。だが、彼は、多数のイデオローグが、多くの頑強なイデオローグが持っている、そして私はここで「原理主義者」が、という言葉さえ使ってしまう、才能を持っていた。完璧な想像上のシステムつまり、教室で、地下の仕事場で、全ての数値が良い結果になりさえすれば、完璧で、ユートピアと思えるようなシステムに、ぞっこんにさせてしまう能力だ。そして彼は、もちろん、優れた数学者で、それがこれを益々魅惑的にし、これらのモデルを、この、完璧で優雅で、 あらゆるものを包含するシステム、完璧なユートピア市場という夢を一層魅力的にした。

      さて、アーノルド・ハーバーガーらのような、フリードマン派のシカゴ大学経済学者たちの著作に何度も何度も繰り返し現れることの一つは、自然への訴え、自然状態への訴えであり、経済学は、政治科学や、社会科学ではなく、物理学や化学と比肩しうる自然科学だという思想だ。そこで、シカゴ学派の伝統を見てみると、それは単なる、民営化、規制撤廃、自由貿易、政府支出の削減等といった類の一連の政治的、経済的目標ではない。経済学の分野を、政治や、心理学などと対話する雑種の学問から、変貌させて、議論の余地のない自然科学へと変えることであり、それこそが、なぜあなた方フリードマン派の人々が、決してジャーナリストを相手にしない理由だろう、違っているだろうか? なぜなら、そこは、ご承知の通り、面倒で、不完全な実社会だからだ。それは自然の法則に訴えるお歴々には、ふさわしくないものなのだ。

      ところで、1950年代と60年代、この学派のこうした思想は、まだほとんど理論の領域にあった。これらは、学問上の思想であり、混合経済が基本である、実社会で本当に試されたわけではなく、それにすっかり惚れ込むことは容易だった。

      さて、私はジャーナリストだということを認めよう。私は調査報道ジャーナリストで、調査者であることを自認しており、ここで理論について論じようというわけではない。私がここで論じたいのは、ミルトン・フリードマンの思想が実践されたら、面倒な実社会で何が起きるかだ、つまり、自由に何が起きるか、デモクラシーに何がおきるか、政府の規模に何が起きるか、社会構造に何がおきるか、政治家たちと、大企業の大物たちとの関係に何がおきるかだ。そこには一定の傾向があるように思えるから。

      この会場におられるフリードマン主義者は、必ずや、私の方法に反対されるだろうし、私はそれを期待している。私が、ピノチェト支配下のチリ、エリツィンとシカゴ・ボーイズと呼ばれたミルトン・フリードマンの弟子たちによる支配下のロシア、鄧小平支配下の中国、あるいはジョージ・W・ブッシュ支配下のアメリカ、またはポール・ブレマー支配下のイラクをあげると、彼等は言うのだ。これらは全て、ミルトン・フリードマンの理論の歪曲だった、これらの一つたりとも対象とは見なせないと。政府の抑制や監視や拡大した規模や、システムへの介入のことを言及すると、それは実際は、地下の作業場では、本領を発揮していた、優雅で完全に均衡した自由市場ではなく、縁故資本主義や協調組合主義に、ずっと近いとのたまう。ミルトン・フリードマンは政府の介入を嫌悪していたとか、彼は人権のために立ち上がったとか、彼はあらゆる戦争に反対していたと、私たちは聞かされている。そして、こうした主張のいくつかは、その全てではないが、本当だろう。

      しかし、肝心なことがある。思想は結果をともなうのだ。安全な学究的世界を出て、政策的処方箋を実際に書き始めればだ。それがミルトン・フリードマンのもう一つの側面で、彼は単なる学者ではなかった。彼は人気のある作家だった。彼は世界の指導者達と会っていた。中国、チリ、至るところで、アメリカ合州国でも。彼の回想録は「世界紳士録」も同然だ。だから、安全圏を離れて、政策的処方箋を発行し始め、国家首脳に助言を始めたら、自分の思想が、世界にどのように影響を与えるか考えているだけで判断されるという贅沢は、もはや許されなくなる。たとえ現実が、そのユートピア理論の全てに矛盾しようとも、理論が世界に実際にどのように影響を与えるかに、取り組まなければならなくなるのだ。そこで、フリードマンの偉大な知的天敵、ジョン・ケネス・ガルブレイスの言葉を引用すれば、「ミルトン・フリードマンの不幸は、彼の政策が実際に試みられたことにある。」

以下略

記事原文のurl:www.democracynow.org/2008/10/6/naomi_klein

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ポール・クルーグマンが、今年のノーベル経済学賞を受賞した。

同じノーベル賞受賞者フリードマン"市場原理主義"経済学の終焉時にぴったりの出来事。

本山美彦教授のブログ、クルーグマンのフリードマン批判をどうぞ。

本山美彦教授の「金融権力」―グローバル経済とリスク・ビジネス 岩波新書 新赤版1123もどうぞ。素晴らしい本。目次のごく一部を。

第四章 新金融時代の設計者たち─ミルトン・フリードマンを中心に

4. クルーグマンのフリードマン批判

5. 「ノーベル経済学賞」の装われた中立性

bk1の本書書評「サブプライム問題によせて」をご覧ください。

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The Shock Doctrineについては、下記森田研究所のwebに、ごく簡潔な紹介がある。

森田実の言わねばならぬ【616】平和・自立・調和の日本をつくるために[611]
【話題の本紹介】
2008/9/6
NAOMI KLEIN,“THE SHOCK DOCTRINE ― THE RISE OF DISASTER CAPITALISM”(ナオミ・クライン著『ザ・ショック・ドクトリン――災害資本主義の勃興』)〈1〉――フリードマンに対する徹底批判の書

森田実の言わねばならぬ【620】平和・自立・調和の日本をつくるために[615]
【続・話題の本紹介】
2008/9/7

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