世界的金融危機が深化する中、パキスタン破産に直面
Vilani Peiris
2008年10月20日
政治的不安定さに見舞われ、世界的経済危機による大きな打撃を受け、パキスタンは、デフォールトにひんしてゆらいでいる。パキスタンの外貨準備は、約六週間分の輸入に等しい45億ドル程度にまで減少し、海外投資家は大挙してパキスタンから逃げ去り、ルピーは急激に暴落した。国際格付け機関スタンダード・アンド・プアーズは、パキスタンを、既にデフォールトとなったセイシェルよりはましというだけの位置にまで引き下げた。
国家財政を建て直すために、最大100億ドルの注入を、政府は必死になって探し求めている。長年の盟友中国からの支援を期待してきたが、先週金曜日、アシフ・アリ・ザルダリ大統領は、何の現金支援の約束も得られずに北京から帰国した。もう一つの古くからの同盟国サウジアラビアはパキスタンへの石油輸出に対し、財政的特権の供与を拒否した。
最終的な選択肢として、パキスタンは、IMFに助けを求めざるをえなくなる可能性がある。 そのようなステップは、必ずや貧困層に打撃を与えるような不快な紐付きとなることは確実であり、更なる社会的騒乱をひき起こそう。首相の財政顧問シャウカット・タリンは、もしもパキスタンが他の機関や同盟諸国から資金が得られなければ、三から四週間以内に、IMFに書状を書くつもりだとBloomberg.comに語った。
パキスタンは、価格補助金の終了、より厳しい金融政策や、財政赤字削減計画を含む経済安定化計画を既にIMFに提出してあると、タリンは語っている。そのような緊縮政策は、更なる価格上昇や、パキスタンの限られた社会的支出の削減を招こう。パキスタン使節団がIMF幹部とドバイで今日と明日会談の予定だ。
いかなる財政崩壊の衝撃も、アフガニスタン国境沿いのイスラム教民兵に対する戦争を強化するようにという、パキスタン軍に対するアメリカの要求によって、既に激化させられているこの国の政治危機を、必ずや悪化させることになろう。いんちきな「対テロ戦争」へのパキスタンの支持は、財政支援の議論へと変貌した。あるパキスタン高官はニューヨーク・タイムズにこう語っている。「ずっと我々の売り物は、万一経済が本当に崩壊すれば、それは内戦とストライキがおきることを意味し、対テロ戦争が危機に瀕するということだった。」
アメリカの諜報機関によって草稿がかかれ、マスコミに漏洩された、最高機密の国家情報評価(NIE)は、パキスタンの状況を「資金なし、エネルギーなし、政府なし」と要約していた。マクラッチー紙によると、NIEは、パキスタン政府は、食糧とエネルギー不足、燃料価格の上昇、暴落する通貨と、反乱分子の増大によって促進されている外国資本の大量逃避を含む、加速的な経済危機に直面していると警告している。
わずか二年前には、経済評論家達は、パキスタンを、元の軍独裁者ペルベス・ムシャラフ大統領のもとでの成功談として描き出し、「次期のアジアの虎」だろうと予測していた。しかし、ムシャラフが選挙を強いられた後、状況は劇的に変化した。彼の党は二月に屈辱的大敗を味わい、8月彼は最終的に大統領の座をおりることを余儀なくされた。ザルダリ大統領のパキスタン人民党(PPP)が率いる連立与党は、国境地帯において継続している戦争や、悪化しつつある社会的混乱をめぐって、既に国民大衆の憤激に直面している。
政治危機は、外国資本の大量国外逃避を招き、パキスタンの経済問題を悪化させた。一カ月に12億ドルもの資金がパキスタンから逃げている。ルピーは、年初以来、アメリカ・ドルに対し、30パーセント以上も暴落し、株式価格は、四月に史上最高となって以来、40パーセントも下落した。
パキスタンの窮状は、先週月曜日の、カラチ証券取引所周囲の光景によって、如実に象徴されていた。取引高は史上最低で、怒った投資家達を近づけないよう、警官が建物を包囲したのだ。個人投資家協会の理事長カユサル・カイムハニは、マスコミにこう語った。「株式市場にはもはや個人投資家はいません。彼等は全員たたきのめされました。」7月16日、激怒した投資家達は反政府スローガンを唱えて、証券取引所に投石した。
株式市場は事実上機能不全になっている。8月27日、インデックスが更に286ポイント、あるいは3パーセント下がった際、証券当局は、9,144人の立会場に、それ以上の暴落を防ぐよう強いた。以来、高すぎると見なされていた株からの逃避によって、取引高は史上最低に減少した。立会場は10月27日に廃止される予定であり、海外投資家が20パーセントと見られる彼等の株を投げ売りするので、アナリストは大幅な下落を予想している。株への海外投資は、年初以来、既に48億ドルから20億ドルに減少している。
デイリー・タイムズは10月14日に警告している。「パキスタン株式市場における最近の低落は、バブルがはじけたことを示唆しており、専門家は、これが、株式市場同様に「馬鹿げたほどの高値になっている」不動産市場にまで拡大しかねないことを懸念している。
世界的危機
マーケット・アナリストのムハンマド・シュハイルは、先週ロサンゼルス・タイムズにこう語っている。「世界的危機は本当に火に油を注いだ。今年早々、こうしたこと全てに対処すべき好機があったが、我々はその機会をとらえそこねた。」国際的なクレジットの枯渇は、金融制度が深刻な流動性問題に苦しんでいるパキスタンに、大きな打撃を与えた。中央銀行による、金融システムへの540億ルピーもの注入にもかかわらず、無担保コール翌日物金利は、32から40パーセントという範囲の高いレベルに上がった。
10月10日の「パキスタンは借金せずにいられるか」という題のニューズウイーク記事は、パキスタン内部の混沌とした状態を描いていた。「今回、パキスタン人を神経質にさせたのは、テロリストの恐怖ではなかった。預金者達が、過去数日間にわたって、現金や貴重品を引きだすため、銀行に群がった。悪化しつつある財政状態を救済すべく、政府は今にも、銀行の貸金庫や外貨口座を差し押さえようとしているといううわさが、携帯電話で飛び交った。」元銀行家のシャウカット・タリンを、新しい経済顧問に任命することで、パニックは一時的にはおさまった。
大衆の敵意が高まりつつある様を、ニューズウイークは、こう書いていた。「政治上のライバルや反乱分子の集団に包囲された、ザルダリが率いる連立政府は、経済にてこ入れするため、不人気な政策をとることを強いられている。税金を引き上げて、企業界を怒らせた。政府支出を削減して、官僚に不満を抱かせた。電力料金を上げて、停電にはすでにうんざりしていた消費者と企業を怒らせた。輸入される燃料への補助金を段階的に減らし、バス運賃から料理油にいたるあらゆる物価上昇をもたらし、小規模な、時折の抗議もひき起こしている。」
パキスタンは、 445億ドルもの莫大な対外債務の借金を負っている。パキスタン紙ドーンは、今月、同国の国内および対外借款は、昨年の同時期の10億ドルに比べ過去三カ月で100パーセント増え、22.1億ドルに達していると報じた。借款返済は、政府の大規模財政赤字を助長している。
経済成長は急激に減速している。先週発表されたIMFの世界経済見通し報告は、パキスタンのGDPは、2007-2008年の5.8パーセント、2008-2009年予測の5.4パーセントから、2009年7月から始まる次期会計年度では、3.5パーセントに低下すると予想している。「主な懸念は、世界的な金融制度におけるストレスの累積と、予想していたよりも急速な世界的景気減退である」と報告書は述べている。
一般の労働者は既に、平均で約25パーセントにものぼるインフレの影響を受けている。sensitive price index(SPI)によるインフレ数値は、10月9日で終わる週には、30パーセントに達した。小麦粉、砂糖や運賃といった必需品の急激な価格高騰が報じられている。一番打撃を受けているのは貧困層だ。SPIの数字によると、収入3,000ルピー以下の家庭にとって、インフレは33パーセントだ。
16,900万人の国民のうちおよそ25パーセントは、一日1ドルという貧困ライン以下で暮らしていると政府は推定しているが、他の情報源の数字ははるかに高い。今月発表されたOxfam報告は「パキスタンの貧困な人々の人数は、食料品価格のインフレのおかげで、6000から7700万人に増えた。」と推定している。最も貧しい20パーセントの層は、穀類の購入だけで、収入の50から58パーセントを消費している事実を発見している。
国民の怒りを静めようとして、政府は、ベナジール収入支援プログラムという名のうわべばかりの福祉プログラムを発表したが、それも既に計画を開始する前から、予算を500から340億ルピーに引き下げてしまった。政府が力をいれているのは、財政支援の確保、金融制度へのてこいれや、勤労者にしわ寄せをしながら、より大きな一時的免税を条件にした海外投資家への呼びかけだ。たとえパキスタンがデフォルトは避けられても、急速に悪化する経済・政治危機に直面することは避けられない。
下記も参照:
Continuing US air strikes in Pakistan's tribal agencies
[2008年10月9日]
US-Pakistani skirmish points to threat of wider war
[2008年9月30日]
Marriott Hotel Bombing: another sign of Pakistan's deepening crisis
[2008年9月22日]
US-Pakistani relations remain on the boil
[2008年9月20日]
« アメリカの覇権追求-「アルカイダの脅威」なるもの | トップページ | 決闘するパートナー:パキスタンとアメリカ »
「アフガニスタン・パキスタン」カテゴリの記事
- 9/11:未だ治療法のないアメリカの病(2024.09.18)
- ガザの地獄:新新世界秩序戦略(2023.11.13)
- パキスタンはなぜ、どのようにウクライナを支援しているのか?(2023.03.02)
- ベトナム戦争にもかかわらず依然教訓を学ばないアメリカ(2023.02.08)
- 中国がタリバーンと5億4000万ドルのエネルギー取り引きをした理由(2023.01.09)
「wsws」カテゴリの記事
- 「人権」を語る殺人国家アメリカの北京オリンピック・ボイコット(2021.12.18)
- ホンジュラスの「左翼」次期大統領、台湾支持でワシントンに屈服(2021.12.12)
- ノマドランド:(ほとんど)経済的理由から路上に追いやられた人々(2021.05.01)
- 『76 Days』:武漢でのコロナウイルスとの戦いの前線(2020.12.13)
- World Socialist Web Siteを検閲しているのを認めたグーグル(2020.11.07)
« アメリカの覇権追求-「アルカイダの脅威」なるもの | トップページ | 決闘するパートナー:パキスタンとアメリカ »
コメント