パキスタン国内でのアメリカの攻撃、新たな戦争の徴候
Peter Symonds
2008年9月5日
wsws.org
アメリカの対パキスタン戦争勃発のリスクを持った、水曜日のアメリカ特殊部隊兵士によるパキスタンの村に対する地上攻撃は、アフガニスタン戦争を隣国にまで拡大する恐れがある。パキスタンは、同国の軍隊がワシントンからの圧力のもと、アフガニスタン内で反占領ゲリラを支援しているイスラム教民兵を粉砕しようとする中で、既に部族国境地域における事実上の内戦に直面している。
最大20人の民間人を死亡させた攻撃は、パキスタン内におけるアメリカの作戦の明確な拡大を表している。かつては目標を爆撃するのにアメリカのプレデター無人偵察機と戦闘機が使われてきたが、水曜日の襲撃はパキスタン領土内におけるアメリカの地上軍による初めての攻撃の好例だ。ホワイト・ハウスとペンタゴンは、この出来事についてのコメントを拒否したが、様々な匿名のアメリカ当局者がマスコミに対し、襲撃が実行されたことを認め、同じようなことが今後更に行われる可能性があると述べた。
攻撃は正当な理由のないものだった。アメリカ兵は南ワジリスタンのジャラル・ヘイ村に午前3時頃ヘリコプターで着陸し、即座に三軒の家を標的にした。戦闘はおよそ30分続き、女性と子供を含む15人から20人の死者をだした。
あるアメリカ当局者は、CNNに対し、間近に女性と子供がいた可能性はあるが、任務が開始された時には、「屋敷内から全員が発砲しながら出てきた」ことを認めた。むき出しの侵略行為に対するこの見え透いた正当化さえ恐らくは嘘だろう。「住民全員が眠っているうちに殺された大変に恐ろしいことだ」村人ディン・モハンマドは、パキスタンの新聞インターナショナル・ニューズに語った。
新聞には死傷者の詳細が書いてある。4人の女性、2人の子供と3人の男性を含むファウジャン・ワズィールの家族9人。ファイズ・モハンマド・ワズィール、彼の妻、更に家族二人、ナザル・ジャンとその母親。ナザル・ジャンの家族更に二人が重傷を負った。
アメリカと国際的マスコミは、村の周辺アンゴール・アッダ地域は「タリバンとアルカイダの有名な本拠地」だと書いているが、主張を裏付ける証拠は何も提示していない。村人のジャバール・ワズィールはインターナショナル・ニューズに語っている。「殺害された人々は全員貧しい農民で、タリバンとは無関係だ。」
インターナショナル・ヘラルド・トリビューンに対するコメントで、パキスタン人幹部の一人は、アルカイダ幹部あるいはタリバン指導者の誰も,捕捉も殺害もできなかった襲撃に「カウボーイのような振る舞い」とレッテルを貼った。「連中がもしも誰か大物をやっていたら、自慢したにちがいない」と彼はコメントした。
攻撃は、パキスタンで激しい怒りをひき起こした。パキスタン外務省は、この攻撃に「パキスタン領土のひどい侵害」とする声明を発表し、アメリカのパキスタン大使アン・パターソンを召喚し説明を求めた。北西辺境地域(NWFP)知事オワイス・アフメド・ガニは「パキスタン軍が国家主権を守るべく立ち上がることを国民は期待している」と断じた。彼は死者の数を20人とした。
パキスタン軍広報担当官アサール・アッバス少将は、襲撃は「全く逆効果で」、かつては国境地帯におけるわが軍の作戦を支持していた部族民の間においてさえ、反乱をひき起こす危険があると語った。
インターナショナル・ニューズはこう報じている。「怒った村人たちは、後に、アングール・アッダのパキスタンとアフガニスタンとの間の幹線道路上に、殺された部族民の亡骸を置いて封鎖した。彼らはアメリカとNATOの軍当局が何ら理由もなく国境を越え、無辜の人々を殺害したことに対するシュプレヒコールを叫んだ。」
アメリカの襲撃は、新大統領の選挙が明日行われる予定であるパキスタン内部の政治危機を、悪化させた。与党パキスタン人民党(PPP)は、ずっと微妙な綱渡り状態にある。パキスタン軍によるアフガニスタン国境沿いの取り締まりに対するアメリカの要求を支持し続けながら、広くゆきわたった怒りをしずめ、アメリカの傀儡だという非難をかわそうとしているのだ。
ブッシュ政権のエセ「対テロ戦争」支持の立場を再確認しながら、PPPの大統領候補アシフ・アリ・ザルダリは昨日のワシントン・ポストのコラムでこう宣言した。「我々はアメリカ合州国、イギリス、スペインや、攻撃された他の国々を支持する。」ザルダリは更に、パキスタン領土が、アフガニスタン内のアメリカやNATO軍に対する襲撃出撃に使われることが決してないようにすると約束した。
しかしながら、PPPの広報担当者ファルハトゥラー・ババルが説明したように、アメリカの攻撃は、政治的には不面目なものだった。「国境のこちら側におけるいかなる行動も、パキスタン軍自身によって行われなければならないことを我々は明言してきた」彼はAP通信社に語った。「これは政府にとって極めて厄介なものだ。人々はパキスタン政府を非難しはじめるだろう。」
拡大した戦争
水曜日の攻撃を実施する決定は、ホワイト・ハウスとペンタゴンの最高レベルで行われたことは疑うべくもない。ニューヨーク・タイムズが今年早々の記事で報じていたように、パキスタン内におけるアメリカ軍特殊部隊の使用と、プレデター無人偵察機ミサイル攻撃を含む既存CIA作戦の強化をめぐり、ワシントンでは高官レベルの議論が起きている。
一月早々の会合には、ディック・チェイニー副大統領、コンドリーザ・ライス国務長官、統合参謀本部議長マイク・マレン海軍大将、国家安全保障と諜報機関幹部と顧問らが参加した。1月6日のニューヨーク・タイムズによると、論じられたオプションには、「CIAがパキスタン内の選ばれた標的を攻撃することに関する制限の緩和」や、ネイビーシールズのようなアメリカの特殊作戦部隊を伴う作戦が含まれている。
1月27日に、当時のパキスタン大統領ペルベス・ムシャラフは、マイク・マコーネル国家情報長官とマイケル・ヘイデンCIA長官が提案した、秘密のCIA任務、あるいは、パキスタン治安部隊との統合作戦によるパキスタンにおけるアメリカ戦闘部隊の駐留拡大を拒否したはタイムズは報じていた。一見、拒否は受け入れたものの、アメリカはパキスタン国境地域を支配下におくよう、パキスタンに対する圧力を強化した。
反占領ゲリラがアフガニスタン内で伸長し、アメリカとNATO兵士の死傷者数の増大を公言しており、パキスタンは格好の身代わりにさせられている。ワシントンはパキスタン軍が、イスラム教民兵を押さえそこねていることを再三非難し、アフガニスタン内で、パキスタン軍諜報機関が積極的に反米ゲリラを支援していると主張してきた。
マレン海軍大将は、二月以来、パキスタン側の相手であるアシュファク・パルベス・カヤニ陸軍参謀長と五回の会談を行い、より強硬な措置をとるよう迫っている。最近では、会談は、先週末アラビア海に配備された空母アブラハム・リンカーン船上で行われた。CNNに対するコメントの中で、あるアメリカ人幹部は、パキスタン領空あるいは、領土内で、アメリカ兵士がタリバンやアルカイダ攻撃作戦を行うための何らかの新たな合意があったかいなかについては「発言を控えた」。
パキスタン軍が暗黙のうちに水曜日の攻撃を承認していようといまいと、ブッシュ政権は、戦争をパキスタン国内へも拡大するつもりであることを明らかにしている。アメリカ首脳の発言を引用し、ニューヨーク・タイムズは水曜日に、襲撃は「ジョージ・W・ブッシュ大統領の軍事会議で、ロバート・ゲーツ国防長官が何カ月も主張してきた秘密計画である、特殊作戦部隊による、パキスタン内のタリバンとアルカイダに対するより大規模な作戦開戦の一斉射撃だという可能性がある」だと報じた。
アメリカの対パキスタン戦争を勃発させるリスクを持った、この実に無謀な政策は、超党派的なものだ。事実、民主党大統領候補者バラク・オバマは、パキスタン内に本拠を持つゲリラに対するアメリカによる一方的な攻撃による「対テロ戦争」の拡大を支持することを繰り返し宣言している。彼の立候補は、ブッシュ政権のイラク侵略がアメリカの利益を台無しにしていることに批判的なアメリカ支配層の各層から強い支持を受けてきた。攻撃的なアメリカ軍の行動に反対するどころではなく、オバマは、中央アジアとインド亜大陸とでアメリカの戦略的利益を促進する手段として、焦点をアフガニスタンとパキスタンに移す政治的手段となっている。
ジャラル・ヘイ村に対するアメリカの攻撃は破滅的な結果をもたらす可能性があるにもかかわらず、既に進行中である政策転換の、もう一つの証明だ。
下記も参照:
US continues to defend air strike on Pakistani military post
[2008年6月13日]
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