ボリビアの上流階級はマスコミによるクーデターを狙っている
Justin Podur
The Bullet - 2008-09-15
ボリビアの大衆運動は、民主主義と合法的政府を活用して、主権の確立、一層の平等と、発展を推進しようと試みている。国内の一部裕福な県の何人かの知事が率いる「メディア・ルナ」という名の対抗相手は、彼らの計画を止めさせるため、暴力行為や破壊活動を用い、内戦と混乱をひき起こそうとしている。ボリビア政府とエボ・モラレス大統領にとっての難題は、相手の挑発を成功させることなく、暴力行為を止めることだ。この課題に対応すべく、モラレスは、大半の中南米政府の支持を得ている。彼に敵対する連中は、アメリカ合県国政府の支持を得ている。
いずれの側も実証済みのモデルを活用している。ボリビアの進路は、ベネズエラのそれと共通点がある。選挙による改革の道が正しいか否かについて長い議論の後、選挙戦略が入念に計画され、それを支持する社会運動もあり、懐疑的な運動もあった。選挙には勝利したものの、地方政府を含め、国家機関の大半は、依然として旧来の上流階級と現状維持派の手中にあり、経済は海外の大国や地方の上流階級に支配されたままであるため、新政府は困難に直面した。国家を運営しながら、政府を再建しようと試み、外国の干渉に対処し、法律や憲法を、改革を深化させるために利用するということは、大変に困難な課題だ。しかし、政府の改革への企ては、国民の支持と、より重要なことに、大衆組織によって、強化され、推進されてきた。しばらくの間、ワシントンの注意が中東に集中していたという事実のおかげで、多少は身動きできる余地が与えられていたのだ。
反対派は、実績あるモデルも活用している。2002年にベネズエラで、2004年にハイチで、アメリカが支援する上流階級の運動は、選挙で選ばれた政権に対するクーデターを実行する手法を開発した。西側マスコミは、上流階級を支持し、選挙で選ばれた政府やその指導者を、「支配者」やら「独裁者」として歪んだ姿で描き出す。これらマスコミ報道は、翻訳され、国内で再放送され、人気のある政府を、あたかも、国際的に孤立しているかのように見せかけることができる。アメリカ大使や他の人々も、マスコミのキャンペーンや、反対派の財政、政治、および軍事組織に貢献することができよう。最終的な段階では、軍隊あるいは準軍事的勢力が必要となろう。彼らは、何かアッと言わせるような暴力行為の場面を作り出すだろう。おそらくは、非武装の反対派を攻撃し、彼らの死を政府の責任にするだろう。あるいは、彼らは反対デモをしている反対派に対峙する、政府支持者たちを攻撃することも可能だ。
後者の場合、政府支持者による自衛あるいは報復としての武力行動、あるいは依然として政府に忠実な軍隊による鎮圧行動に至る可能性がある。いずれにせよ、これは政府の背信および暴力行為という口実となり、アメリカ大使館における、意図の見え透いた記者会見で、アメリカによる政府退陣要求ということになりかねない。
現時点では、ボリビアにおいて、国際的マスコミの反政府キャンペーンが全開状態で、アメリカは反対派の組織化を援助し、9月10日以来、反対派そのものによって、要件としての虐殺が生み出され、その犠牲者は政府支持者だ。地方政府がボリビア政府を支持し、軍隊が、そうであろうと思われるが、政府に忠誠であれば、ボリビア政府はこの危機を乗り切れる。しかし、ボリビア人が自分たちの権利を主張するのを止めさせようとするこの企みで、命が無意味に失われているのだ。
国家再生
現在の危機への道は、わずか数週間のような短期間のものではないが(若干の背景情報については、我々による以前の記事「危機に立つボリビア」、ZNet 08年3月を参照)、現在の暴力行為の引き金になったのは、2008年8月28日、エボ・モラレスが新憲法採択に対する国民投票の日を宣言したことだ。投票は本来2008年12月7日に行われる予定で、それは国家再生を意味するものなのだ。つまり土地改革、天然資源国有化、そして上流階級が民衆向けの政策を妨害することを一層困難にする憲法改訂だ。
上流階級の戦略的主要目標は、政府に憲法採択の国民投票を延期させるよう強い、憲法採択の国民投票を避けることだ。そうなれば、エボは国民的支持を失い、民衆向けの改革に向けた能力や勢いが破壊されてしまう。モラレス政府は、極めて人気があり、上流階級もそれを知っている。彼らの戦略は、国全体の代表者であると主張するのではなしに、古い任命権ネットワーク(また、最近では更に暴力行為も用いて)で支配している自分たちの地域の自治を求めているとするものだ。2008年5月には、国際的な監視も、法的根拠もなしに、彼らの支配下にある五つの地方政府が組織した自治に関する手作りの住民投票を行った。モラレス政府は、これを違法として無視したが、リコール国民投票が2008年8月16日に行われると、(この時は国際監視団も入り、法的根拠もあった)、モラレスは投票の67%を得た。
二週間後の8月28日、モラレスは、12月7日を憲法採択の国民投票の日と設定する大統領命令を発した。9月2日、選挙裁判所は、法解釈上の理由から、国民投票反対を決定した(選挙裁判所は、国民投票は布告によって宣言することはできず、野党が優勢な上院も含め、議会を通過することが必要だと主張した)。反対派側の五県の知事は、国民投票を中止するよう要求した。反対派のデモ参加者たちが道路にバリケードをおき始めた。9月5日彼らはコビハの空港を占拠し、サンタ・クルス(上流階級の本拠地の一つ)と首都ラパスを結ぶ道路を閉鎖し、更にボリビアとブラジルを結ぶ道路を閉鎖した。彼らは政府庁舎の占拠を企み、挑発に乗らないよう命令されており、その命令に従ったボリビア軍と衝突した。
最初の一週間、こうした反対派の抗議は失敗した。彼らは望んでいた報復も、待望していた反政府運動への国民の支持も実現できず、経済的損害をもたらしただけだった。アメリカ大使フィリップ・ゴールドバークと会談していた裕福な知事ルーベン・コスタスのような反対派指導者たちは、成功できないことを憂慮していたに違いない。そこで抗議の二週目には、反対派はエスカレートし、破壊活動と殺害への道を辿ったのだ。バリケードは反対派が支配する地域でのエネルギー不足をひき起こしたが、9月8日のビラモンテのガス・プラント占拠と、9月10日のブラジル向けパイプライン攻撃で問題は悪化した。9月11日、パンド県コビハでの「衝突」で、11人ほどの人々が亡くなった。政府は抗議する人々に対し、催涙ガスや散弾を使い始めた。モラレスは自制の継続を呼びかけているが、「我慢にも限界がある」と警告している。
9月12日、コビハのすぐ外での準軍事組織による政府支持デモ攻撃で、(ボリビア政府筋はこれを虐殺と呼んでいるが)30人が殺された。生存者の一人、アントニオ・モレノは、AP通信社に、農民のデモ参加者は武器をもっていなかったと語った。武装した連中が、トラックから彼らを機関銃で銃撃した。モレノの説明はこうだ。「連中は我々を侮辱し、連中は我々を射撃しました。彼らは武装しており、棒を持った連中もいました。800メートル後退したのですが、誰かが連中に立ち向かわなければならないと言ったのです。戦いとなり、連中の何人かは武装解除しましたが、連中の武器を取り上げることはできませんでした。」政府は、パンド知事で、反対派の指導者であるレオポルド・フェルナンデスを、暴力行為の責任があると非難し、反対派がやとった準軍事組織の暗殺者連中が引き金を引いたのだと主張した。反対派は農民たちが最初に攻撃したのだと主張して反論した。
こうした殺害の犠牲者は、反対派が支配する地域における、大衆的先住民運動や団体、政府支持者だ。こうした団体は、リコール国民投票で、エボに多数の投票をもたらす力となったので、上流階級から報復の対象とされていたのだ。パンド県で攻撃されたものの中には、土地改革機関、農夫を支援する人権擁護NGO、および地方の先住民同盟がある。パンド虐殺の犠牲者の中には、有名な先住民指導者のベルナディノ・ラクアもいた。
9月13日と14日、エボ政府はパンドの非常事態を宣言した。政府は、反対派が占拠していた空港や政府庁舎を奪回するのに軍隊を用いた。フェルナンデス等の逮捕命令も発せられた。反対派の暴力行為にも、アメリカの介入にも、忍耐は限界に達した。ベネズエラ駐在アメリカ大使は、好ましくない外交官とされ、退去を命じられ、大使館は、交渉、譲歩、あるいは退陣を要求する通常の記者会見を行う機会も拒否された。チャベスもこれに習い、彼に対するクーデター計画が発覚したと主張して、ベネズエラ駐在アメリカ大使を追放し、ホンジュラスは着任予定のアメリカ大使への信任状を拒否した。
アメリカも同じやり方で反撃し、「深刻な結果」となると脅して、ベネズエラとボリビア大使を追放し、ベネズエラの大臣たちに対し、いつもの麻薬戦争を理由に(この麻薬戦争という言いがかりを払拭するには、更に別記事が必要で、ここでは詳細に語れない)経済制裁を宣言した。もしもアメリカと中南米の間の経済的関係が傷つけば、経済的、政治的にまずい結果となろう。エボは、イランを外交的に孤立化させようというアメリカの企てに逆らって、イランを含む中東を歴訪したばかりで、ベネズエラは11月にロシアとの合同軍事演習を行うことを発表したところだ。エクアドルのラファエル・コレア大統領は、ボリビアを手本にした、エクアドルのグアヤキル県でおきつつある国内の分離主義者運動について懸念を表明した。
ボリビア国内で、エボは反対派に戦略的勝利を収めさせないよう行動し、紛争で民衆向け政策が頓挫させられるのを防いだ。9月9日、危機のさなか、彼は上流階級との妥協上、受け入れを強いられていた一部閣僚を更迭し、大衆向け経済政策推進派の人々で置き換えた。彼は反対派との対話は開始したが、国民投票は予定通り12月7日に進めると主張した。反対派は9月14日にバリケードを撤去すると申し出た。政府はこの一歩は認めたものの、秩序回復には全く不十分だとしている。何十人もの人々の死を画策した以上、反対派は、単に一時的な戦術的撤退をするだけで許されるべきではない。彼らには、刑事訴追の上で、正当な法の手続きを受ける権利はある。彼らが、殺害、虐殺を画策した以上、正統な政府から譲歩を要求する権利は有しない。
ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、アルゼンチン、チリ、その他の国々を含む中南米の指導者たちは、9月15日に会合し、ボリビアでの紛争を解決を検討する。アメリカの同盟国コロンビアさえも含め、事実上全員が、モラレス政府と、その国民の信任を支持し、分離主義の受け入れを拒否すると発表した。
エボを権力につけた運動は、反対派も知っている通り、静かに消え去ることはない。全国規模のクーデターを起こす力もない反対派は、自分達が支配する県においてすら、長期にわたって政府の「統治力の欠如」を流布するだけの国民的支持に欠けている。彼らの自暴自棄の狙いは、自分達の限られた行動を実際以上に大きく見せるためにマスコミを活用して、エボに譲歩を強い、国民の大衆運動を敗北させるための外部からの政治的圧力を作り出すことだ。結果的に、ボリビアの大衆向け対策の成功は、過去数週間、そして今後の、政府にまつわる虚偽の話が信じられてしまうか否かにかかっている。
Justin Podurは、トロントを本拠とするライター。ブログはwww.killingtrain.com.
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