バイデン、イラクとオバマの裏切り
Prof Stephen Zunes
2008年8月24日
Foreign Policy in Focus
民主党大統領候補者となったばかりのバラク・オバマが、ジョセフ・バイデンを副大統領候補に選出したことは、民主党予備選挙と、党員集会での困難な戦いを勝利に導いた反戦派支持層に対する、驚くべき裏切りだ。
ベテランのデラウエア選出上院議員は、アメリカによる中東や東欧の軍事化、キューバに対する厳しい経済制裁、そしてイスラエルの占領政策に対する、議会中の主要な支持者だ。
しかし、最も重要なのは、2002年後半、イラク戦争に至る上院外交委員会の委員長をつとめていたバイデンは、あの石油が豊富な国を侵略するというブッシュ政権の決断に対する、恐らく、アメリカ議会の中で最も重要な支持者であったことだ。
候補者間の差を縮めた
オバマと、間もなく共和党大統領候補となるジョン・ マケインの最も重要な違いの一つは、オバマにはアメリカのイラク侵略に反対する知恵と勇気があったことだ。オバマと彼の支持者は、正しい海外政策判断の方が、経験の長さよりはるかに大切だ、と正しくも主張してきた。これは、マケインに加わって、イラク戦争決議を支持したヒラリー・クリントン上院議員に対する、イリノイ選出上院議員の選挙運動の中でも、主要で重要とおぼしき主張だった。
とはいえ、バイデンを選んだ事で、外交問題では、ずっと豊富な経験を持ってはいるが、判断を間違えることで悪名が高く、間もなく共和党大統領候補となる人物同様、オバマは、二人の大統領候補の、この重要な違いなど大事ではないと言っているのと同じだ。この判断は、従って、本選挙において彼の最大利点の一つを打ち消してしまう。特に懸念されるのは、民主党のタカ派から体制派の人物を選んだことで、オバマが大統領として行うであろう外交政策担当職任命で、どんな人物を選ぶかという可能性を示唆している点だ。
オバマが副大統領としてバイデンを選んだことで、かつては熱心だった支持者基盤に対して、極めて大きな悪影響をもたらす可能性が高い。オバマの支持者は、イラクは、アメリカの国家安全保障上の利害に対する差し迫った危機であり、イラクの侵略と占領が必要だという、ブッシュ政権のあからさまな偽りの主張を、彼がむやみに受け入れなかった事実を高く評価してきた。バイデンが共和党の同意権の連中とつるんで、侵略を承認する上院決議を推進していたのと同じ頃、オバマはシカゴでの大きな反戦集会で、正当にもイラクの交戦能力は大幅に弱体化されており、国際社会はサダム・フセインが将来侵略行為をするのをうまく封じ込められることをあげて論じていた。
対照的に、サダム・フセイン指揮下のイラクは、国連の武装解除施策と包括的国際経済制裁によって、大幅に弱体化されていたにもかかわらず、なぜか「アメリカの国家安全保障にとっての長期的、短期的脅威」であり、「世界にとっても極めて危険」だと偽りの主張をして、ブッシュが正しく、オバマは間違っている、とワシントンでバイデンは主張していたのだ。いかなる「大量破壊兵器」あるいは、攻撃的な軍事能力がなかったにもかかわらず、昨年のインタビューで、これらの発言を蒸し返されるとバイデンは答えた。「その通り。私は正しかったんですよ。」
バイデンは戦争承認を指導した
イラク戦争という悲劇を可能にする上で、バイデンが果たした重要な役割を評価しすぎるのは困難だ。2002年の戦争決議案が発表されるより二カ月も前に、今や議会がアメリカのイラク侵略を認めた最初の兆しとして広く理解されている行為だが、バイデンは8月4日、アメリカ合州国は、恐らく戦争をすることになろうと語ったのだ。上院外交委員会委員長という強力な立場から、彼は反対意見など公平に聞いてなどもらえないことを確証することにより、懐疑的な同僚議員達や、アメリカ国民に対し、戦争を売り込むよう仕組まれたプロパガンダの見せ物を画策したのだ。元国連の主席武器査察官スコット・リッターが当時言っていたように、「バイデン上院議員のイラク聴聞会は、イラクに対する現代版トンキン湾決議を発動させるために使われた政治的詐欺に過ぎません。彼の委員会は、イラクがもたらしている兵器による脅威の本質について、答えにくい難問を問うべきであり、確かな事実を要求すべきです。」
バイデンはそうするつもりなどないことが間もなく明らかになった。バイデンは、イラクの大量破壊兵器の能力を誰よりも知っており、イラクは、少なくとも、質的には軍備縮小を実現していたと、証言したであろうリッター本人が証言することを拒否した。皮肉なことに、昨年のMeet the Pressで、イラクの大量破壊兵器にまつわる自分の偽りの主張を「世界中の全員が、サダムは大量破壊兵器を持っていると思っていたんだ。武器査察官も、彼は持っていたと言った。」と述べて、バイデンは自分の主張を弁護した。
バイデンは、聴聞会に、イラクや中東に詳しい主要な反戦派の学者を何人か入れようという民主党の同僚議員による要求を尊重することも拒否した。こうした人々には、存在しないイラクの大量破壊兵器能力に関するリッターの結論を繰り返したであろう人々や、アメリカのイラク侵略は、アルカイダに対する戦いを阻害し、アメリカ合州国は世界の多くの国から疎んじられようになり、テロが激化する中での、血まみれの都市型対ゲリラ戦争、イスラム教過激派、そして宗派間の暴力を勃発させかねないと証言しそうな人々があった。こうした予言全てが、まさにそのとおりに起きる結果となっている。
バイデンは、イデオロギーを優先する上司による人騒がせな主張に反対する覚悟でいた、ペンタゴンや国務省の反対意見を持った職員たちすら招こうともしなかった。彼は、その一方で、極めて適格性のいかがわしいイラク人亡命者には、サダム・フセインが所有するとされる、膨大な量の大量破壊兵器用資材に関する偽りの証言を進んで許したのだ。リッターは、バイデンが「前もって、事実とは無関係に、サダム・フセインを権力の地位から取り除くという結論を決めており. . .こうした聴聞会を、イラクに対する大規模軍事攻撃のための政治的な隠れ蓑として利用した。」と正当にも非難している。
ブッシュ政権の嘘と情報操作の不幸な犠牲者どころではなく、ブッシュ以前に侵略を支持していたバイデンは、アメリカがイラク侵略するよう主張し、ジョージ・W・ブッシュ大統領が登場する何年も前から、サダム・フセインが 「大量破壊兵器」所有するとされるものについて虚偽の発言をしていた。既に1998年という昔に、バイデンは、アメリカがこの石油が豊富な国に侵略することを主張していたのだ。国連査察官と国連主導の武装解除手順により、イラクの大量破壊兵器の脅威を廃絶するに至っていたのに、バイデンは、国連の評判を損ない、戦争の口実を作り出す工作として、国連査察官の仕事など信頼できないと主張した。その年九月の上院のイラク聴聞会では、バイデンはリッターに言った。「サダムが権力を握っている限り、大量破壊兵器に関するサダムの計画全体を、君や他の査察官が、根も枝も完全に除去したと保証できるような、正当な見込みなどあるはずがない。」
7年も前に湾岸戦争規模の軍事行動を主張して、彼は「我々が、サダム・フセインを駆逐する唯一の方法は、結局私たちだけで事を済ませるしかないのだ」と語った。退役した海兵隊員に向かって、「再び砂漠に立って、サダムを引きずり下ろすためには、皆さんのような制服を着た人々が必要になるのです」と言ったのだ。リッターが、ビル・クリントン大統領が提案したイラクの大規模爆撃は、国連の査察行為を台無しにしてしまいかねないことを公表しようとすると、バイデンは、軍事力の使用という結論は「お前のような給与等級の及ぶところではない」と人を見下したように答えた。リッターの予言通り、クリントンが、その年の十二月、国連査察官にイラクからの退去を命じ、砂漠の狐作戦として知られている、四日間にわたる爆撃作戦を遂行したことで、サダムに査察官の再入国を拒否する口実を与えることになった。バイデンは、後年、サダムが査察官の再入国を拒否したことを、都合よく、開戦する口実に活用した。
戦争を鼓舞するための、バイデンの虚偽の主張
イラクの軍事能力に関する政権の主張に対する広範な疑念にもかかわらず、イラクが大量破壊兵器を求めているとされることを懸念しているブッシュ大統領は、正当化できるとバイデン主張した。イラクが1990年代中頃に、化学兵器庫を廃絶していたにもかかわらず、イラク戦争決議に至る数週間、サダム・フセインはまだ化学兵器を持っているとバイデンは断固主張していた。イラクが配備可能な生物兵器を開発した証拠などなく、生物兵器開発計画は数年前に廃絶したにもかかわらず、バイデンは、サダムは炭素菌を含む生物兵器を持っていると主張し、「彼は天然痘の細菌株を持っている可能性がある」と語った。さらに、国際原子力機関が、1998年という昔に、イラクが何らかの進行中の核開発計画を持っている証拠はないと報告したにもかかわらず、バイデンは、サダムは「核兵器を求めている」と主張した。
バイデンはこう言った。「一つはっきりしていることがある。これらの兵器をサダムから取り除くか、サダムを権力からはずさねばならない。」フセインを追放するためには、いかなる実際の兵器が存在する証明も不要だと彼は考えていた。一方で「もしも、我々がサダムの危機が明らかになるまで待つようであれば、遅すぎになる可能性がある。」と主張した。彼はさらに「国連や、同盟諸国を鼻であしらうことを彼はしなかった。新検査体制を解任しなかった。彼は議会を無視しなかった。重要な瞬間にはいつも、彼は節度と熟考の道を選んでいた。」と偽りの主張をして、ブッシュ大統領を擁護した。
戦争決議を正当化する為に仕組まれた、あのオーウェル風の言葉の歪曲として、はるか地球の裏側の国に、任意の時期、状況で侵略する先例のないことに対し、ブッシュ大統領に権限を与えるの承認で、バイデンはこう主張した。「私はこれを戦争への突進だとは思わない。これは平和と安全保障への行進だと信じている。この決議を圧倒的に支持しそこねれば、戦争が起こる可能性を高めかねないと信じている。」
バイデンは、侵略が決して、短期で、容易なものではなく、アメリカ合州国がかなりの長期間イラクを占領しなければならないことを十分に知りながら、それを支持したことを、特記しておかねばならない。彼こう宣言していた。「我々は、アメリカ国民に対して、はっきり言うべきだ。我々はイラクに対して、長期的に取り組むのだ。翌日までなどではなく、次の十年まで。」
バイデンの現在の立場
アメリカ侵略の悲劇的な結果と、それに伴う戦争に対する国民支持の弱まりに対応して、バイデンは、より最近では、政権の紛争処理方法を批判し、大半の戦闘部隊の撤退を主張する民主党議員の合唱に加わっている。彼は昨年初頭、ブッシュ大統領の兵員拡大(増派)に反対し、 イラク国内の現行の紛争解決には、国連や他国による一層の関与を主張した。
にもかかわらず、バイデンは、この国を、クルド、スンナ派アラブ人とシーア派アラブ人の現状区分されている区域で分離する案に対する、議会中の指導的支持者であるが、彼の提案は、イラク人の安定的多数によって反対され、主力のスンナ派、シーア派、そしてイラク国会内の世俗派によって、強く非難された。アメリカ国務省でさえ、バイデンの計画は余りに過激だと批判している。分割して統治せよという、ひねくれた危険な企み、中東の国境を引き直すというバイデンの野心的な狙いは、暴力的で、悲劇的な状況をさらに悪化させかねない。
ともあれ、2003年のアメリカ侵略に対する、議会承認を可能にする上でのバイデンの主要な役割は、オバマ支持者の間で、大きな懸念をひき起こしている。より最近には、自分の投票行動について遺憾の意を表明してはいるものの、公式に謝罪してはおらず、侵略そのものの違法性というよりは、ブッシュ政権による侵略後の占領処理がまずかったことを強調している。
決議に対するバイデンの支持は、単なる判断の誤りではなく、侵略戦争を禁ずる国連憲章や他の国際的法規に成文化されている原理の意図的な棄却である。憲法第VI条によれば、そのような棄却は、アメリカ法の違反にも等しい。バイデンは、もしも国連安全保障理事会が武力の使用を承認すれば、イラクに対するアメリカ軍の行為を承認したであろう、同僚の民主党上院議員カール・レビンが提案した修正案にすら反対し、アメリカ合州国が一方的に戦争を遂行することを承認するという共和党が提案した決議に賛成したのだ。実質的に、バイデンは、アメリカ合州国は、なぜか世界唯一の超大国として、たとえ現状ではアメリカの戦略的脅威となっていなくとも、他国を、したい放題に、侵略する権利を持っているというネオコンの見解を受け入れているのだ。
イラク戦争決議で示された危険な前例を考えると、戦争の主要支持者の一人を次期アメリカ副大統領になりうる人物として指名したことは、オバマ上院議員の国際法を守るという約束に対する深刻な疑問をひき起こしている。しかも、ブッシュ政権の8年間の後、より責任あるアメリカ海外政策を、世界が必死に待ち望んでいる時期にだ。大統領選挙運動の始めに、オバマは、イラクの戦争を終わらせるだけでなく、そもそもアメリカ合州国をイラクに侵略させた考え方そのものに挑戦すると約束した。しかしながら、バイデンを副大統領候補に選んだことで、「我々が信じられる変化」の約束をオバマが本当に守るのかどうかに対する疑念をひき起こしている。
Stephen Zunesは政治学教授で、サンフランシスコ大学の中東研究を統括しており、Foreign Policy in Focusのシニア・アナリストである。
記事原文のurl:www.fpif.org/fpiftxt/5492
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