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2008年8月 6日 (水)

ヨーロッパがオバマに夢中になっている理由は何か?

Chris Marsden

2008年7月24日

民主党大統領候補者バラク・オバマの三日間のヨーロッパ訪問をめぐるヨーロッパ・マスコミが生み出している絶賛の波には、非現実的な雰囲気がある。

オバマが今日ベルリンで何十万人もの聴衆に演説する予定のドイツ・マスコミは、オバマに対し、大絶賛だ。デア・シュピーゲルは、この「救世主的要素」が、広範な「新しいアメリカを求める心」によって動機づけられていることに触れている。フランクフルター・ルンドシャウは声高に言う。「リンカーン、ケネディ、オバマ。」ベルリナー・モルゲンポストは、彼のことを「新たなケネディ」と書き、ビルド紙も、「この黒人アメリカ人は、新たなケネディとなった!」と書いて後に続いた。

そのような言説には、特にマスコミのリベラルな部分において、一定の自己欺瞞がある。イギリスのガーディアンの世論調査で、もしもアメリカの大統領選がイギリスで決められるとすれば、オバマは5対1の票差で共和党のジョン・ マケインを打ち破るだろうことが判明している。

同じ新聞の論説記事で、ゲーリー・ヤングは、「オバマニア」現象を、ジョージ・ブッシュによってもたらされた「世界のアメリカ観」に対する「蔓延している、深刻な」ダメージの副産物だと説明している。「大半のヨーロッパ人は、彼を単にブッシュの有望な後継者としてだけでなく、ブッシュの全否定-反ブッシュとみなしている。今の大統領が喧嘩早く、度量が狭く、冷淡で、でくのぼうなのに対し、オバマは、融和的で、世馴れており、好奇心が強く、洗練されている。」

ガーディアンの日曜版姉妹紙、オブザーバーは、オバマ礼賛と同じ論拠を引用したコンスタンツェ・シュテルツェンミュラーの記事を掲載している。

「オバマ大統領はとうとうヨーロッパにやってきた! そう、アメリカ人はまだ彼を選んではいないのだが。我々に関する限り、そんなことは単なる事務手続きの問題だ。我々はとっくの昔に決心したのだ。我々の大統領はバラク・オバマだ。」

しかし、一般国民の中にある、オバマはブッシュ時代という狂気の後、より文明的な政治への回帰なのだという幻想を、マスコミは単にそのまま繰り返しているのだという考え方は誤っている。オバマを「反戦候補」として、あるいは、持たざる人々の声として描き出されたものをそのまま鵜呑みにするような、政治に不案内な連中が相手というわけではない。

新聞は、あらゆる公式な政治場面でオバマへのてこ入れを遂行している。海外政策にかかわるオバマの最近の演説を入念に追い続けてきた編集者やジャーナリストも加わっている。彼等は、アメリカの軍事力と経済力をどのように伝えるかをしっかり把握していて、実力行使をする場合にも、ブッシュよりも単独行動主義の程度が低い人物の背後で、ヨーロッパ列強とアメリカ合州国の間により良い関係を打ち立てる好機だと結論したのだ。

国際社会におけるアメリカ実業界の利益を守ることに尽力するし、またその力があることを、アメリカの実業界に請け合うことに、オバマは過去数週間を使ってきた。

多数の目立つ演説やインタビューで、彼が提案している、就任から16カ月以内イラクの兵員縮小という線表は、絶対に動かせないものであり、また完全撤退の要求ではないことを彼は明らかにしてきた。しかもそれは、アフガニスタンの駐留アメリカ兵員を10,000人も増強し、パキスタンで、国境を越える作戦を開始するという脅しへの呼びかけと結びついている。

これは、合州国がイラクで苦しんでいる大失敗は、アメリカの世界的な立場を損ない、中東のみならず、世界全体を不安定化させることを懸念しているヨーロッパ列強の海外政策の優先順序と基本的に一致する。

ヨーロッパ列強は、アメリカの負担で、他人の不幸を喜んでばかりいるわけにはいかないのだ。冷戦が終わっても、彼等は依然として、合州国を、帝国主義的世界秩序の主要拠点であり、中国やロシアというライバルに対する極めて重要な平衡力と見なしている。オバマ受容は、舵取り役としてマケインよりは安全であり、あるいは、少なくとも合州国を他の国々により巧みに売り込める人物だろうという計算によるところが大きい。

オバマがイラク首相ヌリ・アル・マリキと会った後、政府のスポークスマン、アリ・アル-ダバグは、提案された軍隊撤退の日程を支持した。彼は報道陣にこう語った。「具体的な日程や日にちは言えないが、イラク政府は2010年末が軍隊撤退に適切な時期だと考えている。」

兵員数60,000人におよぼうとする「残留兵力」をイラクに置いておくことは、オバマを試し、困らせるために、彼等が何を発言しようと、マケインと共和党の計画にも、一致している。イギリスのゴードン・ブラウン首相は、条件が許せば、イギリスの残留部隊を、バスラ空港の英軍基地から、2010年の次回総選挙前に撤退させたいと示唆したが、これはブッシュ政権との話し合いなしには話題にするはずがないテーマだ。

オバマの政策は、より明確にイランとの交渉による解決を指向してきている点で、ヨーロッパにとって、マケインより魅力的でもある。ヨーロッパ列強の大半は、イランとの間で起こりうる戦争は、イラクよりも酷い惨事になる可能性が高いと見ている。

ヨーロッパのアメリカ同盟国は、これまでの所、アフガニスタンに自国軍を増派し、進んでリスクを負おうとはしてきていないが、中東や中央アジアの石油埋蔵量を採掘する上で、より大きな分け前を与えるような、多国間協調路線の海外政策に戻ることをオバマが示唆したと、彼等が信じさえすれば、彼等は進んで増派するかも知れない。

オバマに対する賞讃が高まる背後の動機について何らかの疑問があるとすれば、イギリスの大手右派新聞、テレグラフとサンデー・タイムズの論評で、それも雲散霧消するだろう。

テレグラフは、兵員をイラクから撤退させる意図を明言したオバマとブラウンに好意的な社説を書いた。同紙は高らかに言う「本紙は、バース党専制の打倒を支持しており、即時撤退要求については否定的であった。しかし占領は、決して永久なものを意図してはいなかった。

「二年前、同盟軍は内戦を抑えきれておらず、駐留そのものによって激化させていると、バランスが変わりつつあることを指摘した。以来、我々は撤退のための線表を要求してきた。

「ブラウン首相もオバマ議員もイランとアフガニスタンへと焦点を移しつつある。これも歓迎すべきことだ。」

サンデー・タイムズは、ルパート・マードックの会社ニューズ・コープの刊行物なので、オバマに対する態度は特に重い意味がある。7月20日版のこの共和党支援の中枢メディアは、アンドルー・サリバンによる記事、「オバマとマケインは、お互いの戦線を曖昧にしている。」を目玉にしている。

サリバンは、オバマとマケインの間には、更には現在のブッシュ政権との間にさえ、海外政策において、かなりな程度の合意があると主張する。

「誰もが、他の人と同意しているように見えるのに、その事実を頑として受け入れようとしていない」と彼は書いている。

「イランを例にとろう。オバマは、アメリカは、直接、宗教指導者と取引し、核問題について交渉し、テヘランがウラン濃縮を中断することについて、前提条件なしに会談すべきだと主張していることは良く知られている。ほんのわずか前まで、向こう見ずで、融和的なオバマと、決然とした、チャーチルのようなブッシュとの間の、これは明確で重要な差異だと聞かされてきた。

「しかも先週、ブッシュは、高位の国務省職員ウイリアム・バーンズに、テヘランの代表との、イランの核問題についての会合に出席する承認を与えた....

「イラクはどうだろう? オバマの立場は、ずっと、兵員は、迅速に、ただし注意して撤退すべきだ、そして、アメリカ軍は焦点をアフガニスタンとパキスタンに移すべきだ、というものだ。そして、驚くことなかれ、先週ブッシュはアフガニスタンでの任務を強化するため、イラクにいる兵員の撤退を促進することを検討しているのだと聞かされたのだ。おまけに、マケインも、アフガニスタンへの「増派」と称するものを支持する演説をした」

「実際、各人が明らかにするであろう海外政策のスタイルを、最も近い誰かに例えなければならないとすれば、マケインはロナルド・レーガンに、そしてオバマは父親ブッシュ大統領に近いだろう。彼の外交を オバマは常々賞讃しているのだ...これは途方もない差異とはいえまい。」と彼は結論している。

マードック所有の報道機関が、オバマを、1991年の湾岸戦争の設計者、父親ブッシュに近いと表現しているのは、彼の帝国主義的海外政策メッセージが、どれほどはっきり受け止められているかという一つの目安だ。

サンデー・タイムズの同じ版は、もしもヨーロッパ列強がオバマ指揮下のワシントンと、より良好なつきあいを期待するのであれば、支払うべき代償があるはずだ、とも予言している。

サラ・バクスターは、「ヨーロッパは、オバマへの絶賛への返礼として、多少「愛のむち」を貰うことになるかも知れないとコメントしている。既にオバマはNATOに対し、アフガニスタンにより多くの兵員を派兵し、各国軍の使用に対する制限を緩和するよう要求している。彼の最高海外政策顧問スーザン・ライスは、訪問旅行直前に、ブッシュの不人気を利用して、力仕事をアメリカにまかせるような「ただ乗り客」はもはや許さないと警告した。」

オブザーバー紙の、コンスタンツェ・シュテルツェンミュラーの論説は、この点で重要である。彼女は、アメリカ合州国 (GMF)、ドイツ・マーシャル財団ベルリン事務所の所長であり、元ドイツの週刊誌ディー・ツァイトで軍事と国際安全保障問題の編集者だった。GMFは1972年にドイツからの贈与によって設立され、本部はワシントンDCにある。アメリカとヨーロッパの間の関係を促進することを目的としている。

シュテルゼンミュラーは、まず「アメリカとヨーロッパとの関係は、良い方に変化した。今日、太平洋同盟には、落ち着いた、実際的な協力の精神がみなぎっている。我々は多くの価値や関心の上で同意し、しばしば、常にではないにせよ、共通の目的を実現するためには、お互いを必要としているという合理的な認識に基づいている。」と主張する。

共通の自己利益に関するオバマの新たな認識を十分に活用する為には、ヨーロッパは応分の軍事的責任を負わなければならないのだ、と彼女は主張する。

ヨーロッパは既に「バルカン半島における虐殺を終わらせるため、アメリカが介入せざるをえなかった1990年代初期には、(とりわけヨーロッパ自身を含め)誰も予想できなかった程、軍事力による威嚇を背景にした外交が得意になった。9/11攻撃とアフガニスタンの安定化の問題が、自国の安全保障以外のことにも責任があるという自覚を、とうとうヨーロッパに強いたのだ。とはいえ、我々は自分の格に合った場所で戦うという状態からは、まだほど遠い。」

ヨーロッパは「共通のへその緒から、目を引き離して、世界の中における自分の役割と責任を真面目に考えるよう強いられている。対立の蔓延や、世代を超える課題である気候変動、ロシアや中国のような自信に満ちた独裁的大国の勃興といった課題が、アメリカとヨーロッパは、結局は、お互いに、ほぼ何よりも望んでいる相手なのだという洞察を強化してきた。これは自発的な諸国の同盟と呼ぶことさえできる。」と彼女は続けて言う。

「これら全てからして、アメリカの次期大統領は,ヨーロッパの助力と支援を、後々ではなく、間もなく要求することになるだろう。オバマもマケインも、理想主義者なので、ヨーロッパ人が新たに見つけた、グローバルな責任という感覚が、ヨーロッパをして、イエスと言わしめると、期待するだろう。我々はそうすべきか? そう、我々はそうすべきなのだ。我々がそうしなければ、大統領は、独断する現実主義者のままであり続けるだろうから。」

オバマに次期大統領になって欲しいというヨーロッパ列強の願いが実現されようと、されまいと、彼をアメリカと全ての人類に新たな「希望」をもたらす人物として賛美するという馬鹿げた企てを生み出す動機の背後にあるのはこれなのだ。これは、より平和な世界ではなく、合州国とヨーロッパ双方の軍国主義が益々成長を続けるという前兆だ。

下記も参照:

Obama in Iraq underscores his commitment to US militalism

[2008年7月23日]

The Obama candidacy and the new consensus on Afganistan翻訳オバマの立候補とアフガニスタンに関する新たな合意

[2008年7月21日]

記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2008/jul2008/obam-j24.shtml

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やがては、あるいは、すでに、日本でも、宗主国アメリカと属国日本の支配層の意見の提灯持ちとして、同じキャンペーンが始まり、継続されるだろう。

下記に引用する、ビル・トッテン氏の2008年08月05日付けコラムOW831にある通り、個人の資質の問題を超えた、国としての本質こそ問われるべきだろう。マスコミなるものによって、それが問われることは永遠にありえないのだが。

題名:No.831 イラン攻撃すれば世界経済破綻l

ブッシュの時代はまもなく終わる。11月の大統領選ではオバマ民主党候補が勝つといわれ、米国の政策に大きな変化がおとずれるだろうという期待論が聞かれる。それは共和党主導の、戦争の時代が終わることへの期待である。

しかしそれは甘い。米国が行ってきた戦争や暴力行為は、アイゼンハワー、ニクソン、レーガン、ブッシュ親子といった歴代の共和党大統領だけでなく、ケネディ、ジョンソン、カーター、クリントンと、民主党の大統領も同じようにやってきたことだからだ。今、イラクやアフガニスタンで行っている、社会基盤を破壊し、民間人をも殺害するという米国政府の残虐さは、政党の違い、保守派やリベラル派の違いではないのである。

もしイランとの戦争が始まれば、米国だけでなく日本も、そして世界の残りの国も、中東の石油へのアクセスを失うだろう。それは米国経済だけでなく、世界経済をも破綻させる事態をまねく。世界の警察どころか世界のならず者は、戦争という究極の暴力行為によって人命も、そしてこの地球の生態系も、すべて破壊しつくそうとしている。その怪物がアメリカ合衆国なのだ。

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