グルジア大統領サアカシュヴィリの背後にいる人形遣いたち
F. William Engdahl
2008年8月12日
08年8月8日の、南オセチアとアブハジアに対するグルジアの奇襲攻撃をめぐる論議のおかげで、物議を醸しているグルジア大統領と、背後の人形遣いを、じっくり検証することが重要になった。調べてみると、41歳のミヘイル・サーカシュビリは、アメリカとNATOの支配者層のみならず、さらにはイスラエル軍や諜報界の支配者層ともつながった、冷酷で、腐敗した全体主義者なのだ。老いゆくエドウアルド・シュワルナゼを権力から放逐し、アメリカの大学を卒業した36歳の人物を権力の座につけた、2003年11月の有名な「バラ革命」は、アメリカ国務省や、ソロス財団や、ペンタゴンやアメリカの諜報世界とつながる機関が、動かし、資金援助をしていたものなのだ。
エネルギー・パイプラインや、民営化をめぐり、モスクワと取引を始め、もはやワシントンにとってご用済みとなった、旧ソ連の外務大臣エドゥアルド・シュワルナゼが率いる既存政権に対し、最も洗練されたアメリカの体制転覆作戦の一つ、大衆による抗議という雰囲気の外見を盛り上げるのに、民間NGO(非政府組織)を活用して、ミヘイル・サアカシュヴィリは、意図的に政権の座に祭り上げられた。
サアカシュヴィリは、アメリカの海外政策課題に対し、敵対的と見なされる体制を不安定化させるアメリカの新手法の活用として、アメリカが財政支援するNGOを基盤にして進めた、アメリカが仕組んだクーデターによって、政権の座につけられた。2003年11月24日、ウォール・ストリート・ジャーナルは、シュワルナゼ政権の転覆は「アメリカと他の西側諸国の財団によって支援された大量の非政府組織」による作戦のおかげだとはっきり書いた。ジャーナルは更に書いていた。これらNGOが、「若く、英語を話す、親西側改革を切望するインテリの集団を生み出したこと」が、無血クーデターの下地を作る上で助けとなった。
NGOによるクーデター
だがそれだけではない。CIAが支援した同じNGO連を用いたベオグラードでのスロボダン・ミロシェビッチ追放という画策に成功した直後、トビリシに着任した駐グルジア・アメリカ大使リチャード・マイルズによって、こうしたNGOは組織化されていたのだ。秘密諜報工作員と見なされているマイルズが、サアカシュヴィリのクーデターを監督したのだ。
これには、アメリカの億万長者ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティー・グルジア財団が関与していた。元CIA長官ジェームズ・ウルジーが理事長で、ワシントンに本拠をおくフリーダム・ハウスも関与していた。1980年代にロナルド・レーガンが「それまでCIAが行ってきたことを、民間で行う」ために、つまりアメリカ政府が、非友好的と見なす政権に対するクーデターのために、創立した機関、全米民主主義基金からの、惜しみない資金援助がからんでいた。
ジョージ・ソロスの財団は、1989年の天安門での学生デモ以来、ロシアや中国や、無数の東欧諸国から退去をしいられていた。ソロスはまたアメリカ国務省と共に、アメリカを本拠とし、グルジアやウクライナの2004年オレンジ革命等々の体制転覆クーデターで、NGO組織全体の宣伝部門の役割を果たしているヒューマン・ライト・ウォッチの資金援助者だ。アナリストの中には、ソロスは、アメリカ国務省、あるいは諜報機関の高位の諜報員で、個人的な財団を隠れ蓑として使っていると考えている人々がいる。
もはや協力的ではなくなったシュワルナゼの後継候補として、アメリカが承認したサアカシュヴィリが率いるグルジア自由協会に、アメリカ国務省は資金援助をした。自由協会は、「クマラ!」という組織を生み出したが、これは「もうたくさんだ!」という意味である。当時のBBC報道によると、「クマラ!」は、サアカシュヴィリが、自ら選んだグルジア人学生活動家達と共に、アメリカが資金援助していた組織、ミロシェビッチを打倒した「オトポル(訳注:反抗という意味)」の活動家たちから学ぶべく、ソロス財団の資金でベオグラードに2003年春に派遣された時、組織されたのだという。彼らは、ジーン・シャープ*の「戦争の一手段としての非暴力」を講じる、非暴力抵抗ベオグラード・センターで訓練された。(*訳注:Gene Sharp, The Politics of Nonviolent Action, Part One書評、および田中宇氏の記事を参照)
マフィア的大統領としてのサアカシュヴィリ
2004年1月、グルジア新大統領の地位につくやいなや、サアカシュヴィリは、取り巻き連中や血縁者を政権に押し込み始めた。2005年2月のズラブ・ジワニア首相の死は、依然としてミステリーだ。欠陥のあるガス暖房機による中毒死だとする公式版が、死亡から二週間のうちに、アメリカFBIの捜査官により採用された。グルジアの犯罪組織の殺害、犯罪や、他の社会的腐敗の現象に詳しい人々にとって、これは到底信頼に値するものとは思われていない。ジワニアの死後間もなく、首相府の職員ゲオルギ・ヘラシビリが、上司が死亡した翌日、拳銃自殺したとされる。ジワニア事件の捜査スタッフの長も、後に死亡しているのが見つかっている。
サアカシュヴィリと結びついた大物連中が首相の死に関与していたと伝えられている。ロシア人ジャーナリスト、マリーナ・ペレボズキナは、グルジア人経済学者ギア・クラシビリの発言を引用している。死亡事件の前、クラシビリは、レゾナンス紙に、グルジアの主要ガス・パイプラインの民営化と売却に反対する記事を寄稿していた。首相の死体が発見される十日前、クラシビリが襲われ、編集長は、名前をだすことを拒否した「治安機関」の人物による警告という脅迫に言及した。
パイプライン問題に対する故首相の姿勢が、ジワニア殺害の直接の理由だと信じられている。ジワニアの弟ゲオルギも、ジワニアが死ぬちょっと前に、誰かが兄を殺そうとしているという警告を受けた、とペレボズキナに語っている。アメリカ国務省が、ジワニアを、アメリカ政府「自由のメダル」を受賞するためワシントンに招待した際、サアカシュヴィリは激怒したと伝えられている。サアカシュヴィリは、権力に対するライバルには我慢できないもののようだ。
賢明にも「腐敗に反対」だと自分を売り込んできたサアカシュヴィリは、家族の何人かを政府の儲かる地位に任命し、兄弟の一人をブリティッシ・ペトローリアムや他の多国籍石油会社が後押しするバクー-ジェイハン・(BTC)パイプライン計画の、国内問題担当主席顧問に任命した。
アメリカの支援によって、2004年に権力の地位について以来、サアカシュヴィリは大量逮捕、投獄、拷問という政策をとり、腐敗の度を深めた。サアカシュヴィリは、国会では、ダミーの野党にごくわずかな議席を持たせ、事実上の一党国家を生み出すよう取り仕切り、この公僕は、自分用のチャウシェスク風宮殿をトビリシ郊外に建設している。雑誌シビル・グルジア(2004年3月22日)によると、サアカシュヴィリと多くの閣僚の給料は、2005年まで、ニューヨークを本拠とする通貨投機家ソロスのNGOネットワークと国連開発計画から支払われていたという。
イスラエルとアメリカの軍がグルジア軍を訓練
南オセチアとアブハジアに対する今回の軍事攻撃は、領土紛争には、軍事的解決ではなく、外交的解決を考えるというサアカシュヴィリの約束に反しているが、アメリカとイスラエル軍事「顧問」が後押しをしているのだ。8月10日、グルジアの再統合相、テムール・ヤコブシビリは「グルジア軍訓練におけるイスラエル国防軍の役割を称賛し、陸軍ラジオ放送とのインタビューで、イスラエルは軍事力を誇りにすべきだと語っている、とイスラエルのハーレツ紙は報じている。「イスラエルは、グルジア兵士を訓練したイスラエル軍を、誇りにすべきです」ヤコブシビリは、陸軍ラジオ放送で、グルジアが契約したイスラエルの民間企業について言及し、ヘブライ語でそう語った。」
トビリシ近郊におけるロシア爆撃の目標の一つは、IsraelNN.comによると、「イスラエル専門家が、グルジア軍のために、ジェット戦闘機の機能改良をしているグルジアの軍事工場で…ロシア・ジェット戦闘機は、トビリシ近くにある工場内の滑走路を爆撃したが、そこでイスラエル警備会社Elbitが、グルジアのSU-25ジェット機の機能改良作業にあたっていた。」
イスラエル外務大臣で、今やイスラエル首相の地位を追われたオルメルトの後継者候補、筆頭副首相ツィピ・リヴニは、8月10日に「イスラエルは、グルジア領土の保全を承認する」と宣言しているが、これは南オセチアとアブハジアを専有しようというグルジアの試みを支持することを意味する暗号だ。
グルジアにいるとされる1,000人のイスラエル軍事顧問は孤立してはいない。7月15日、ロイターは以下のような報道をした。「グルジア、ヴァジアニ- 1,000人のアメリカ兵士が、火曜日、グルジアと隣国ロシアとの間の高まる摩擦を背景に、グルジアで「即時対応2008」という名の軍事訓練演習を開始した。二週間の演習は、首都トビリシに近いヴァジアニ軍事基地で行われた。この基地は、この十年間の最初に、ヨーロッパ軍備縮小条約のもとで、ロシア軍が撤退するまでは、ロシア空軍基地だった... グルジアは、アメリカが率いるイラク駐留連合軍を支援し、2,000人強の部隊を派兵しており、ワシントンは、グルジア軍に大使、訓練と装備を提供している。アメリカ合州国は、グルジアの同盟国で、NATO軍事同盟に加盟しようというトビリシの努力を支援して、ロシアを苛立たせてきた。... 「この演習の主目的は、アメリカとグルジア軍の間の協力と協調を強化することである」と、アメリカ陸軍南欧任務部隊司令官ウイリアム・B・ギャレット准将は、記者団に語っている。」
ロシアは、この地域におけるロシアの勢力を維持すべく、あからさまに南オセチアとアブハジア固有の軍隊を支援、訓練している。特に、2004年、アメリカが支援する親NATOのサアカシュヴィリ政権が権力を掌握して以来、ソ連や、ナチス・ドイツや他の国々が、資金や兵器や志願兵を注ぎこみ、第二次世界大戦の前兆となった壊滅的な戦争である、1936-1939年の内戦時スペインと似たような状況へと、カフカスは急速に変わりつつある。
プーチン、ジョージ・W・ブッシュや、多くの世界の指導者たちが、遥か北京にいる時点のオリンピック開会式当日に、実際に戦闘を開始したことに対する、奇妙な脚注として、IsraelNN.comでの、グル・ローネンの報道がある。そこで彼はこう言っている「Nfcによると、南オセチアに対するグルジアの動きは、イスラエルとイランに絡む政治的な思惑がその動機だ。グルジア軍に対する支援を削減するという決定を、イスラエルが再考することを強いるため、グルジア大統領ミヘイル・サアカシュヴィリは、分離派地域に対する支配権を主張することを決断した。」
ローネンは、更にこう付け加えている。「数日前、モスクワが、エルサレムとワシントンに、ロシアは、グルジアに対し、シリアやイランに高度な対空システムを売り渡すという継続的な支援で対応するつもりであることを明らかにして以来、イスラエルはグルジアに対する支援を停止することを決めたと、ロシアとグルジアのマスコミは報じている。」イスラエルは、カスピ海からのバクー-トビリシ-ジェイハン・パイプラインから、石油とガスを入手する計画だ。
本記事執筆の時点では、ロシアのメドベージェフ大統領が、ロシアはグルジアの目標に対する軍事的対応を停止していると宣言したものの、状況は安定とはほど遠い。グルジアをアメリカの地政学的勢力範囲に取り込み、ミヘイル・サーカシビリをめぐる不安定な政権を支援することをワシントンが固執すれば、それは、ロシアというラクダの、背中ではないにせよ、忍耐力を打ち砕く、最後の藁となる可能性がある。
石油パイプライン紛争、あるいは、ロシアのイスラエルに対する挑戦のいずれが、サアカシュヴィリの危険な火遊びの直接の要因であるかはともかく、一触即発状態のグルジアと、その人形遣いたちは、誰もその結果を制御できないようなゲームを始めてしまった可能性があることだけは明らかだ。
記事原文のurl:www.engdahl.oilgeopolitics.net/Geopolitics___Eurasia/Saakashvili/saakashvili.html
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2011/2/19追記:
ネットを活用した市民運動、手放しで賛美する気には毛頭なれない。それぞれの市民運動の背景が重要だろう。カラー革命なるものを実現した市民運動、いずれも、根源はアメリカにあった。資金・思想。
今、アフリカや中東で起きていることは、この工作の最新IT版だろう。インターネットの新たなアプリケーションであるソーシャル・ネットワーク、フェイスブック、ツィッター、そしてグーグル、携帯電話を存分に活用して。
その人形遣いたちが、誰もその結果を制御できないようなゲームを始めてしまった可能性がある
かどうか、まだわからない。結果を制御できないゲームを始めるはずはないだろう。当然、素人にはわからない狙いがあるのだろう。
当然、一の子分の属国においても、同工異曲のソーシャル・ネットワーク反革命市民運動作戦は進行中だろう。名古屋選挙、最初の成功例だったかもしれない。
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TB有難うございました。
ジーンシャープの本のことを、ニューヨークタイムズが書いているということは、
やはり彼の書は、アメリカ政府の意思を伝える為のものであったということなのでしょうか?
小沢さんを不遇にして同情を集めているのも、新しい統治形態を創る為の一環だったりして・・・・・
投稿: 和久希世 | 2011年2月25日 (金) 11時37分