オバマ、アメリカの支配エリートを安心させるべくバイデンを選択
パトリック・マーチン
2008年8月25日
ジョセフ・バイデン上院議員が、民主党副大統領候補者に選出されたことは、民主党の大統領予備選挙活動の欺まん的性格と、二大政党大統領選挙制度そのものの非民主的性格を強調するものだ。「変化」の主唱者と思われている、民主党大統領候補バラク・オバマが、副大統領候補として、アメリカ帝国主義と大企業の利益に対する折り紙付きの守護者、六期にわたるアメリカ上院議員、ワシントン既成権力集団の常連を選んだのだ。
バイデンが副大統領候補者に選ばれたお披露目に、ここ三日間マスコミの注目がエスカレートし、ついには、土曜日早々のメール・テキストによる発表と、イリノイ州、スプリングフィールドでの出陣式に至った様は、オバマ選挙運動そのものの暗喩だ。彼が大統領候補になったのは、下からの反乱ではなく、インターネット技術や、俗受けのするマーケティング・テクニックを用い、迎合的マスコミの助力を得て、全く従来通りの、アメリカ支配層エリートの要求に調和する政治結果を生み出すため、大衆の感情を操作しようという努力によるものなのだ。
巨大な二政党の一方の中で、副大統領候補者を選出するには、様々な組織勢力間で、複雑なバランスをとる活動が必要だったのは、遠い昔のことだ。民主党の場合には、労働組合幹部、人権団体、議院のリーダーたちや、特に有力な州や都会の政党機関幹部と、相談することが必要だった。
現代、どちらの党もしっかりした大衆的基盤を持っているわけではない。いずれの党も、実際には、たった一つの本当の「支持層」しかない。経済と政治を牛耳り、マスメディアを支配し、その利害で、海外および国内両方の政府政策を決定する金融特権階級だ。選挙人投票数が、わずか三票しかない小さな州の上院議員で、彼自身の大統領候補としての努力は、大衆の支持の欠如から、惨めに失敗したバイデンが選ばれたことは、政治権力集団全体と一般大衆アメリカ人とを隔てている広大な裂け目を強調するものだ。
オバマが、バイデンを選んだということは、秋の選挙運動で、大統領選挙という目的のために、どのような大衆向けの美辞麗句が使われようと、ひたすら支配層エリートの富と特権と、アメリカ帝国主義の地政学-戦略的目標だけが、民主党政権の関心事だということの保証になろう。
支配体制の人
バイデンは、30年間にわたって、政治権力中枢における要人である。彼は、1972年、デラウエア州から初めてアメリカ上院議員として選出されたが、当時はリチャード・ニクソンが大統領で、オバマは11歳だった。以来、彼は七代の政権を通じて、議席を確保してきた。彼は二つの最も重要な上院委員会の委員長を勤めた。最高裁判所を含め、裁判所の就任指名を吟味する法務委員会、および上院外交委員会だが、後者では、バイデンは、2001年から2002年まで、そして民主党が2006年の選挙で上院多数派を再度得た後、再び、委員長を勤めている。バイデンは20年前と、今年再び、大統領選挙に出馬した。
1990年代、ビル・クリントンがホワイト・ハウスの主でいた間、バイデンは、旧ユーゴスラビアに対するアメリカの介入の主な提案者の一人だった。彼は昨年刊行された、彼の大統領選挙運動用自伝の中で、この役割を、海外政策において最も誇りに思う実績だと書いている。1990年代中頃、彼は、セルビアに対抗すべく、ボスニアのイスラム教政権に、アメリカが武器供与をするよう呼びかけ、1999年のコソボ危機時には、セルビアに対するアメリカの直接攻撃を擁護し、志を同じくする共和党上院議員と協力して、セルビアに対して「必要なあらゆる武力」を使う権限をクリントンに与える、マケイン-バイデン・コソボ決議を実現させた。
この立法提案は、イラクに対して戦争を遂行する権限をブッシュに与える2002年の上院決議の模範となっている。そこでは、バイデンは共和党上院議員リチャード・ルーガーと共に提案を提出していた。ブッシュ政権は、それがイラクから大量破壊兵器のみを駆逐することに限定されていた為に、バイデン-ルーガー決議に反対し、民主党が多数派を占める上院で、より広範な戦争決議を採択するよう、まんまと働きかけ、それに対して、バイデンは賛成票を投じた。
国内政策では、バイデンは、冷戦時代にまでルーツをさかのぼる従来型のリベラルだ。彼は、時折、貧者や虐げられた大衆に対する関心、労働組合幹部との親密な関係についての一般大衆に向けた決まり文句と、利益システムに対する手放しの擁護を組み合わせている。他のあらゆる上院議員同様、彼は、自分の州デラウエア州を本拠として活動し、2005年にバンク・オブ・アメリカに買収されるまで最大の独立クレジット・カード発行業者だったMBNAを含めた大企業の利益の「世話をしてきた」。
そういう立場から、バイデンは、MBNAのような企業が活用する、不正で紛らわしいマーケティング戦術によって、いっそう悪化させられている借金の重荷から、労働者階級や中流階級の家族が抜け出すことを更に困難にした、反動的な2005年消費者破産法見直し法案の、民主党議員として最も熱心な支持者の一人だった。2005年の法律は、差し押さえを逃れようとしている行き詰まった自宅所有者の問題を悪化させた。
バイデンは、上院討議の間、この破産法を擁護し、ジョン・ マケインを含む圧倒的大多数の共和党議院と共に、同法案に賛成した。オバマはこの法案に反対し、2008年の選挙運動の間、労働者家族に対する懲罰的な対策だとして、繰り返し攻撃してきた。
MBNA社員は、バイデンの過去二十年にわたる選挙運動において、最大の資金支援者だった。2003年、MBNA社は、この上院議員の法学大学院を卒業したばかりの息子ハンター・バイデンを雇い入れ、あっと言う間に彼を上級副社長に出世させた。(アメリカ上院議員の標準から見れば、彼の父親は裕福ではないが、ハンター・バイデンは今やヘッジ・ファンドの大富豪になっている。)
バイデンは、時折、オバマより、若干リベラルな立場をとってきた 最近では、政府による電話会話と電子メール監視の大規模な拡張を承認し、そのような不法なスパイ行為に過去七年間協力してきた巨大通信企業に、法律的な免責を与える法案(オバマはこれを支持している)に反対した。しかし彼はアメリカ愛国者法の熱烈な支持者であり、今回の民主党大統領予備選挙運動中、彼の論敵からの批判に対して、愛国者法を擁護していた。
バイデンとイラク戦争
オバマ上院議員が、民主党の指名競争で、ヒラリー・クリントンを圧倒した大きな原因は、彼女は2002年10月に、イラク戦争を是認する賛成票を投じたが、一方で、当時はアメリカ上院議員ではなかったオバマは、戦争をするという判断に、口頭で反対していたということによる部分が大きい。政治的経歴上のこの差異は、2005年1月上院議員となってからのオバマ記録は、クリントンのそれと、ほとんど区別しようがないにもかかわらず、反戦気分に訴えるべく、オバマの選挙運動で活用された。
イラクにかかわるバイデンの経歴は、彼が副大統領候補として選出されたことを、いっそうcynical、つまり、彼は大半の民主党上院議員よりもずっと長い間、この戦争の熱心な支持者だったのだから。更に100,000人のアメリカ兵の派兵や、イラクを、かつてのユーゴスラビアの範に習って、恐らくは、支配がより容易であろう、スンナ派、シーア派とクルド族の小国に分割することを含め、戦争に勝つため、劇的な暴力レベルの強化策を彼は支持していた。
2003年3月、アメリカによる、いわれのない侵略を開始する準備段階で、バイデンはブッシュ政権のプロパガンダに同調した。2003年2月のコリン・パウエル国務長官の悪名高い国連安全保障理事会への登場直後、上院外交委員会公聴会でバイデンは、まくしたてた。「私はあなたと知り合いであることを誇りに思います。あなたの立場、あなたの評判、そしてあなたの品位ゆえに、誰よりも良い仕事をなさったと考えています...」今ではパウエルのイラク非難における、あらゆる主要項目が誤っていたことが証明されている。
大量破壊兵器や、アルカイダや9/11攻撃に対するイラクの結びつきにまつわるブッシュ政権の嘘が暴露されると、バイデンは、戦争に対する大衆の支持を維持するための十分な論理的根拠を見つけ損ねた、ブッシュ政権の失敗に対し、ますます懸念を表すようになった。
アメリカ人に対して、戦争を効果的に売り込みそこねた、ブッシュ政権の過ちを嘆き悲しんでいる。2005年6月、ブルッキングス研究所での演説で彼は宣言した。「私はアメリカの大統領がイラクで成功するのを見たいのです...彼の成功はアメリカの成功であり、彼の失敗はアメリカの失敗なのです。」
バイデンは、特に、戦場の現実と食い違う、ペンタゴンやホワイト・ハウスが発表する、イラクではすぐに成功できる、というバラ色の予測に批判的だった。「この食い違いが、悲観的な考え方に油を注ぎ、わが軍隊がその任務を果たせるよう、我々が与えるべき最も重要な武器、つまり、アメリカ人による不屈の支持を浸食しているものと考えます。支持は衰えつつあります。」
世論が決定的に戦争反対であることが判明すると、ようやくバイデンはエスカレーション支持から、アメリカ軍の限定的撤退へと立場を変えた。ワシントン・ポスト紙の2005年後半のあるコラムは、デラウエア州選出古参上院議員の見解と、イリノイ州選出新人上院議員バラク・オバマの見解の収束について触れ、バイデンを「サダム・フセインに対するアメリカの介入に対する、初期からの変わらぬ支持者」と書いていた。
2006年11月に民主党が再び上院の多数派を占めると、バイデンは上院外交委員会の委員長となり、上院民主党が、ブッシュの「増派」政策に降伏する上で、重要な役割を演じた。何百万人もの反戦投票者は、戦争を終わらせようと民主党に票を投じたが、ホワイト・ハウスは逆に戦争をエスカレートさせ、民主党は全く意気地がなく、結局は賛成した。
民主党が多数派を占める上院は、戦争の遂行に対する遠慮がちな制限をブッシュが拒否した後に、意気地なく屈伏し、2007年5月には、イラクとアフガニスタンにおける軍事作戦に対する全額支出の法案を通した。クリントンやオバマを含む、何人かの民主党上院議員が、資金調達法案に、抗議として反対投票すると、バイデンは、軍の安全を傷つけるものだとして、彼らを強く非難した。
この重要な投票から二週間後、バイデンは、戦争を終わらせようとして「我々は毎日、自分の首を折ろうとしている」と主張して、民主党議会の反戦論者を非難した。彼は言った。かなりの数の共和党上院議員が離脱して、ブッシュの拒否権を覆すのに必要な三分の二の多数派ができるか、あるいは民主党の大統領がホワイト・ハウス入りするまで、戦争には終わりなどない。「我々が67票を得られるまでは、あそこにいる軍隊の安全のために資金を拠出する。」と彼は宣言した。
その頃には、民主党大統領候補選はかなり進んでおり、バイデンは、ほとんど支持を得られず、代表人も得られなかったが、政治的には重要な役割を演じた。World Socialist Webサイトは、2007年8月の候補者討論の後、こう記した。「バイデンは、最も嬉々として、反戦感情を公的になじる民主党大統領候補者、という得意の分野を開拓した。」
討論の過程で、バイデンは、迅速に撤退すると脅せば、アメリカ政府は、イラクの政治家たちに、否応なしに、バグダッドに安定した政府を作るよう強いることができようと主張する人々を、攻撃した。彼は「ここにいる人々が生きているうちに、イラク人がまとまり、バグダッドに、国を一つにまとめるような統一政府ができる可能性があるかのようないかなる幻想も」非難した。「そうなことになりはしないのです.... ここにいる人々が生きている間には、そういうことなどおきないのです。」言い換えれば、アメリカ占領を、永遠に続けねばなるまいということだ。
過去数日にわたり、民主党幹部やメディアから、無数の示唆があったが、論争で激しく対立するというバイデンの評判を考えると、彼が選出されたのは、オバマ選挙運動側が、より攻撃的態度に出ることを暗示している。経歴からして、バイデンは、オバマ選挙運動への反戦派評論家に対する「かみつき犬」として登用されたという可能性が極めて高い。
この事実から、ネーションといういわゆる「反戦」誌は、卑劣にも、バイデンを受け入れるに至っている。ワシントンの左翼リベラル雑誌編集者であるジョン・ニコルズは、バイデンを選んだことは「まずまずの結果であり、恐らくは、偉大な副大統領選択の満足すべき結果とさえ言え」、票をオバマの方に呼び戻せる可能性がでたと書いている。
土曜日のスプリングフィールドにおける出陣式に触れ、ニコルズは、まくしたてた。「バイデンが、勢いよく、そう、オバマの選挙演説に欠けていた毒をもって、ジョン・ マケインを追求してくれれば、それはパンチをくらうよりは、パンチを繰り出す用意ができている選挙運動を待っていた軍団にとって、強壮剤となろう。」
この反応は、アメリカ合州国の労働者が直面する政治危機に関する根本的な真実を確認させてくれる。まず、民主党という拘束衣から抜け出ることなしには、アメリカ帝国主義や、その社会の反動化と戦争という計画に対し、真面目な戦いを行うことは不可能だ。
アメリカの支配者エリートにとって、誰が今後四年間、自分たちの全軍最高司令官になるのかを決定する、オバマ-マケインの競争の結果に、労働者は何の利害関係もない。労働階級が直面する課題は、二大政党制度から決別して、社会主義と国際協調主義に基づく、独立した政治運動を立ち上げることだ。
下記も参照:
Leading Democratic
presidential candidates disavow rapid Iraq withdrawal
[August 21, 2007]
Iraq escalation heightens
political crisis in Washington
[January 13, 2007]
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