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2008年8月23日 (土)

いっそNATOを廃絶しては?

Prof. Rodrigue Tremblay

2008年8月20日

thenewamericanempire.com

        [NATOの目標は] ロシアを締め出し、アメリカを呼び入れ、ドイツを弱体化することだ」
初代NATO事務総長、イズメイ卿

        「グルジアの安全保障を評価し、この極めて危険な状況の安定化に貢献するためにNATOがとれる手段を検討する目的で、北大西洋条約機構理事会の会合を即座に招集すべきだ。」
ジョン・ マケイン上院議員(2008年8月8日)

        「もし我々が先制して、ロシアと、グルジアと、協力し、NATOが能力をもち、駐留し、関与できるようにしていれば、恐らくこれ[グルジアによる南オセチア侵略と、それに続くロシアの反撃]を防ぐことができただろう。」 
元上院多数党院内総務で、バラク・オバマ上院議員の顧問、トム・ダシュル(2008年8月17日)

        「公衆の自由に対するあらゆる敵の中で、戦争こそが、おそらくは最も恐れられるべきだろう。なぜなら、それこそが他のすべての根源を、構成し、生み出すものなのだから。」
第四代アメリカ大統領、ジェームズ・マディソン(1751-1836)、

北大西洋条約機構(NATO)は冷戦の遺物の一つだ。西欧諸国に加え、カナダとアメリカ合州国をソ連の侵略から守るための防衛同盟として、NATOは1949年4月4日に創設された。

1991年以後、ソ連帝国は最早存在せず、ロシアは経済的に西欧諸国と協力し、ガスと石油、更にあらゆる種類の商品を供給してきた。これによりヨーロッパの経済的な相互依存が増大し、従って、ヨーロッパ各国の国防軍を超越する、そのような防衛用軍事同盟の必要性は大いに低減した。

しかしアメリカ政府はそういう見方をしていない。アメリカは、ヨーロッパの上位にある保護者かつ世界唯一の超大国という役割を確保していたいのだ。NATOは、その目的のために便利な道具なのだ。しかし、片手にはガソリンの缶を、もう一方の手にはマッチの入った箱を持って、世界中を回り、火災保険を売りつけるふりをする連中に対して、世界は懸念すべきなのかも知れない。

現時点では、アメリカ政府とアメリカ海外政策の重鎮たちは、NATOを、世界中に対するアメリカの海外介入政策にとっての重要な道具とみなしているというのが現実だ。多くのアメリカの政治家は、もはや現実の国連を、世界平和の維持に専念する最高の国際機関として支持しておらず、彼らの目からすれば、アメリカが支配するNATOの方が、それがなければ、違法で、攻撃的な世界中での軍事事業に対する、合法的な隠れ蓑となってくれる、最も魅力的な国連の代替物だ。彼ら、アメリカは安全保障理事会における五つの理事国の一国でありながらも、国連で妥協を強いられるよりは、たとえ重複する一機関となったにせよ、NATOのように小さな組織を完全支配する方を好んでいるわけだ。

これこそが、アメリカ海外政策の融通の利く道具へと一変させるため、NATOを作り直し、新たに方向づけし、拡大しようという提案の背後にある、強固な根拠だ。これは重複する機関には、それなりの意味・役割があるという証明の一つだ。事実、この組織がそもそも最初そのために設立された目的が、もはや存在しない以上、この組織を存続させるために、新たな目的がでっちあげられたのだ。

NATOについて言えば、世界のそれ以外の諸国に対して、アメリカ帝国主導の、強化された、攻撃的な政治、軍事同盟へと作り替えるのが計画だ。計画によれば、NATOは、ワルシャワ条約加盟国のほとんどの国々を含む中東欧地域(ポーランド、チェコ、スロバキア、ブルガリア、ルーマニア、アルバニア、そしてハンガリー)に拡大するのみならず、多くの旧ソ連共和国(エストニア、リトアニア、ラトビア、グルジア、そしてウクライナ)だけにとどまらず、更には日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国をふくむアジア、および、恐らくは中東のイスラエルも加入を認めるだろう。現在、元々は加盟国が12だったNATOは、加盟国が26もある組織へと急成長した。将来、もしもアメリカが思い通りにできるなら、NATOは加盟国40という組織になりうる。

アメリカ合州国では、共和党も民主党も、古いNATOをこの新しい攻撃的軍事同盟に作り替えることを、世界中で、アメリカと、イスラエルのような、近しい同盟国の権益を増大させるための、良い(ネオコンの)考え方だと見なしている。これは、ネオコンのブッシュ-チェイニー政権のみならず、ジョン・ マケイン上院議員とバラク・オバマ上院議員という、二人の2008年アメリカ大統領候補者についているネオコン顧問たちまでもが、熱心に推進している考え方だ。実際、2008年の大統領候補者は二人とも、熱心な軍事介入主義者なのだが、これは本質的に、二人とも同じネオコン陣営出身の顧問に依存しているためだ。

たとえば、ブッシュ-チェイニーらが、旧ソ連共和国のグルジアに、無鉄砲にもNATO加盟や、アメリカの軍事支援や補給という約束をせいているのが、ワシントンD.C.でアメリカの二大政党が、NATOのことをどう考えているのかを示す好い例だ。第一に、共和党大統領候補ジョン・ マケインは、ネオコンが思いついた、事実上国連を置き換え、それを通して、アメリカ合州国が世界を支配する「民主主義連盟(League of democracy)」をもとに組み立てられる新世界秩序をもくろんでいる。第二に、バラク・オバマ上院議員の立場は、マケイン上院議員の海外政策案とさほど変わらないということだ。実際、オバマ上院議員は、たとえそうすることで、国連を無視しなければならなくとも、地域的危機に対し、「人道的な目的」の為に、アメリカ軍を使用し、多国籍軍事介入することを支持している。従って、もしも彼が大統領になれば、オバマ上院議員が、マケイン上院議員の世界観を採用することに何ら良心の呵責など感じまいことは確実だ。たとえば、いずれの大統領候補も、NATO条約から「第一撃」をしないという条項を削除することをおそらく支持するだろう。どちらの政治家がホワイト・ハウス入りしようと、世界は更に無法になり、更に安全でなくなり、無法のブッシュ-チェイニー政権の元で進歩しなかったのと同様、進歩もしないことが当然と考えるほうが良さそうだ。

しかしながら、NATOにとって、この新たな攻撃的や役割が、果たしてヨーロッパ諸国やカナダの利益になるかどうかは、はっきりしない。特に西欧にとって、ロシア、そしておそらくは中国との冷戦復活に対して、恐れるべきことは無数にある。北大西洋の防衛的軍事組織から、アメリカが率いる世界的な攻撃用軍事組織へというNATOの変質は、世界中で深刻な国際的、地政学的結果をもたらすだろうが、特にヨーロッパへの影響は甚大だ。ヨーロッパは、ロシアに強い経済的関心を抱いている。それなら、なぜロシアのすぐ戸口までNATOを拡張し、ミサイル網をロシアのすぐ隣にまで設置する、軍事的ロシア包囲というブッシュ-チェイニー政権の攻撃的政策に乗るのだろう? ヨーロッパにとっては、ロシアと平和な経済的、政治的関係を築く方が良いのではあるまいか? なぜ次の戦争を準備するのだろう?

カナダについて言えば、ネオコン少数派のハーパー政権の元で、外交問題に関する限り、悲しいことに、事実上の、アメリカ植民地となっているが、それも、この趣旨に関する、カナダ内での真面目な討論も国民投票も無しでだ。カナダが、決してやってはいけないのは、この地雷が敷きつめられた道を更に突き進むことだ。

結論としては、武力外交と砲艦外交への回帰を支持することにより、平和、自由貿易と、世界秩序の基礎としての国際法の実現という人道主義者の考え方は放棄されたもののように見える。これは100年もの逆行だ。

実に遺憾なことだ。

Rodrigue Tremblayはモントリオール大学の経済学名誉教授であり、rodrigue.tremblay@yahoo.comで連絡がとれる。彼は「新アメリカ帝国」 'The New American Empire'の著者。

著者のblog: www.thenewamericanempire.com/blog.

著者のWeb: www.thenewamericanempire.com/

Dr. Tremblayの近刊書"The Code for Global Ethics"については、www.TheCodeForGlobalEthics.com/で確認できる。

記事原文のurl:www.thenewamericanempire.com/blog

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日米安全保障条約の内容をはるかに踏み越えた、在日米軍再編、イラク侵略に協力する空自派兵、アフガニスタン侵略支援のシンボルとしての給油、民主党小沢党首のいうISAF参戦、等々、すべては、このアメリカの世界遠征軍としての、NATOの改変という、アメリカの国連回避政策のもとで進められているのだろう。

マスコミは、小選挙区、二大政党、憲法破壊を推進する一方で「いっそ安保条約を廃棄したら?」と、書くことはありえない東の傀儡国家に暮らす者として、西の傀儡国家グルジアを笑ってはいられない。

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