オバマの立候補とアフガニスタンに関する新たな合意
James Cogan
2008年7月21日
週末、アフガニスタン訪問時のバラク・オバマ発言は、大統領選に向けた彼の政治活動が、中東と中央アジアにおけるアメリカ政策の変更を主張している、アメリカ支配層エリートのかなりの部分を代弁するものであることを証明している。軍国主義から何らかの撤退を提案するどころではなく、イラク内の兵員数の迅速な削減と、イランとの緊張関係の軽減をオバマが主張しているのは、単に、アフガニスタンにおけるアメリカ軍作戦の大規模エスカレーションを容易にし、場合によっては、パキスタン国内にまで拡張したいからに他ならない。
昨日CBSのララ・ローガンとの長いインタビューの中で、オバマはアフガニスタンの状況は「危うく、急を要する」と語った。グローバルなテロリストのネットワークは、この地域に「聖域」をもっており、麻薬貿易で稼いでいるのだと彼は言い立てた。「[イラク侵略]によって、アルカイダとタリバンを追跡して捕らえるという努力が逸らされてしまったことに、いかなる疑念もないと思う...」と彼は明言した。
オバマはローガンにこう語った。「イラクからアメリカ軍戦闘部隊の一部を撤退させ、その兵力をアフガニスタンに配備すべき時期だという広範な合意ができつつあります。この機会を逃してはならないと考えています。今こそ、そうすべき時です... もしも次の政権まで待てば、こうした追加兵力をアフガニスタンに投入できるのが更に一年先になります。それは間違えだろうと思います。我々は今何かを始めなければならないほど緊急を要する状態だと思います。」
アフガニスタンにおける兵力増強と、反米過激派に対する、パキスタン国内での介入度を高めるという呼びかけを、オバマは繰り返した。「私が申し上げているのは、もしも我々が、アルカイダ高位メンバーという標的に関する意思決定に必要な情報が得られれば、そして、パキスタン政府が、そうした標的を追い込むのを嫌がるのであれば、アメリカが追いかけなければならないということです」と彼は述べた。対外支援を増強し、パキスタン軍によってゲリラ・キャンプを追い込むよう「パキスタンに強力な圧力をかける」と述べ、国境を越えて一方的に攻撃をする用意があるとも明言した。
イラクに関しては、イリノイ出身の上院議員は、イラク政府は十二月以降のアメリカ軍駐留を規定する、現在交渉中の条約に、アメリカ軍撤退の日程が含まれるべきと考えているという、ヌリ・アル・マリキ首相の発言をまたもや強調した。オバマは明言した。「『我々は資源の投入先を変更する。アメリカは、アフガニスタンに、旅団を更に二団投入する予定だ。パキスタンに対するアメリカの対外援助を、進んで増強するつもりだ』と発言するのは、今こそが完璧な時期です」
オバマのコメントは、彼を「反戦」候補として描きだそうというひどい誤魔化しの企みを強調するものだ。というよりむしろ、イラク戦争は犠牲の大きな戦略的大失態だったと考えている、アメリカの政治・軍事支配層を彼は代弁しているのだ。イラク戦争は、軍隊のかなりの部分を釘付けにし、膨大な資源を費やし、アメリカ国内においては、はなはだしい社会的な断絶を、世界では、アメリカ軍国主義に対する広範な敵意を引き起こしている。
二月、WSWSは、「バラク・オバマ、二つの顔」(原文)という記事で、億万長者ウォーレン・バフェットや元連邦準備制度理事会議長ポール・ボルカーといった企業の大物たちによるオバマ支持について触れた。そこで我々はこう書いた。「引き続く経済危機と高まる社会的緊張によってもたらされている危機と立ち向かうのに、アメリカ最初のアフリカ系アメリカ人大統領となるであろうオバマが最適だと連中が考えているのは確実だ。全て挙国一致と「改革」という名の下で、労働者階級に更に多くの犠牲を要求するのに都合がいい」と同時に、世界に対して新鮮な顔を見せることができ、彼等は、それでアメリカ帝国主義を、ブッシュ政権の遺産である、海外政策の壊滅と、世界的な孤立化の深化から救い出してくれるのではないかと願っているのだ。」
これがまさに、イラクとアフガニスタンの戦争に対するオバマの処方箋の内容だ。アメリカの戦争装置の大きな部分が、イラク占領で身動きがとれなくなっている一方、アメリカ経済とアフガニスタンと中央アジアにおける戦略的野望は、深刻な挫折を味わった。南部アフガニスタンや、パキスタン国境諸州のパシュトゥーン族の中のゲリラたちは、アメリカ/NATO軍やハミド・カルザイ大統領の親占領軍政府に対してのみならず、この地域において、長らくアメリカの極めて重要な同盟国であるパキスタン政府に対してまで、大規模なゲリラ戦争を展開している。パキスタンは、事実上、国境地帯に対する支配力を失っている。
アメリカの支配層の懸念を示すように、タイムズ誌の最新号は、「アフガニスタン-正しい戦争」という見出しのついた表紙だ。同誌は、オバマと共和党のライバル、ジョン・ マケイン両者による、追加兵力投入という主張を目玉にしている。
アフガニスタンの軍事的な状況は、今夏急激に悪化した。占領軍に対する攻撃の数は40パーセント以上増加し、死傷者数は急増している。戦闘激化と、アメリカとNATO軍司令官の必死な状況の指標となるのは、アメリカの飛行機から投下した爆弾の数だ。六月には、646発の爆弾が投下された。この合計は、ほぼ7年間の戦争中、二番目の多さだ。2008年前半には、1,853発の爆弾とミサイルが使われたが、これは昨年の同時期より40パーセントも多い。アナリストたちは、あからさまに、アフガニスタン戦争は10年から20年続くと語っている。
アメリカ統合参謀本部議長マイケル・マレン海軍大将は、アフガニスタンで、更に戦闘旅団が三つも必要だと述べたが、中東における兵員数のおかげで、送るべき旅団がないことを認めたのだ。
ヨーロッパのアメリカ同盟諸国は、アフガニスタンにもっと多くの兵力を派遣しろというアメリカの要求を拒み続けてきた。主な要素の一つは、違法で残虐なイラク侵略の結果、ブッシュ政権に対する敵意が広まっていることに対するヨーロッパ政府の恐れだ。オバマは今週フランス、ドイツとイギリスを訪問する予定だが、選挙キャンペーンでの幻想と空頼みを活用し、アフガニスタン戦争の正統性に関する大衆扇動によって、こうした敵意を克服しようとするだろうことは疑うべくもない。
アフガニスタンにおける軍事状況が悪化している中、ブッシュ政権内部や周辺の勢力による、イランの核施設に対するアメリカまたはイスラエルの軍事攻撃という主張は、オバマ陣営からも、より広範な部分からも、全くの大惨事への処方箋だと見なされている。
軍 対イラン戦争は、アメリカのイラク占領を安定化しようという努力や、兵力のアフガニスタンへの再配備を損なうというあからさまな懸念が、軍内部では表明されている。イランによるゲリラに対する支援に関するアメリカの非難にもかかわらず、多数派シーア派人口の中の、より過激な部分に対処すべく、アメリカが支援するバグダッド政府を支えるため、テヘランは繰り返し介入してきた。今年、占領に反対する聖職者ムクタダ・アル-サドルのマフディ軍団民兵を、マリキ政府とアメリカ軍が、壊滅的に叩きのめす能力を付ける上で、イランの圧力は極めて需要な要素だった。
更に、アメリカの指導的な司令官たちは、対イランの全面的戦争を行う能力に疑念を呈している。マレン海軍大将はフォックス・ニューズでこう語った。「私は非常に懸念しています... これについて以前質問された際に申し上げました。私は現在二つの戦争を同時に戦っており、三つ目の戦争などいりません... それは、アメリカ国内にそのための予備軍がないためではありません。予備軍はあります。私が懸念しているのは、あの地域の不安定さです... あり得る攻撃による意図しない結果が、実際、地域全体にどのような影響を与え、一体どうなるのか、そしてそれを封じ込めるため、我々がとらねばならない行動が何なのか、正確に予測するのは困難です。」
イランに対するアメリカあるいはイスラエルの侵略に関する最近の話し合いの、一つの明らかな結果は、それが石油価格の急激な上昇と世界的なインフレ圧力に貢献してしまうということだ。既に1930年代以来、最も厳しい経済危機に直面している、アメリカの企業エリートは、対イラン戦争の結果として、石油価格が一バレル200ドル以上にあがって欲しいとは決して望んでいない。
ブッシュ政権は、オバマや彼の支援者たちが主張する政策変更に、明らかに適応しつつある。イランとの緊張関係は多少緩和され、テヘランに核燃料濃縮施設を閉鎖させるというアメリカの要求を実現させることについての、外交の重要さがよみがえった。週末の国連安全保障理事会の核問題をめぐる会議で、五カ国の常任理事国と、ドイツとイランを含めたものにアメリカの上級外交官ウイリアム・バーンズが参加した。アメリカがそのような会議に参加したのは初めてのことだ。
イラクについて、ホワイト・ハウスは金曜日に、「イラクからの更なるアメリカ戦闘部隊の削減」に関する「予定時期概略」というマリキの要求に合意する用意があると発表した。アメリカ軍司令官デビッド・ペトレイアス将軍は、年末前にアフガニスタンに「増派」するため、兵士を使えるようにすべく、9月までに三旅団を撤退させる可能性を検討中だと言われている。現在策定されつつある条約が暗に含んでいるのは、何万人ものアメリカ兵士がアメリカ軍が過去五年間、イラクに建設した主要な基地を占拠して、イラクに無期限に駐留するということだ。
これに続き、イラク政府は、石油契約は、アメリカや他国の大手エネルギー・コングロマリットに引き継がれると発表した。イラクにおける兵力削減は、言い換えれば、侵略の主要目的の一つである、この国の膨大なエネルギー資源を掌握するということが、まさに実現されつつある過程にあることを示す徴候に習ったものだ。
オバマの大統領候補という立場は、彼が究極的に成功しようと、すまいとにかかわらず、海外政策を変更するために、こうして活用されている。予備選挙と政党支部幹部会議の間、オバマは現状に反対する草の根運動の指導者なのだという大義名分で、何百万人もの人々が動員された。オバマは指名を獲得するやいなや、共和党右派の政策を奉じて、右への急旋回を始めた。誰が大統領選に勝とうと、戦争が続くことはもはや明らかだ。
またしても、アメリカの選挙は、政府の軍国主義的政策に対する発言の機会、あるいは、軍国主義的政策を終わらせる能力を、アメリカ人から奪い取るよう仕組まれているのだ。アフガニスタンでの新植民地戦争をエスカレートさせるという決定は既になされており、「テロリストの脅威」に関する更に一層のプロパガンダによって正当化されている。その結果、更に何千人もの命が失われ、何十億ドルもの資源が浪費されることになろう。
下記も参照:
Obama outlines policy of endless war(オバマ、果てし無き戦争政策の概要を説明)
[2008年7月16日]
Obama joins Senate vote to legitimize Bush's domestic spying operation
[2008年7月10日]
Obama's swing to right sparks warnings from “left” backers
[2008年7月9日]
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2008/jul2008/bara-j21.shtml
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東奥日報には、三沢基地から、F16がタリバン爆撃という記事がある。
「NATO、コソボ、アフガニスタンとパキスタン: NATOはアフガニスタンで一体何をしているのか?」は、米日戦争協力条約(日米安全保障条約、あるいは再編という偽名だが)で米日は何をしようとしているのか、と読み替える必要があるだろう。
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