オバマは本格的な民主党拡張主義者
ジョン・ピルジャー
2008年6月12日
New Statesman
私の記憶にある限り、全てのアメリカ大統領選挙運動を巡って、本当にわくわくする歴史的瞬間がでっちあげられて来ており、超大規模なたわごととしか言えないものをもたらしている。
1941年、編集者のエドワード・ドゥリングはこう書いた。「アメリカ合州国における、デモクラシーにとって、最大の障害は二つあり、一つ目は、多くの貧しい人々が、我々がデモクラシーを享受しているという幻想を抱いていること、二つ目は、金持ちたちの間にある、我々にデモクラシーを手に入れられては困るという慢性的な恐怖だ」。何がかわったのだろう? 金持ちたちに慢性的な恐怖は、かつてない程大きく、貧しい人々は、ジョージ・W・ブッシュが来年一月にようやく辞任さえすれば、彼が人類に与えている無数の脅威は減少すると信じる人々に、幻想をまかせてしまっている。
予想通りのバラク・オバマ指名は、興奮してしゃべりたてる解説者によれば「アメリカ史上、本当にわくわくする歴史的瞬間」だというが、それは新たな幻想の産物に過ぎない。実際、新しく見える、というだけに過ぎない。私の記憶にある限り、全てのアメリカ大統領選挙運動を巡って、「本当にわくわくする歴史的瞬間」がでっちあげられて来ており、超大規模なたわごととしか言えないものをもたらしている。人種、ジェンダー、容貌、身ぶり、配偶者や子供、はたまた壮大な悲劇の爆発に至るまで、今や「バーチャル」技術によって強化されたマーケティングと「イメージ造り」によって、全てがすっかりとりこまれている。非民主的な選挙人団制度のおかげで(あるいは、ブッシュの場合には、改竄された投票装置のおかげで)システムを支配し、それに服従する連中だけが勝てるのだ。高ぶらない大衆の味方だと言われていたリベラルな民主党議員で、やがては二つの都市を原子爆弾で消滅させて、どれほどタフなのかを示してくれたハリー・トルーマンの、本当に歴史的でわくわくする勝利以来、ずっとそうだ。
本質的には変わっていない権力システムの要求を理解しない限り、オバマを有望なアメリカ大統領になりそうな人物として理解することは不可能だ。実際は、偉大なるマスコミのゲームなのだ。たとえば、私がこのページでオバマをロバート・ケネディと比較して以来、彼は二つの重要な発言をした。これらが意味するところも、祝典を汚すことは許されなかった。一つ目は、イアン・ウイリアムズが指摘したように、「自分のウェブサイトに、彼らの威力について引用するだけで、反ユダヤ主義として非難される」シオニスト・ロビー、アメリカ・イスラエル公共問題委員会 (Aipac)の会議におけるものだ。オバマは既に卑屈な態度を示してはいたが、6月4日には更に踏み込んだ。彼はイスラエルの首都として「分割されないエルサレム」を支持すると約束したのだ。エルサレムは国際都市であると指定する国連決議を認めているブッシュ政権を含め、イスラエルがエルサレム全体を併合することを支持する政府など、世界に存在しない。
二つ目の発言は、ほとんど無視されているが、5月23日にマイアミで行われたものだ。長年にわたり、アメリカの政権のために忠実に、テロリスト、暗殺者や麻薬密売人を生み出してきた在米キューバ人コミュニティーの前で演説しながら、毎年、国連からは違法と宣言されている、キューバに対する47年間も続いてきた禁輸を継続する、とオバマは約束した。
またもや、オバマはブッシュより踏み込んだ。彼はアメリカ合州国が「中南米を失った」と言ったのだ。彼は民主的に選出されたベネズエラ、ボリビアとニカラグアの政府を、満たすべき「真空」だと表現した。中南米に対するイランの影響などという戯言を彼は持ち出し、コロンビアが「国境を越えて安全な隠れ場を求めるテロリストを攻撃する権利」を是認した。これは言い換えれば、大統領や指導的な政治家たちが殺し屋集団とつながっている政権が、ワシントンになりかわって隣国に侵略する「権利」のことだ。彼はさらに、いわゆるメリダ・イニシアチブを是認したが、これはアムネスティ・インターナショナル等が、アメリカはメキシコに「コロンビア式解決策」を持ち込もうとしていると糾弾しているものだ。彼の発言はそこで止まらなかった。「我々は更に南方へと同様に押し進まねばなりません」と彼は言ったのだ。ブッシュでさえ、そこまでは言っていない。
希望的観測をする人々も、政治的に成長して、自分たちがそうなって欲しいと願っているものとしてでなく、大国の実態そのものについて論議すべき時だ。過去と現在の、あらゆる真剣な大統領候補者たちと同様、オバマはタカ派で領土拡張論者だ。トルーマン、ケネディ、ジョンソン、カーターやクリントンらの大統領たちが戦争をけしかけたことで示されている民主党の伝統を、彼は受け継いでいるのだ。オバマの違いは、どれだけ自分がタフなのかを示す必要性を、より強く感じているということかも知れない。彼の肌の色が、どれだけ多数の人種差別主義者や、支持者を惹きつけようが、偉大なる権力争いには無関係だ。「アメリカ史上、本当にわくわくする歴史的瞬間」は、こうしたゲームそのものが問題にされるようになった時にこそ始めておきるだろう。
記事原文のurl:www.newstatesman.com/media/2008/06/pilger-obama-truly-bush
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関連翻訳記事:
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名著「アメリカ・インディアン悲史」の著者で、「闇の奥」の翻訳や、「闇の奥」の研究書も書かれている藤永茂氏のweb「私の闇の奥」記事、「オバマ氏の正体みたり(1)」「オバマ氏の正体みたり(2)」「オバマ氏の正体みたり(3)」「オバマ氏の正体みたり(4)」を、是非お読みください。
それこそ、マスコミ解説記事では決して読めない、聞けない、深い洞察に満ちています。
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