タリバンのテト攻勢が始まった
Al-Ahram Weekly
2008年6月19 - 25日
Issue No. 902
タリバンのテト攻勢が始まった。「アフガニスタンを支持する」というローラ・ブッシュの明快な呼び掛けは、ご随意に解釈いただきたい、とエリック・ウォルバーグは語る。
先週、アフガニスタンで、二つの画期的な出来事がおきた。イギリス兵の死亡者が100人を超えたこと、そして同盟諸国兵士の公式月間死亡者数が、イラクでの公式月間死亡者数を越えたことだ。ペンタゴン当局者は幹部は5月、16人の同盟諸国兵士がイラクで死亡したが、そのうち14人はアメリカ人であり、一方、18人の同盟諸国兵士がアフガニスタンで死亡したが、うち13人がアメリカ人だった、と語っている。
更に二つの出来事が先週ニュースになったが、いずれも予見が可能だった点ぐらいしか、話題にする価値はない。アフガニスタン大統領ハミド・カルザイが、パリの援助資金供与者会議に出席し、そこで500億ドルを得ることを狙っていた。アメリカと友人たちは、170億ドルの提供を申し出たが、この約束された金額の半分以上は、以前のアメリカの102億ドルという約束から来るものだ。つまりカルザイが得た正味は68億ドルで、過去の実績からみて、決して固唾をのんで待っていてはいけないしろものだ。カルザイを訪問し、アフガニスタン女性を支援するためのカーブル訪問で、アメリカ大統領夫人ローラ・ブッシュは、スライドを披露した。指導者たちは、彼女の呼びかけに「アフガニスタンを支持する」と同調した。サルコジは「拷問をする人々に屈伏するわけにはゆかない」と言って、いつものように皆を混乱させた。アフガニスタン国民の心をとらえるため、カーブルのアメリカ大学と国立識字能力センターの支援に、ワシントンは8000万ドルを投入すると、ローラは発表した。
カルザイは、彼が厳重にバリケードで囲った大統領官邸の中に事実上引きこもっているカーブル内においてさえ、腐敗と麻薬密売を厳しく取り締まることができないようだ、と当局者たちがこぼした時には、リアリズムの響きがあった。政府は腐敗を根絶させるよう処理する、とカルザイは彼等に請け合った。恐らく、ハミド本人と共に、援助資金供与者達に対して、自ら熱心に非難している麻薬密売そのものに関与していると広く信じられている彼の弟、カンダハール州地方議会議長ワリ・カルザイを首にすることから始められるだろう。援助資金供与者達が、アフガニスタンに自らの運命に主導権を握らせ、資金の使い方をまかせることに余りに用心深いと文句を言って、アフガニスタン当局者たちは、シュールレアリズムの雰囲気をかもしだした。そう、何百億ドルもの金を、腐敗したカルザイの取り巻き連中に与えよ。そうすればかならずや、事態は逆転するだろう。
ローラのスライドもないので、より一層退屈で、実りのない、もう一つの会議が、アフガニスタンをめぐる議論で、今や良く知られたシナリオに沿ったNATO加盟諸国の国防大臣による二日間のセッションだ。アメリカ国防長官ロバート・ゲーツは、嫌がる同盟諸国に、虐殺のために更に兵士を派兵すると約束するよう、しつこく説教したが、巧く行かなかった。国防大臣デス・ブラウンが、アフガニスタン軍事作戦を「21世紀の高貴な大義」だと歓迎し、イギリスは230人の増派を自ら申し出た。
このごろは、一層卑劣なタリバンのために「安全な隠れ場」を提供している、卑劣なパキスタンを責めるのがはやりだ。今週、NATOからそれに対する対応がなされたが、それはパキスタン国境部隊の国境検問所に対する破壊的な空爆で、パキスタン首相のユースフ・ラーザ・ギーラーニーによれば、11人のパキスタン兵が殺されたという。パキスタン・イスラム教徒連盟の議員アミール・ムカームは70人の死者だと語っている。この「自衛」行動は、空前絶後の撞着語法である、NATOの「友軍の誤爆による死亡」の長い歴史のヒトコマではある。NATO軍は過去数年にわたりパキスタン内部への空爆を何度かおこなってきたが、パキスタン人兵士を殺害したのは今回が始めてだ。さほど目をしばたくこともなく、アメリカ統合参謀本部議長のマイケル・マレン海軍大将は、無力なパキスタン政府に、更に、全てのアルカイダを追放するのみならず、国境を越えて出入りする武装勢力の流れを即座に止めろと要求した。アメリカのポチ、カルザイは、アフガニスタン軍を送り込むぞと脅しさえした。「連中はやってきて、アフガニスタン人と同盟軍兵士を殺害している。従って、我々もまさに同じことをする権利が与えられる。」
だが実に目を見張るようなニュースをとりおいてある。先週金曜日のタリバン戦士による南部アフガニスタンの主要監獄の攻撃だ。正門で自動車爆弾を一発爆発させ、多面的攻撃によって、タリバンと目される400人を含む、1000人以上の囚人を解放した。複合的攻撃は、一発の自動車爆弾と、刑務所に入り込んだ人物による自爆攻撃、外部から発射されたロケット弾攻撃があった。「囚人全員が逃げた。一人も残っていない。」とカンダハールの地方議会議長ワリ・カルザイは語っている。囚人の多くはわずか数週間前には、ハンガーストライキをおこなったばかりで、その間、47人が口封じのために口を縫われてしまった。彼らの中には、裁判もなしに2年以上拘留されている人々や、また短期の裁判の後で、長期の実刑判決を受けている人々がいる。タリバンは更に、カナダ軍が確保しているはずで、今後4年間にわたって開発援助の見本にしようと計画している地域で、18の近隣の村を解放した。カナダ人よ、幸運を祈る。
占領に対するこの打撃は、1968年にアメリカが占領していた南ベトナムでおきたベトコンのテト攻勢ぐらいしか比較するものがない。いつになったら占領軍は目覚め、こうした勇敢で恐れを知らない人々が、祖国を守って死んでいることに気がつくのだろう? 「カナダ国民には、破壊的で、残虐な戦闘任務を停止し、カナダ軍を撤退させるよう、カナダ政府に要求して欲しいと思います。私たちの戦争は、あなた方占領軍がわが国にいる限り続きます。」と、タリバンの広報担当者ユスフ・アフマディは訴えた。
恐らくは、カンダハールのこの空いた牢獄のスペースは、アフガニスタンのグアンタナモと異名をとっている悪名高いバグラム基地の監獄を6000万ドルかけて改修する必要性を、未然に取り除くことになろう。「生活の質が大幅に向上するでしょう」とアメリカ陸軍の広報担当の女性ルーミー・ニールソン-グリーン中佐は語っている。「床面積が大幅に広がり、彼らの文化の一部である社会活動を行うための部屋数も増えます。」新しい監獄を作るという計画は、明らかにアフガニスタン法務省のアフガニスタン人高官たちにとって、全くの不意打ちであったようだ。
今の監獄の中で、アメリカ人の看守によって、繰り返しなぐられた後で、二人の抑留者が殺害された。この施設における虐待について、無数の申し立てがあり、尋問の間に、性的に屈辱を与えられ、殴打され、裸にされ、階段の下に投げ落とされた、と囚人たちは主張している。ところが、ニールソン-グリーンは、バグラムの抑留者が虐待されてきたことを否定している。ニールソン-グリーンが一体何をもって「虐待」と考えているのか、考えるだけでゾッとする。
2004年9月まで、バグラムは、ほとんど本当のグアンタナモへと向かう囚人の通過駅として使われてきた。アメリカの当局者は、わずか9歳の子供たちまで、この施設に拘置されているという申し立てを否定している。性的虐待ということで言えば、カナダ人が訓練をしている、アフガニスタン軍兵士の間ではびこっている、民間人の性的虐待行為に対する、カナダ軍の「見ざる、言わざる」政策が、最近やり玉にあげられている。
だがもうたくさんだ。9/11前と後の、アフガニスタンにまつわる巧妙なトリックは、とうとう、雲散霧消し、粉々になりつつある。アメリカ大統領ジョージ・ブッシュが、ブカレストで4月に「何百万人もの人々の自由と平和の未来を確保する支援のため、世界中に軍を派兵する遠征軍同盟なのです」と言った通り、NATOはアフガニスタンにいる。言い換えれば、アメリカが承認しない国々に侵略し、抵抗する者は誰でも殺害するわけだ。アフガニスタンからの外国軍の全面撤退、アフガニスタン軍との話し合いによる解決、そしてNATO加盟諸国による、大規模な賠償こそが、世界が早急に要求すべきことだ。
パキスタンのせいにするのは、イラクでイランについて聞かされたり、ベトナムに対するアメリカの戦争中、ニクソンがカンボジア爆撃を始めた時に聞いたりしたのと、同じお話だ。爆撃はアメリカがベトナム人に打ち勝つ役にはたたずに、クメール・ルージュがカンボジアを乗っ取るという結果をもたらした。アメリカのアフガニスタン計画を成功させるには、事実上、国民を丸ごと殺害するしか方法はない。これが目的なのだろうか?
記事原文のurl:weekly.ahram.org.eg/2008/902/in3.htm
原文には、襲撃、破壊された施設の写真が掲載されている。
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