ガザの「ショアー」という意味:イスラエル、もう一つのパレスチナ人エクソダスを企む
Jonathan Cook
Global Research、2008年3月8日
イスラエルのマタン・ヴェルナイ国防副大臣による先週のガザが「ショアー」(ホロコーストを意味するヘブライ語)に直面していることについての発言が大々的に報道されているが、ガザへの差し迫った全面的な侵略という軍の計画の不愉快な誇大表現だと、広く見なされている。
注目に値するのは、しかしながら、彼の発言が、占領地域のパレスチナ人に対するイスラエル軍長期的戦略の気がかりな徴候であることだ。
元将軍のヴェルナイは、イスラエルがガザの人口の多い地域への一連の空爆と地上攻撃で、100人以上のパレスチナ人を殺害し、イスラエルの人権保護団体B’Tselemによると、少なくともこの半数は民間人で、うち25人は子供だったという攻勢の最中、軍のラジオ局にインタビューされた。
ガザから発射された一発のロケット弾がスデロットの学生達を殺害し、他の数発のロケット弾が南部の都市アシケロンを攻撃した後に、インタビューが行われた。ヴェルナイはこう言った。「カッサム・ロケット砲撃がさらに激化し、ロケット弾がより遠くまで到達するようになればなるほど、彼ら[ガザのパレスチナ人]は自らの上に、より大きなショアーをもたらすことになるだろう。我々が自己防衛のために全力をつくすからだ。」
彼の発言はロイター通信に取り上げられ、間もなく世界中をかけめぐった。イスラエルの主要な公的人物が、自国政府の政策を、ヨーロッパのユダヤ人を絶滅するナチスの計画になぞらえるのが、恐らくは居心地が悪かったせいだろうか、ヴェルナイがはっきりと発言した脅しを、多くの報道機関は、彼もイスラエル軍もどうすることもできない大天災を予言する「警告」であるかのごとくに報道している。
それにもかかわらず、イスラエル幹部は、ヴェルナイ発言のヘブライ語からの翻訳がイスラエルの対外イメージにもたらしかねない打撃を理解していた。また実際に、パレスチナ人指導者達は間もなく、パレスチナ自治政府議長マフムード・アッバス、および亡命中のハマース指導者ハレド・メシャールの二人が、もう一つの「ホロコースト」がガザで起きていると語った比喩を活用し始めた。
エルサレム・ポストが報道しているように、数時間のうちに、イスラエル外務省は外交官達を使って、大「ハスバラ」(プロパガンダ)キャンペーンを開始した。これと関連した動きとして、ヴェルナイの報道官が「ショアー」という言葉には「大惨事」という意味もあると説明した。ホロコーストというよりも、これが大臣が意図していたものなのだと。釈明は多くのマスコミで報道された。
しかしながら、それに騙される人間はイスラエルにはいない。「ショアー」とは、文字通りには「 燔祭(はんさい)のいけにえ」を意味するが、ホロコーストを指すようになって久しく、ちょうどアラビア語の「ナクバ」(つまり「大惨事」)が、今日ではもっぱら「1948年のイスラエルによるパレスチナ人追い立て」を指すのと同じだ。確かに、イスラエルの英語メディアは、ヴェルナイの用いた「ショアー」を「ホロコースト」と翻訳した。
だが、ヴェルナイがガザの将来に対する極端な見方を示したのは、今回が初めてなのではない。
昨年夏、上司の国防大臣エフド・バラクを代行して、彼はある計画をこっそりと準備し始めた。ガザを「敵対的存在」だと宣言し、長期間の占領者としてのイスラエルからの電力と燃料を含め、生活に必須な住民に対する資源の供給を劇的に削減することだ。削減は最終的に、イスラエル裁判所が承諾した後、昨年遅く実施された。
ヴェルナイとバラクは、他の多数のイスラエル政治家達と同様いずれも元軍人で、ガザに対する生活用基本サービスの流入を絶つという政策を、ずっと西欧世論に「売り込んで」来た。
国際法のもとで、占領軍としてのイスラエルは、ガザの民間人の福祉を保証する義務があることは、ガザを敵対的存在と宣言したイスラエルの決定をマスコミが報道する際に忘れ去られる事実だ。持ち込みが許されている制限された供給によって、ガザ住民の人道的な必要物は依然、守られている。したがって、この手段は集団的懲罰にはあたらない、とこの二人は底意を持って主張した。
昨年十月、軍幹部の会合の後、ヴェルナイはガザについてこう言った。「ここは我々に敵対的実体なので、危機を防ぐための最少必要量以上の電力を、彼らに供給するべき理由はない。」
三カ月後、ヴェルナイは更に踏み込み、イスラエルはガザに対する「あらゆる責任」を断ち切るべきだと主張している。とはいえ、イスラエル検事総長の助言に沿い、これが一般のガザ住民を極端にひどい目にあわせるものではないと示唆することは注意深く避けた。
その代わり、撤退は論理的な結論に至るべきだと彼は語った。「彼らへの電力供給を停止したい。水と医薬品の供給を停止したい。どこか他から提供されるようになって欲しい。」エジプトが責任を引き継ぐよう強いられるだろうと彼は示唆した。
ヴェルナイの様々な発言は、イスラエルの国防、政治支配層内部の、パレスチナ人との紛争における、次の手に関する新思考の反映だ。
1967年のヨルダン川西岸とガザ占領後、パレスチナ人を分裂させ、彼らをお互いに反目させ続けることで、「分割して統治」という植民地政策支配を継続するというイスラエル軍部内部の合意がたちまち浮上した。
パレスチナ人が余りに分裂して、効果的に占領に抵抗できない状態にある限り、イスラエルは定住計画の遂行を続けることができる、当時の国防大臣モシェ・ダヤンが言ったように占領地域の「静かな併合」だ。
イスラエルは、占領に対する全般的な抵抗を活性化させる恐れがある、PLOの非宗教的なパレスチナ民族主義を、弱体化させるための様々な手法を実験してきた。特にイスラエルは、現地に村落同盟という名で知られる反PLO民兵組織を設立し、後に、ムスリム同胞団というイスラム原理主義を支援したが、それがハマースへと変身した。
ハマースとファタハが支配するPLOとの間の対立関係が、ずっと占領地におけるパレスチナ政治の背景になっており、2005年のイスラエルのガザ撤退以来、それが正面舞台に登場した。イスラエルとアメリカが煽った両者の反目は、ヴァニティー・フェアの記事が今週書いているように、昨年夏ファタハが支配する西岸をハマースが支配するガザからの物理的な分離で終わった。
ファタハとハマースの指導部は、地理的のみならず、イスラエルの占領に対処する全く正反対の戦略という点でも、分裂している。
ファタハのヨルダン川西岸支配は、イスラエルによって支持されている。マフムード・アッバス議長を含めた指導者たちが、更に多くの領土を併合するのに必要な時間をイスラエルに与える果てしのない和平プロセスに協力する用意があると明言したためだ。
ハマースは、これに対し、ユダヤ人定住者が退去しても、イスラエル軍が支配し、手を伸ばせば届く距離から、経済封鎖が強化されるばかりであるのを見てきたので、和平プロセスには何ら幻想を抱いていない。
野外刑務所となった地域を率いるハマースは、イスラエルの絶対的な命令に屈伏するのを拒否し、ハマースを打倒しようというイスラエルとアメリカの陰謀にも難攻不落であることを証明した。それどころかハマースは、わずか二種類しかない実行可能なレジスタンスのやり方を強化しはじめた。ガザを取り巻く塀を超えたロケット弾攻撃と大衆行動だ。
ヴェルナイらの懸念は、まさにそこから生じている。両方の形による抵抗は、万一ハマースがガザを支配しつづけ、組織化のレベルとビジョンの明確さを進歩させれば、長期的には、そこのパレスチナ人住民を退去させてしまった後に、占領地域を併合するというイスラエルの計画を分解させかねないのだ。
第一に、ハマースのより高度でより長距離のロケット弾開発で、ハマースのレジスタンスが、小さな開発都市スデロットという僻地よりもずっと広大な場面にまで移動する恐れがある。先週イスラエル大都市の一つアシケロンに着弾したロケット弾は、イスラエルにおける政治変化の前触れなのかも知れない。
ヒズボラは、2006年のレバノン戦争で、持続的なロケット弾攻撃に直面すると、イスラエル国内世論がたちまち崩壊することを明らかにした。ハマースは同じ結果を得ようと狙っている。
アシケロン攻撃後、イスラエルのマスコミは、政府が国民を守り損ねたことに対する抗議として、怒った群衆が街路に繰り出してタイヤを燃やす記事に満ちている。それが最初の反応だ。だが、長年攻撃を受け続けているスデロットでは、市長のエリ・モヤルが、最近ハマースとの対話を呼びかけた。ハーレツ・デイリーで発表された世論調査では、イスラエルの64パーセントが彼に同意している。もしもロケット弾攻撃が増せばこの数字は更に増える可能性がある。
イスラエル指導者達の不安は、万一イスラエル国民がハマースを交渉の席に着かせろと要求し始めたら、占領した領土の「静かな併合」が実現できなくなることだ。
第二に、ハマースが、先月ガザで住民を動員して、ラファフの壁を打ち破り越、エジプトにどっと流れ込んだことで、バラクやヴェルナイのようなイスラエルの軍人出身政治家に、イスラム教の運動には、まだ実現してはいないものの、ガザの軍事封鎖に対する集中的な平和的大衆抗議行動を立ち上げる潜在能力があることを示した。
元エルサレム市助役メロン・ベンベニスティは、このシナリオは「武装パレスチナ人との武力衝突よりも、軍部をおびえさせている」と語っている。イスラエルは、イスラエルが作り出した監獄から脱出しようとした罪で、非武装の女性や子供が射殺される光景が、撤退で占領が終わったという考え方の虚偽を証明することを恐れているのだ。
数千人のパレスチナ人が二週間前にデモをした際、イスラエルとガザを仕切る壁の一部に沿って、人間の鎖を作り出したが、イスラエル軍はほとんどパニックを抑えそこなうところだった。重火器砲台が周辺に運ばれ、狙撃兵は、もしも抗議する連中が塀に近づいたら足を撃つよう命じられていた。
占領地域にいるハーレツ紙のベテラン記者アミラ・ハスが報道しているように、イスラエルはこれまでのところ、大半の一般ガザ住民を威嚇して、こうした戦いに無気力化させることに成功している。多数のパレスチナ人は、イスラエルによる自分たちの監禁状態に対して、たとえ平和的にであれ、直接的に対峙するような「自殺」路線をとることを拒否してきた。「パレスチナ人が、イスラエル兵が非武装の人間も射撃し、女性や子供も殺すことを理解するのに、警告や記事は不要なのだ。」
だが封鎖がガザに対して更に過酷な困窮をもたらせば、それも変わりかねない。
結果として、イスラエルの喫緊の優先事項はこうだ。定期的に、ハマースに武力行動をするよう挑発し、大規模な平和的抗議を組織する方向から逸らさせること。定期的に殺害することで、ハマース指導部の弱体化をはかること。更に、バラクの持論である、イスラエルを攻撃から防御する「鋼鉄のドーム」のようなテクノロジーを含め、ロケット弾に対する効果的な防衛手段がきちんと開発されるようにすることだ。
こうした政策に沿い、イスラエルは、先週水曜日、5人のハマース活動家殺害を開始することで、ガザにおける最近の「相対的な平穏」期間を終わらせた。予想通りに、ハマースは、イスラエルにロケット弾の一斉射撃をして応え、これによりスデロットの学生が殺され、ガザにおける大虐殺を正当化することになった。
だが、長期的戦略も必要であり、それはヴェルナイらによって立案されつつある。ガザという監獄が狭く、資源が乏しく、パレスチナ人の人口が急激に増えつつあることを認識しているので、イスラエルはより永久的な解決策が必要なのだ。ハマースが組織するレジスタンスや、この地域の過密で非人間的な状態から、遅かれ早かれ起きるであろう社会的爆発によってもたらされる脅威の拡大を止める方法をイスラエルは見いださなければならない。
戦争犯罪に反対し、ロケット弾をやめよという過去数週間にわたる閣僚たちの一連の発言と同様に、ヴェルナイの発言は、そうした解決を示唆している。例えばエフード・オルメルト首相は、ガザ住民は「通常の生活を送ること」は許されないと発言した。国内治安省大臣アヴィ・ディヒターは「パレスチナ人の被害とは無関係に」イスラエルは行動をとるべきだと考えている。また内務大臣メイール・シートリトは、攻撃される度に、イスラエル軍は「ガザ内の地域を指定し、そこを平らにすべきだ」と提言している。
今週バラクは、彼の部下たちが、この最後のアイデア、つまり、ロケット弾砲撃に対応して、軍がガザの民間人居住区域を直接砲撃、空爆するのを合法にする為の方法を検討していることを明らかにした。むろん、彼らは既にこれをこっそりと遂行しているのだが、今やそれを国際社会に支持された公式な政策にして、自由に行動したいのだ。
同時に、ヴェルナイは関連したアイデアを提案した。ガザ地域を、軍隊が自由に行動でき、それに対して、住民は脱出以外にほとんど選択の余地がない「作戦地帯」と宣言することだ。実際、そうなれば、ヨルダン川西岸でかつて起きたように、イスラエルがガザ地帯の広範な地域から民間人を追い出し、更に狭い場所に追い込むことが可能になるだろう。
封鎖強化により、電力、燃料と医薬品がガザに持ち込まれることを防ぎ、住民をもっと狭い空間に押し込める、ガザ地域に押しつける暴力を強化する新たな方法は、民間人を標的にし、懲らしめるための見え透いた口実だ。これらは必然的にガザの政治指導者との交渉と対話を排除する。
これまでの所、イスラエルの計画は、1967年戦争前の状態へ復帰し、ガザの警察活動を引き継ぐよう、最終的にエジプトを説得するというもののようだ。カイロの方が、イスラム教過激派を取り締まる上で、イスラエルより更に残酷だろうと見られている。しかしヴェルナイとバラクは、益々違う道を進むように見える。
彼らの究極的な目的は、ヴェルナイの「ショアー」発言に関連しているように思われる。ガザを三方向から締めつけ、その圧力でパレスチナ人を再びエジプトになだれ込ませるというガザ住民絶滅策だ。今度は、帰還する可能性が無いだろうことは想像できる。
ジョナサン・クックは、イスラエルのナザレを拠点とする作家・ジャーナリスト。彼の新刊「Israel and the Clash of Civilisations: Iraq, Iran and the Plan to Remake the Middle East」は、Pluto Pressから刊行されている。ウエブはwww.jkcook.net
Jonathan Cook はGlobal Researchの常連寄稿者。 Jonathan CookによるGlobal Research記事
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