脆弱なドル覇権:イランの石油取引市場はドルを崩壊させかねない
マイク・ホィットニー
Global Research、2008年2月4日
二週間前、ジョージ・ブッシュは、馬の首を送り届ける任務で中東に派遣された。フランシス・フォード・コッポラの「ゴッド・ファーザー」では、強情な映画プロデューサーを、ドン・コルレオーネの甥を次の作品で起用するよう説得すべく、ルッカ・ブラッシがハリウッドに赴く。さしもの「大物」プロデューサーも、大切にしていたサラブレッドの切断された首の隣で目覚めた後、最後にはその若い俳優を起用するよう説得される物騒な場面を皆さんは覚えておられよう。彼等と今月初めに会った時、ブッシュも同じような「とうてい拒否できない申し入れ」を湾岸諸国の指導者たちにしたのではあるまいかと私は考えている。
マスコミは、ブッシュの中東歴訪を「平和使節」として描こうとしたが、それは煙幕に過ぎない。実際、ブッシュがエルサレムを発ってから三日目に、イスラエルは占領地域における軍事作戦を強化し、ガザの150万の人々に対する食料品、水、医薬品やエネルギーの無情な封鎖を再開した。明らかに、ブッシュがこうした作戦にゴーサインを出したのだ。さもなければ、イスラエルの攻勢は、アメリカ大統領への侮辱と見なされてしまっていたろう。
すると、ブッシュ訪問の真の狙いは何だったのだろう? 結局、彼には、平和にも、イスラエル-パレスチナ危機を解決するという約束を尊重することにも、関心はないのだ。そこで、大統領職二期目が幕を閉じようとしていて、成功の見込みなど全くないのに、彼は一体なぜ中東歴訪を選んだのだろう?
時として個人的訪問が大事なことがある。特に、伝える情報の内容が非常に微妙で、メッセージを面と向かって伝えなければならないような時には。今回、ブッシュははるばる世界を半周する旅をして、サウジ人や湾岸諸国のサウジ人の友人たちに、石油をドルと連動させ続けるのか、それとも「海の底で魚と寝るように」なりたいのかと言ったのだ。過去二カ月間、多くの王族や財務大臣たちは、下がり続けるドルに対して不平不満を言い続けていた。いわゆる「ドル-ペッグ」を離脱し、通貨バスケットに切り換えると脅していた。ブッシュ歴訪は兄弟のような協力精神を再燃させたように見える。不満はやみ、全員が「同じ船に」戻ったのだ。地域の指導者も、インフレーションが経済を食いつぶし、労賃、食料、エネルギーや住宅を非常な高値に上げているという事実を、今やさほど苦にしていないように見える。ロイターは下記のように要約している。
「通貨改革をめぐる昨年のいざこざ騒ぎの後、湾岸諸国の中央銀行は、同一歩調をとって、ペッグこそ安定の源だと語り、ドルの弱さは、一時的な現象だとして、軽視しようとしている。」
ブッシュが物事を丸く収めたかに見える。
過去二週間、湾岸諸国の指導者達は、連邦準備制度理事会が、途方もない1.25%もの金利を引き下げをするのを心配そうに見守っていた。米国債やアメリカの有価証券に、王族達が投資した1兆ドルの資本を、利下げは着実に侵食してゆく。
「インフレーションは、サウジアラビアとオマーンでは、16年ぶりの高さで、アラブ首長国連邦では、19年来の最高だ。湾岸諸国の政策立案者達は、金利引き下げを埋め合わせるべく、貸付市場、不動産市場、商品市場に直接介入している。」(ロイター)
資産価値は急騰した。UAEの営業用不動産は2007年当初の二倍になった。インフレ爆弾は、他の湾岸諸国に、国民に対する食料品補助金の供与や「首長国連邦政府の一部職員の70%給与引き上げ」を強いている。
不満を抱いた出稼ぎ労働者達は最近ドバイで暴動を起こし、急激な価格上昇に対する正当な補償を要求した。サウジのリアルは21年来の最高値にまで上がった。
為替トレーダは、ディルハムとリアルが四月迄には更に8%上昇すると予想し、利率のせいで、湾岸諸国中の中央銀行は、ユーロか、地域通貨バスケットへの切り換えを強いられるだろうと見ている。しかしながら、これまでのところ、忠実なサウジの王子たちはドル支持を続けている。
ドル覇権防衛
さて、石油がドル建てであり続けることがどれほど重要なのだろう? アメリカ合州国は世界の「準備通貨」としてのドルの立場を守るために戦争をけしかけるだろうか?
この質問に対する答えは、今週早々にも出る可能性がある。待望されていたイラン石油取引市場が、2月1-11日の間に開設される予定だからだ。イランのダブド・ダネシ-ジャファリ財務大臣によれば「取引市場を立ち上げる為の全ての準備は済んでいる」という。「夜明けの10日間= ダヘ・ファジュル」(イランにおける1979年イスラム革命勝利を記念する式典)の間に、開設される予定だ。イランの「石油、石油化学製品とガス」を「ドル以外の通貨」で取引することを要求するため、取引市場はドルの世界的優位性維持に対する直接の脅威と見なされている。(Press TV、イラン)
石油ドル制度は、金本位制と同じようなものだ。今日の通貨は、単純に、全ての工業化社会が依存している一つの必須エネルギー源、つまり、石油によって裏書きされている。万一ドルが石油から切り離されれば、ドルはもはや事実上の国際通貨であることを停止し、アメリカは膨大な貿易赤字を削減し、製造能力を再建し、再び輸出国家となることを強いられるよう。唯一の代替策は、ワシントンの指令に忠実に従えるよう、国民の集合的な熱望を鎮圧するような属国体制のネットワークを造り出すことだ。
ブッシュ政権が、ドル覇権を守るために戦争を始めるかいなかについてというのは、サダム・フセインに問うべき質問だ。イラクはサダムがユーロに切り換えたわずか6カ月後に侵略された。これが言わんとしていることは明白だ。帝国は通貨を防衛する。
同様に、イランは2007年にドルから切り換え、日本に膨大なエネルギー代を円で支払うべきだと主張した。「切り換え」はブッシュ政権を激怒させ、以来イランはアメリカの好戦性の標的にされている。事実、16のアメリカの諜報機関がイランは核兵器を開発していないという報告書(NIE)を発行したにもかかわらず、また国連の核監視機構、 国際原子力機関が、イランは核拡散防止条約(NPT)の下の義務に従っていると認めているにもかかわらず、アメリカが先導するイラン先制攻撃は、依然としてありそうなことに見える。
また、西欧のマスコミはこの地域における次の戦争の可能性を最小化して報道しているものの、イスラエルは、この考えが決して突飛なものではないことを示すような予防措置を講じている。「イスラエルは、次の戦争に備えることを目指して、国民にシェルター部屋を作るよう呼びかけている。今度は、ミサイルの雨になる。」(Press TV、イラン)
「次の戦争では、イスラエル領土全土にわたって、膨大な量の弾道兵器が使用されることになろう」と退役将軍ウディ・シャニは主張している。(Global Research http://globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=7982)
ロシアもペルシャ湾において戦争が勃発する可能性の高まりを見て、海軍機動部隊を地中海と北大西洋に派遣することで対応している。
Global Researchサイトの記事によると:
「ロシアの黒海艦隊の旗艦、誘導ミサイル装備巡洋艦モスクワは、現在の機動演習に参加すべく、1月18日に地中海のロシア海軍戦艦と合同し.... この作戦は大西洋ではここ15年間で初めての大規模なロシア海軍演習である。参加する全ての戦艦と航空機は完全な戦闘用弾薬を装備している。
(Global Research、http://globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=7983)
フランスもホルムズ海峡での軍事演習を計画中だ。「湾の楯01」作戦はイラン沖で行われ、石油プラットホームに対する模擬攻撃を含む連合部隊作戦に、数千人の要員が参加する。」
演習は2月23日から3月5日にかけて行われる予定になっており、フランス兵1,500名、首長国兵2,500名、およびカタール兵1,300名が参加し、陸上、海上および空で軍事行動をすると、省は語った...「演習には、およそ6隻の戦艦、40機の戦闘機、および多数の装甲車両が参加する」とフサルバ中佐は語った。
http://www.defensenews.com/story.php?F=3346953&C=mideast
更に、先週のうちに、インターネット通信を担っている主要海底ケーブル三本がペルシャ湾で切断され、ヨーロッパと中東間の国際通信の四分の三が失われたままだ。中東の大半の部分が暗黒に陥った。
これは単なる偶然の一致なのか、それとも表面化では何かが起きているのだろうか?
アメリカン・クロニクルのイアン・ブロックウェルは、こう述べている。
「ケーブル断線が事故ではなかったことを前提にした場合、誰がなぜそのような行為をするのだろうかを考えなければならない。明らかに、最も影響を受けたイランは、そのような行為で得るものは皆無で、恐らくはこれを仕組んだ連中の標的だ...あるいはこれは攻撃への序曲か、あるいは恐らくは将来の攻撃の試運転だろうか?
通信は常に軍事行動中の重要な要素であり続けており、これらのケーブル切断はイランの自衛能力に影響しかねない。」(アメリカン・クロニクル、http://www.americanchronicle.com/articles/51085)
マスコミ報道こそ欠けてはいるものの、ペルシャ湾の緊張は高まっており、アメリカが先導するイラン攻撃の可能性は依然として高い。ブッシュは、自分がイランと対決しなければ、誰も対決しないだろうと確信している。もしも自分が軍事的にドルを守らなければ、「世界唯一の超大国」としてのアメリカの日々は間もなく終わってしまうだろうことも彼は考えている。従って、本当の質問とは、果たしてブッシュが、アメリカは既に救いようがないほど、二つの「勝利なき」あつれきで行き詰まっていることを自覚するのか、それとも彼がまたもや「彼の根性で進み」我々を破滅的な地域全体の大戦争に引きずり込むのかだ。
マイク・ホィットニーは、Global Researchの常連寄稿者。マイク・ホィットニーによるGlobal Research記事
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© 著作権、Press TV、2008
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「ワシントンの指令に忠実に従えるよう、国民の集合的な熱望を鎮圧するような属国体制のネットワークを造り出すことだ。」どこかの国、そのネットワーク第一号のように思える。一昔前の用語で言う「衛星国」。
この記事、中東の海底ケーブルが何カ所にもわたって切断されている事情の背景説明なのかも。
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