チャルマーズ・ジョンソン
Global Research、2008年1月24日
Tomgram
来月中にペンタゴンは2009年予算を議会に提出するが、それが2008年の驚くほどの予算を更に上回るのはまず確実だ。陸軍や海兵隊同様、ペンタゴンそのものも過度に拡張しすぎて負担がかかっており、陸軍や海兵隊同様に、92,000人の新兵を今後5年間で増強すると予想されている(10,000人あたり12億ドルの推定費用で)。ペンタゴンの対応は決して削減ではなく、常に拡大、常により多くを要求する。
結局、あの悲惨なアフガニスタンとイラクの戦争は、まるで明日のことなどお構いなしに納税者のドルを食いつぶし続けている。更には、熱狂者達が「次の戦争」と呼びたがっている考慮すべきものがある。つまり、将来の為のあらゆる高額兵器、あらゆるジェット機、艦船や、装甲車だ。また、いまだに人気のあるラムズフェルド風「ネット中心の戦争」システム(ロボット、無人飛行機、通信衛星、等々)も忘れてはならないし、開発中の素晴らしい宇宙玩具は言うまでもない。そして更に、イラクやアフガニスタンで破壊された、大量に交換すべき全ての機器や、負傷し、世話をしなければならない全ての人々がいる。
業界誌アビエーション・ウイーク・アンド・スペース・テクノロジーの最近の社説でこの骨子が読める :
「ワシントンが直面すべき事実は、ほぼ5年間の戦争で、アメリカ軍は一世代前より、そうベトナム時代よりひどい状態におかれており、回復させるためには、過去にはなかったほどの資金計画が必要だ。」
ペンタゴンがプロジェクト取り消しを決定した、ボーイングC-17貨物輸送機のようにまれな場合でさえ、議会を忘れてはならない。武器システムの契約者や下請け業者は、できるだけ多くの州に分け与えられており、それはすなわち仕事を意味するので、議会はそうした削減に二の足を踏むことが多い。(55人の下院議員は、最近万が一2009年予算からC-17用予算が削除されたら「強い否定的な結果になる」と、ペンタゴンに警告した。) 結局のところ、暴食家用の国防メニューということになってしまう。
既にロバート・ゲーツ国防長官は、2009年度の財源は「ほぼ確定している」と語っている。巨大軍産複合体のロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、ボーイング、レイセオンは、他の点では、あてにならない時期に、自分たちの株が上がるのを見守ってきた。彼等は希望に満ちている。ノースロップのCEOロナルド・シュガーは、こう言っている。「アメリカ合州国のように偉大なグローバル権力は、偉大な海軍が必要で、偉大な海軍は十分な数の船が必要で、船は最新で、能力があることが必要だ」ところで海軍向けの最大の造船業者は誰だろう?
こうしたことの中には驚くべきことなと何もない。特に既にチャルマーズ・ジョンソンのブローバック三部作の最終巻『ネメシス:アメリカ共和国最後の日々』、をお読みになった方には。2007年に刊行されたものながら、帝国の過度な拡張が一般国民にとって何を意味するかに関しての権威ある書物になっている。ネメシスのペーパーバックが世界中の株式市場が暴落している今日刊行された。本書は断然必読書だ(そして、既にお読みであれば、友人用に一部お求め頂きたい)。とりあえずは、ペンタゴンがかき集められる強力な銃砲が、いかにわが国そのものを衰えさせる危機をもたらしているかについての、ジョンソン氏最新の権威ある説明をお読みいただきたい。(関心のある向きは、ここをクリックして、シネマ・リブレ・スタジオのスピーキング・フリーリー・シリーズの新しい映画「チャルマーズ・ジョンソン、アメリカ覇権を語る」のクリップをご覧頂きたい。この中で彼は軍事ケインズ主義と帝国の破産)を論じている。
Tomgram
破産に向かって
ブッシュ政権の軍事的冒険には、今は亡きエネルギー企業エンロンの幹部達とかなり共通するところがある。いずれの男性集団も、自分たちは、エンロンで何がおかしくなったのかについてのアレックス・ギブニーの受賞作映画題名「世界で最も賢い連中」だと思っていたのだ。ホワイト・ハウスとペンタゴンのネオコンたちは策におぼれたのだ。連中は、帝国主義者の戦争と世界支配という自分たちの計画にどうやって資金供給をするかという問題にさえ対処し損ねている。
結果的に、2008年に入ると、アメリカ合州国は自分が、高い生活水準、あるいは、無駄で、あまりにも巨大な軍組織の代金が支払えないという異常な立場にあることに気がついた。膨大な常備軍維持の為の費用、7年間の戦争で壊れたり、消耗したりした装備を更新し、あるいは、未知の敵に対する宇宙での戦争に備えるための目玉の飛び出るような出費を、政府は最早削減しようとさえしていない。そうではなく、ブッシュ政権は、こうした費用のつけを今後の世代に回そうとしているか、支払いを拒否しているのだ。この全くの財政的無責任さは、多くのごまかしの財政スキーム(より貧しい国々に、アメリカに空前絶後の金額の金を貸すようにさせる等)によって隠されてきたが、審判の報いを受ける時は刻々と近づきつつある。
アメリカの累積債務危機には、三つの側面がある。第一に、現在の予算年度(2008年)で、アメリカが、正気とは言えない金額を、アメリカ合州国の国家安全保証とは何ら関係のない「国防」プロジェクトに支出していることだ。同時に、アメリカ国民の最富裕層に対する所得税負荷を、際立って低いレベルに抑えたままだ。
第二に、アメリカの製造基盤の加速的侵食や、アメリカ人の仕事が外国に移ってしまうのを、膨大な軍事支出、いわゆる「軍事ケインズ主義」によって埋め合わせができると我々は信じ続けていることだが、これについては私の著書『ネメシス:アメリカ共和国最後の日々』で詳しく論じている。軍事ケインズ主義というのは、頻繁な戦争、武器弾薬への膨大な支出、そして大きな常備軍、に焦点を絞る公共政策によって、豊かな資本主義経済を永久に維持できるという誤った信念だ。その逆が本当は真実だ。
第三に、(限られた資源にもかかわらず)軍国主義に専念するあまり、わが国の長期的な繁栄に必要な社会インフラストラクチャーや他要求に対し、投資をし損ねていることだ。経済学者達が「機会費用」と呼ぶものがある 何か他のことに資金を支出してしまう為に、実現されないものごとだ。アメリカの公教育制度は、憂慮すべきほど悪化した。アメリカの全国民に医療を施すことができておらず、世界最大の環境汚染国としてのアメリカの責任を無視してきた。最も重要なことは、アメリカは、武器製造より、遥かに効率的な稀少資源の利用である、民需製品の製造業者としての競争力を失ったことだ。これらのそれぞれについて話させて頂きたい。
現状の財政的惨状
アメリカ政府が軍に支出している浪費は、いくら誇張しても事実上、誇張しすぎることは不可能だ。2008年度予算の国防省の予定支出は、全ての他国の軍事予算を合計したよりも大きいのだ。イラクとアフガニスタンにおける戦争代金を支払う為の補正予算は、公式国防予算の一部ではないのだが、それだけでロシアと中国の軍事予算を足し合わせたより大きい。2008年度向け国防関連支出は、歴史始まって以来、初めて$1兆ドルを超える。アメリカ合州国は、他国への武器弾薬で、地球上最大のセールスマンとなっている。ブッシュ大統領の二つの継続中の戦争を考慮外にして、1990年代中頃国防支出は二倍になった。2008年度の国防予算は、第二次世界大戦以来、最大だ。
だが、この途方もない金額を私たちが分解して分析しようとする前に 、一つ重要な警告がある。国防支出の数値は信頼性が低いことで悪名が高いのだ。連邦議会レファレンス・サービスと連邦議会予算事務局が発表する数値は一致しない。インデペンデント・インスティテュートで政治経済の上級研究員であるロバート・ヒッグズは言う。「きわめて確実な経験則は、ペンタゴンの(常に、十分に公表されている) 基本予算総額を倍にすることです。」国防省に関する新聞記事にざっと目を通すだけで、支出に関する統計の大きな差異が現れる。国防予算の30-40%ほどは、「黒塗り」で、つまりこれらの部分は機密プロジェクト用の隠された支出を含んでいる。その中に何が含まれているのか、あるいはその総額が正確かどうかを知る為の方法はない。
この予算の巧妙なごまかしには、大統領、国防長官、および軍産複合体それぞれの秘密主義願望を含め様々な理由がある。しかし、防衛産業による仕事の口と、選挙区向けの事業で膨大な利益を得る議員達には、国防省を支持することに政治的利益があるのが一番大きな理由だ。1996年、行政機関の会計規準を、多少は民間経済に近いものにしようという狙いから、議会は passed 連邦財務管理改善法案。この法律は、全ての政府機関が社外監査役を雇って会計簿を審査し、その結果を公に発表することを要求している。国防省も、国土安全保障省も応じていない。議会は文句を言ったが、法律を無視したことでいずれの役所も罰されていない。結果として、ペンタゴンが公表する全ての数値は疑わしいものと見なさなければならない。
2007年2月7日に報道陣に公表された2008年度国防予算を論じるにあたって、二人の経験豊かで信頼できるアナリスト、New America Foundation's Arms and Security Initiativeのウイリアム・D・ハルトゥング氏と、Slate.orgの軍事記者フレッド・カプラン氏のお世話になった。国防省が、給与、作戦(イラクとフガニスタンにおけるものを除く)と装備に$4814億ドルを要求したことには同意している。二人はまた、一般大衆が実際は基本ペンタゴン予算によって賄われているものと考えがちな「グローバル対テロ戦争」、つまり、二つの継続中の戦争を戦うための「予備」予算の数値1417億ドルという数値にも同意している。国防省は更に、ここまでに言及されていない2007年度の残り期間中の戦費として支払う追加の934億ドルと、きわめて独創的な、2009予算年度のつけにする500億ドルの追加「手当て」(国防予算文書中の新語)を要求している。これで、国防省の支出要求額総計は7665億ドルになる。
しかし、実はまだまだあるのだ。アメリカ軍事帝国の本当の規模をごまかそうとして、政府は長らく国防省以外の省庁に対する主要な軍事関連支出を隠蔽してきた。例えば、エネルギー省向けの234億ドルは核弾頭の開発と維持に使われている。また国務省予算の253億ドルは(主として、イスラエル、サウジアラビア、バーレーン、クエート、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦、エジプト、およびパキスタン)の海外軍事援助に使われている。公式国防省予算の他、更に、過度に拡張しすぎたアメリカ軍自体の為の新兵募集と再入隊の奨励金として、イラクでの戦争が始まった2003年のわずか1.74億ドルから、今では10.3億ドルも必要だ。復員軍人援護局は、現在少なくとも757億ドルを得ており、その50%は、これまでにイラクで少なくとも28,870人、更にアフガニスタンで1,708人の負傷兵の中でも特にひどい負傷者の長期医療に使われる。この金額はあまねく不十分だと馬鹿にされている。更に国土安全保障省用の464億ドルがある。
この合計から漏れているものに、司法省向けにFBIの準軍事的活動用の19億ドル、財務省向けに退役軍人基金用の385億ドル、航空宇宙局向けに軍事関係活動用の76億ドル、2000億ドルをはるかに上回る、過去に国債で資金を調達した国防支出用の金利がある。これで、当期予算年度(2008)内の軍組織向けのアメリカの支出は、控えめに計算しても、少なくとも1.1兆ドルとなる。
軍事ケインズ主義
そのような支出は、道徳的に節度を欠いているばかりでなく、財政的に持続不可能だ。多くのネオコンや、知識不十分な愛国心の強いアメリカ人は、アメリカの国防予算は膨大だが、アメリカは世界で最も豊かな国なので、支払う余裕があるのだと信じ込んでいる。不幸なことに、この発言は最早真実ではない。CIAの「ワールド・ファクトブック」によると世界で最も豊かな国家は、欧州連合である。EUの2006年のGDP (国民総生産、国内で生産する全ての商品とサービス)は、アメリカ合州国のそれよりもわずかに上回るものと推計されている。一方、中国の2006年GDPは、アメリカ合州国のそれよりわずかに小さいだけで、日本は世界で四番目に豊かな国だった。
アメリカがどれほどひどい状態かを明らかにするよりはっきりした比較は、様々な国々の「経常収支」から読み取れる。経常収支とは、ある国の純貿易黒字、あるいは貿易赤字と、利子、特許権使用料、配当、資本利得、海外援助の国境を越えた支払い、および他の収入を示すものだ。例えば、日本は何かを製造するためには、日本は全ての原材料を輸入しなければならない。この途方もない支払いを済ませた後でさえ、日本はアメリカ合州国との貿易収支の黒字が年間880億ドルで、世界で第二位の経常収支を享受している。(中国が第一位。)アメリカ合州国は対照的に163位、リスト最下位で、やはり膨大な貿易赤字の国々であるオーストラリアやイギリス等より悪い。2006年度の経常収支赤字は8115億ドルだ。二番目にひどいのはスペインで、1064億ドルだ。これは持続不可能な額だ。
輸入する石油を含め、我々の外国製品好みが、アメリカの支払い能力を大幅に上回っているというだけではない。アメリカは、これを膨大な借り入れによって賄っている。2007年11月7日、米財務省は、国債が史上初めて9兆ドルを超えたと発表した。これは議会がいわゆる債務限度を9.815兆ドルに上げてわずか5週間後のことだ。もし、憲法がこの国の最高法となった1789年から始めると、連邦政府による国債の累積は、1981年まで1兆ドルを超えなかった。ジョージ・ブッシュが大統領になった2001年1月に、それがおよそ5.7兆ドルになった。それ以来、これが45%も増加した。この膨大な膨大な借金は、他の諸国と比較したアメリカ国防支出によってほぼ説明できる。
世界の上位10の軍事支出国と、その軍事組織への概算支出総額現行予算は下記の通り。:
1. アメリカ(08年度予算)、6230億ドル
2. 中国 (2004)、650億ドル
3. ロシア、500億ドル
4. フランス(2005)、450億ドル
5. イギリス、428億ドル
6. 日本(2007)、417.5億ドル
7. ドイツ (2003)、351億ドル
8. イタリア (2003)、282億ドル
9. 韓国 (2003)、211億ドル
10. インド (2005年推計)、190億ドル
全世界の総軍事支出(2004年推計)、$1兆1000億ドル
全世界の総計(アメリカ合州国分を減じたもの)、$5000億ドル
アメリカの法外な軍事支出は、わずか数年の短い期間で、あるいは単に、ブッシュ政権の政策ゆえに起きたわけではない。これは、表面的はもっともらしいイデオロギーにのっとり非常に長期間継続してきたものであり、今やアメリカの民主的政治制度に定着し、猛威をふるい始めているのだ。このイデオロギーを、私は「軍事ケインズ主義」と呼ぶが、これは、永久の戦争経済を維持し、生産にも消費にも、何ら貢献をしないにもかかわらず、軍事生産を通常の経済的製品であるかのごとく扱うという決意だ。
このイデオロギーは冷戦初期にまでさかのぼる。1940年代末期、アメリカは経済不安に悩まされていた。1930年代の大恐慌は、第二次世界大戦の軍需生産ブームによってのみ、克服されたのだ。平和になり、召集解除にともない、恐慌が再来するのではという恐怖が蔓延していた。1949年、ソ連の原子爆弾開発成功に驚き、不気味に迫りくる中国内戦での共産党の勝利や、国内の景気後退、そしてソビエト連邦のヨーロッパ衛星諸国で鉄のカーテンが下がりつつあったことなどから、アメリカは来るべき冷戦に対する基本戦略を描こうとした。その結果が、当時国務省の政策企画部長だったポール・ニッツ指揮の下で作成された軍国主義的な国家安全保証会議報告68(NSC-68)だ。1950年4月14付けで作成され、ハリー・S・トルーマン大統領が1950年9月30日に署名したが、この文書が今日に至るまでアメリカ合州国が継続している基本的な公共経済政策を策定したのだ。
結論としてNSC-68は断言していた。「第二次世界大戦という我々の経験で、最も重要な教訓の一つは、最大効率に近いレベルで稼働した時に、アメリカ経済は、高い生活水準を実現しながら、同時に民需消費以外の目的にも莫大な資源を投入できるということだ。」
こうした理解で、アメリカの戦略家達は、ソ連の軍事力(これを彼等は常に誇張していた)に対抗しつつ、完全雇用を維持しながら、更に恐慌再来の可能性を避けるための大規模な軍需産業を構築し始めた。結果として、ペンタゴンの指揮のもと、大型航空機、原子力潜水艦、核弾頭、大陸間弾道ミサイル、監視、通信衛星、を製造するための全く新しい産業が造り出された。その結果が、アイゼンハワー大統領が1961年2月6日の退任演説で、警告したものだ。「巨大な軍体制と大規模な兵器産業の結合は、アメリカ人にとって新しい経験だ」つまり軍産複合体だ。
1990年迄に、国防省向けに注ぎ込まれた兵器、機器、そして工場の価値は、アメリカ製造業の全工場と装置の価値の83%となった。1947年から1990年までの、アメリカ軍事予算合計は8.7兆ドルにものぼる。ソ連はもはや存在しないにもかかわらず、アメリカの軍事ケインズ主義依存は、軍事組織周辺に定着するようになった膨大な利権のおかげで、何があろうと徐々に深まったのだ。時と共に、軍事と民間経済を両立させるというコミットメントは不安定な構造であることがあきらかになった。軍需産業は民需産業を押し退けて、深刻な経済的脆弱さをもたらした。軍事ケインズ主義への専念は、事実、一種ゆっくりとした経済的自殺である。
2007年5月1日、増大した軍事支出の長期的な経済的影響についてグローバルな未来予想の企業、グローバル・インサイトが作成した研究を、ワシントンD.C.にある経済政策研究センターが公表した。経済学者ディーン・ベーカーに率いられたこの研究は、最初の需要刺激の後、6年目あたりで、増大した軍事支出の効果はマイナスに転じる事を明らかにしている。言うまでもなく、アメリカ経済は、60年以上にわたって増え行く国防支出に対処せざるを得なかった。10年間より多くの国防支出をした後で、より少ない国防支出という基本シナリオより、仕事の口が464,000も減ることを彼は発見した。
ベーカーはこう結論している。
「戦争と軍事支出は経済に良いと往々にして信じられている。実際は、ほとんどの経済モデルは、軍事支出が、資源を、生産的な用途から、消費や投資のようなものにそらしてしまい、究極的には、経済成長を減速し、雇用を減らすことを示している。」
これらは軍事ケインズ主義による多数の悪影響の一部にすきない。
アメリカ経済の空洞化
アメリカは、巨大な軍組織と高い生活水準の両方を維持できるし、完全雇用を維持するためには、その両方が必要なのだと信じられてきた。しかし、そうはゆかなかった。1960年代までに、国家最大の製造企業各社を国防省に任せ、何らの投資、消費価値もない物を生産させると、民間の経済活動を押し退け始めることが明らかとなった。歴史学者トーマス E. ウッズ・Jr.は、1950年代と1960年代の間、アメリカの全研究者人材の三分の一から二分の三が軍事分野に吸い上げられたと見ている。もちろん、こうして資源と知力を軍事部門に振り向けた結果、どのようなイノベーションが実現しそこねたのかを知ることは不可能だが、家電や自動車を含む様々な消費財の設計や品質の点で、日本がアメリカ追い越しつつあるのか初めて気がついたのは1960年代のことだった。
核兵器は、こうした異常事に関する特筆すべき例証だ。1940年代と1996年までの間、アメリカ合州国は原子爆弾の開発、試験、製造に最小で5.8兆ドルを費やした。核備蓄が最高だった年の1967年には、アメリカ合州国は、そのいずれも、有り難いことに、使われてはいないが、およそ32,500発の発射可能な原子および水素爆弾を保有していた。政府は人々を雇用しておくための不要不急のあつらえ仕事を造り出せる、というケインズ理論を見事に例証している。核兵器は、アメリカの秘密兵器というだけではなく、秘密経済兵器なのだ。2006年の時点で、アメリカは依然として9,960発所有している。現在、核兵器の健全な使い道など皆無だが、一方それらに支出された何兆ドルもの金は、アメリカ国内の熟練度の高い仕事の維持はいうまでもなく、社会保障や医療、良質な教育や万人の為の高等教育の機会等の問題解決に使えていたはずだ。
軍事ケインズ主義の結果として失われたものの分析についてのパイオニアは、コロンビア大学の生産技術とオペレーションズ・リサーチの教授、故セイモア・メルマン(1917-2004)だ。彼の1970年の著書『ペンタゴン・キャピタリズム:戦争の政治経済学』(1972年6月、朝日新聞より高木郁朗訳の翻訳書が刊行されている)は、冷戦開始以来アメリカが、軍隊と兵器に没頭したことの意図しない結果に関する先見の明を持った分析だ。メルマンはこう書いていた。(原書2-3ページ):
「1946年から1969年までに、アメリカ合州国政府は、軍事に1兆ドル以上支出したが、この半分以上がケネディおよびジョンソン政権下で行われ、その間に [ペンタゴン主導の]国家管理が正式な制度として確立した。この金額の驚くほどの量(兆という価格の品物を、想像するよう試みて頂きたい)は、国家に対する軍組織の費用全体を現してはいない。本当の経費は、何が放棄されてしまったかによって、つまり長期にわたって人間の不幸を軽減しそこねているという、生活の様々な局面における累積的劣化によって計られるべきだ。」
現在のアメリカの経済状況にかかわる、メルマンの妥当性についての重要な評釈で、トーマス・ウッズはこう書いている。
「アメリカ国防省によると、1947年から1987年までの40年間に、資本資源として(1982年ドル価格で)7.62兆ドル支出した。1985年、商務省はアメリカの工場と機器とインフラストラクチャーの価値は7.29兆ドルをわずかに上回るものと見積もっている。言い換えれば、この期間に支出された金額で、アメリカの資本ストックを倍増させたり、既存のストックを現代化して置き換えられたりしていたはずだ。」
事実、アメリカの資本ストックを現代化したり、置き換えたりしなかったことが、21世紀への変わり目に、アメリカの製造基盤がすっかり消え失せた主な理由の一つだ。工作機械、メルマンがその道の権威だった産業は、とりわけ重要な症例だ。1968年11月、5カ年間の棚卸が発表されたが(186ページ)「アメリカの産業で使われている金属加工工作機械の64パーセントは、10年かそれ以上の古さだ。こうした産業用機器(ドリル、旋盤、等々)の古さから、アメリカ合州国の工作機械資産は、全ての主要工業国家の中で一番古く、第二次世界大戦終了後に始まった劣化過程が継続していることを示しているを。この産業システム基盤の劣化は、資本、研究開発人材の軍事的利用がアメリカの産業にもたらした、継続的衰弱・枯渇作用を証明している。」
1968年以来の期間、こうした傾向を逆転させるような対策は何も行われず、今日では、放射線治療用陽子加速器のような医療機器(主にベルギー、ドイツ、日本で製造されている)から、乗用車やトラックに至るまで、アメリカは膨大な装置を輸入する結果になっている。
世界「ただ一つの超大国」としてのアメリカの立場は終わったのだ。ハーバードの経済学教授ベンジャミン・フリードマンも書いている。
「政治的影響、外交的影響、および文化的影響という点で、一度ならず必ずや世界最大の債権国が首位の国家だった。アメリカが世界最大の債権国という責務を引き継ぐのと同時に、イギリスからこの役割も引き継いだのは偶然ではない。今日、アメリカは、最早 世界最大の債権国ではない。事実、アメリカは今や世界最大の債務国であるのに、アメリカは軍事力だけを基盤に、力を振り続けている。」
起きてしまった被害の中には、もう取り返しがつかないものもある。とはいえ、この国が早急に講じるべき対策もいくつかある。これらの中には、ブッシュによる2001年と2003年の金持ち減税の破棄、800以上の軍事基地というアメリカ世界帝国の清算を始めること、国防予算からアメリカ合州国の国家安全保証に関係のない全てのプロジェクトを削減すること、更にケインズ流雇用策として防衛予算を利用するのをやめることなどがある。こうしたことを実行すれば、アメリカはどうにか切り抜けられる可能性がある。実行しなければ、アメリカは国家破産と長期的不況に直面しよう。
チャルマーズ・ジョンソンは、ペーパーバック版が刊行されたばかりの、『ネメシス:アメリカ共和国最後の日々』の著者。これは彼のブローバック三部作の最終巻。先行巻は『アメリカ帝国への報復』(2000)および『アメリカ帝国の悲劇』(2004)。
[注記: ご興味のある方は、ここをクリックして、シネマ・リブレ・スタジオのスピーキング・フリーリー・シリーズの新しい映画のクリップ「チャルマーズ・ジョンソン、アメリカの覇権を語る」ご覧頂きたい。この中で、彼は「軍事ケインズ主義」と帝国の破産について語っている。世界の軍事支出の情報源としては、以下を参照願いたい。(1) Global Security Organization、"World Wide Military Spending" as well as Glenn Greenwald、"The bipartisan consensus on U.S. military Expenditure"; (2) Stockholm International Peace Research Institute、"Report: China biggest Asian military spender."]
チャルマーズ・ジョンソンは、Global Researchの常連寄稿者。チャルマーズ・ジョンソンによるGlobal Research記事
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本記事原文のURLアドレス www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=7894
参考:2007/04ブログ翻訳記事『復讐の神ネメシス:アメリカ共和国最後の日々』(デモクラシー・ナウ放送の書き起こし)
岩国敗北と同時にまたもや起きた沖縄の強姦事件
彼の2003年の論文「レイプ・オブ・オキナワ」を是非お読みください。また彼の沖縄論も。
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