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2008年1月10日 (木)

ブット暗殺: 恩恵を受けるのは誰か?

F.ウイリアム・イングドール

Global Research、2008年1月4日

恐らくは最高の警備によって守られているであろう著名政治指導者の暗殺は容易なことではない。確実に、狙いを果たし、しかも黒幕までたどれるような人物が生きたまま逮捕されないようにするには、プロ諜報機関、訓練が必要だ。典型的には、1914年7月サラエボにおけるフランシス・フェルディナンド皇太子暗殺から、JFKにいたるまで、拳銃の引き金を引いた人物は、はるか奥深い陰謀の手先にすぎない。12月27日のパキスタン元首相ベナジール・ブット暗殺の場合もそうだ。ラテン語の決まり文句Cui bono、つまり誰の利益になるのだろう?

彼女のPPP党が1月8日に予定されていた選挙で圧勝しそうに見えた瞬間にブットが殺害され、ムシャラフ大統領の独裁的支配に対する大衆的な反抗を引き起こすことになった事件の背景には何があった?

ワシントンが2001年9月11日テロ攻撃の黒幕として非難した、オサマ・ビン・ラディンの組織だとされる怪しげな組織「アルカイダ」を、ムシャラフの政府は不作法なほど素早く非難した。ムシャラフはわずか数日後に、アルカイダが張本人なのは「確実だ」と宣言した。後にアメリカの圧力で、スコットランド・ヤードに現地調査するよう依頼したのだが。「この連中(アルカイダ)が...ベナジール・ブットを殺害したと確信をもって申し上げたい」ムシャラフは1月3日にテレビ放映された演説でそう語った。彼は、パキスタン軍と戦っている戦闘的な部族長で、アルカイダやアフガニスタンのタリバンともつながっているというバイトゥッラー・メスードの名前を挙げた。メフスドは嫌疑を否定した。このように劇的な、イスラム過激派に対する望ましいプロパガンダ効果がある事件の黒幕だったなら、むしろ逆に、あからさまに自分がやったと言っただろう。

ブット殺害をアルカイダと結びつけることで、ムシャラフは好都合なことにいくつかの狙いを実現した。まず、アメリカの対テロ戦争の真意に対する懐疑が世界的に広がっている今、ワシントンにとって非常に有用なアルカイダの神話を強化でき、ムシャラフはワシントンにとってより価値が高まるのだ。次に、それによってムシャラフには、政治上の強敵が都合よく粛清された責任をなすりつけるもっともらしい身代わりができ、独裁支配が強化できるわけだ。

ムシャラフ政権がブットの遺骸に対し、所定の解剖を行うことを拒否した事実も注目に値する。ブットは、すんでのところで自分が殺されかけ、自動車の側にいた支持者134人が殺された10月の爆弾攻撃に関する追跡調査の実行を政府が拒否したことを公然と非難した。ブットはパキスタン当局が十分警備をしてくれないと非難し、彼等はカラチ・テロ攻撃の共犯だった可能性があるとほのめかした。亡くなるちょっと前のイギリスのテレビ・インタビューで、パキスタンの軍と諜報機関の腐敗と、イスラム教主義者を一掃すると彼女は明言していた。

その同じ、デヴィッド・フロストとのインタビューで、ブットは、オサマ・ビン・ラディンは、パキスタン生まれのイギリス国民で、ダニエル・パールを殺害したと「白状した」パキスタンISIの諜報機関工作員オマール・シェイク・モハンマドに殺害されている、という爆弾発言もしている。彼は2002年2月に逮捕された。もしもベナジールの主張が正しければ、オマール・シェイクは2002年2月に逮捕される前にオサマを殺害したに違いないが、そうなると、少なくともその日以後の時折西欧のマスコミに送られていた全てのオサマのメッセージは、明らかに偽造だ。

ブット殺害から数日後、パキスタン当局は、ブットを殺害した自爆テロ犯の切断された頭部とされる写真を公開した。は、死んだリー・ハーヴェイ・オズワルド同様、都合の悪いことは決して言わない。更に奇妙なのは、ブットが町中くまなく軍・治安機関複合体によって支配されている軍駐屯都市、ラワルピンジで殺されたことだ。殺害に使われた武器はパキスタン軍の特殊部隊にのみ支給されるシュタイアー9mm拳銃だ。むむ。

アメリカのパキスタンに対する政治支配を強化し、この地域全体での「対テロ戦争」の拡大と深化へのお膳立てをするために、ブッシュ-チェニー政権とその同盟国が画策をしていることは、もう何カ月も知られていたことだ。

ブットとは一体誰だったのか?

ブット家そのものは民主的なものとはほど遠く、封建地主の家系なのだが、軍やISI諜報機関の支配的な役割には反対していた。PPP党首として父親の後を継ぎ、ベナジール自身死ぬまで保持していた地位「終身党首」だと言っていた。ブットの夫、アリ・ザルダリは、ベナジールが首相だった頃、大口の政府契約を受注させるのに10%の分け前を要求する「ミスター10%」としてパキスタンでは知られている。2003年、ベナジールと彼女の夫は、マネー・ロンダリングと、スイス企業から首相として賄賂を得ていたことで、スイスで有罪判決を受けた。一家は数十億ドルを得ていたとされている。彼女は1993年から1996年までの首相として、イスラム教主義者、特にアフガニスタンのタリバンに対する宥和政策を擁護していた。

ハーバードで学んだベナジールは、アメリカとイギリス双方の諜報機関と親密な関係にあった。ワシントンで暮らす場合、彼女はアメリカのネオコン議員トム・ラントスの事務所を使っていたが、情報に通じた報告によると、一つの理由は、副大統領チェニーが、ムシャラフが昨年戒厳令を発令して以来、高まる国民の反対運動を前にして、パキスタンという戦略的同盟を救うための「安全な」手段として彼女を支援していたからだという。ブットにムシャラフと彼の面子を保つ取引をさせて、独裁制に民主的な装いをもたらす一方、ワシントンは戦略的支配を維持するという計画だったのだ。12月28日のワシントン・ポストによると、「ベナジール・ブットにとって、パキスタンに帰国するという決断は、ブットが十月に帰国するわずか一週間前、国務長官コンドリーサ・ライスからの電話会話中に決定された。この電話は、一年以上にわたる秘密外交の頂点であり、パキスタンで最も有力な政治支配家系の後継者が、テロに対する戦いにおけるワシントンの主要な同盟国を救済できそうな唯一の人物で.... ペルベス・ムシャラフ将軍の政治的な将来がほころび始めた今、ブットが彼を権力の位置にとどめておけそうな唯一の政治家となったことが明らかとなった時にかかってきたものだ。」

11月、元ブッシュ政権における諜報部門の帝王で、今や国務副長官であるジョン・ネグロポンテが、イスラマバードに派遣され、選挙を行って、事態を和らげ、ブットと連立政権を作るようムシャラフに圧力をかけていた。だがパキスタンに戻って、支持者が動員されるやいなや、ブットは予定されていた選挙で、あからさまにムシャラフや軍部の支配に反対するような選挙連合を狙うことを明らかにしたのだ。

アメリカとムシャラフの冷笑的な取引?

情報に通じた諜報筋によると、ワシントンとムシャラフの間では、水面下で冷笑的な取引が成立していたという。ムシャラフはチェニーお気に入りのパートナーとして知られており、チェニーは現在アメリカの対パキスタン政策を運営している唯一の人物とされている。

ムシャラフが、アメリカ特殊部隊がパキスタン国内に駐留するという「第二の手段」に合意するのであれば、ムシャラフの独裁継続を容認し、ブットを使った民主的な装いは脇におく。ワシントンは「目をつぶる」というものだ。

12月28日、ブット暗殺から一日後、ワシントン・ポストは、2008年早々、米中央軍とアメリカ特殊作戦軍のもとで「アメリカ特殊部隊は、現地の対内乱軍および秘密のテロ対策部隊の訓練、支援の目的の一端としてパキスタン駐留を大幅に増強する」と報道した。アメリカ-米パキスタン同盟における大きな変化だ。9/11直後、アメリカによる爆撃もありうるという極端な圧力のもとでムシャラフから引きだした、アメリカ軍にパキスタンの核兵器に対する直接の支配権を与えるという合意を除けば、これまでムシャラフと彼の軍はそうした直接的なアメリカ支配は拒否してきた。

ブットが消し去られたことで反対派は空白となった。全国的支持を自由に駆使できる信頼に足る政治指導者がいないこの国では、街路でムシャラフを進んで守る軍隊が、組織として強化されることとなった。これによって、ペンタゴンとワシントンは、将来的な中国の経済的覇権に対する軍事的対抗力を強化する機会を得たわけだ。これがワシントンの本当の地政学的目標だ。

F. ウイリアム・イングドールはNew World Orderの首席アナリストで、石油と地政学に関するベストセラー本, A Century of War: Anglo-American Politics and the New World Order,’ の著者。彼の著作何十もの言語に翻訳されている。

F. ウイリアム・イングドールによるGlobal Research記事

http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=7728

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