イラクの民族主義者達が目覚めつつある
2008年1月18日
ミドル・イースト・オンライン
出現しつつあるスンナ派-シーア派連合がイラクの様相を変えることが出来るかもしれない。もしもアメリカ合州国が身を引いて、どいてくれたらばだが、とロバート・ドレイフュスは語っている。
1月13日、イラクで新たに登場しつつあるスンナ派-シーア派民族主義者ブロックが、イラク内戦を終結させ、イラク石油産業の私営化を阻止し、クルド人国家の分離を挫折させることを狙いとした画期的合意に署名した。これは大きな前進で、2008年のイラク政治の様相を変える可能性がある。
過去二年間、イラクの民族主義者達は、アメリカ占領に反対し、アルカイダに反対し、イラク情勢に対するイランの高圧的な干渉に反対してきたが、自己の存在主張には苦闘してきた。出現しつつある連合は、イラクにおける本当の国民融和の種を宿しているが、アメリカ合州国からは独立して出現したのだ。様々な融和的「ベンチマーク」(勝手な訳注:イラク改革要望書)に従えという、ヌリ・アル-マリキ首相の政府に対する、絶えざるアメリカの圧力とは無関係だ。新たな連合は、マリキを首相の座から追い出すか、彼を連合に参加させるかすることを狙っている。
スンナ派-シーア派連合の前には非常に大きな障害が立ちはだかっており、イラクは新たな支配ブロックの元で安定化を狙う間にも、新たな激しい内戦の中に沈みかねない。それでも、そうなる可能性もあるのだが、それには大きな「もしも」がある。「もしも」アメリカ合州国が身を引いて、どいてくれたらばだ。
2005年の不正なイラク選挙以来、アメリカ合州国は、イラクにおいて、不安定で、今や全く信用の落ちた四党連合を支援し続けてきた。これらの党派のうち二つは極端に宗教的なシーア派党派、つまりイスラム・ダーワ党とイラク・イスラム最高評議会(ISCI)で、いずれもイランによって強力に支援されている。後の二つは、クルドの軍閥政党、クルディスタン民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)だ。その間、イラクの二人の首相、イブラヒム・ジャファリ(2005-06)とマリキ (2006-2008)、いずれもダーワ党だが、スンナ派アラブ人の政府参加強化の門戸を開けることを、断固として拒否してきた。しかし今や連合が崩壊しつつある以上、パートナー達は益々お互いに反目するようになっている。
アメリカ占領のもとでイラクを支配してきたシーア派-クルド人の契約が破綻する可能性が、サダム・フセインの打倒以降に出現した無数の政治党派間で、互いに競合する会派間の連合を、何にも束縛されずに検討する状況をもたらした。
新たな12党派連合のパートナーには、 スンナ派の宗教的党派や非宗教的な全国対話戦線を含むほぼ全てのスンナ派アラブ人政党、イラクシーア派平信徒である元首相イヤド・アラウィの率いる非宗教的な国民イラク・リスト、二つの大きなシーア派政党、ムクタダ・アル-サドルのブロックとファディラ(徳)党、ダーワ党の分派、雑多なより小規模な集団、イラク国会の無所属議員を含む人々が含まれている。指導者たちが語るその目標の中には、イラクの石油、天然ガスおよび他の貴重な資産が、あらゆるイラク国民のものであり続けるようにすることと、石油産業に私営化の道を開くであろう提案されている石油新法と、クルド地方政府が署名した違法な石油取引のいずれにも反対というのがある。もう一つの目標は、彼等によれば、石油の豊富なイラク北部キルクーク周辺の地域をクルド人が奪取するのを阻止することだ。さらに彼らが言うには、スンナ派とシーア派を団結させた新たな連合は「セクト主義という狭い社会を克服」するだろうと。
更に、包括的な国民和解の努力として、残りのスンナ派レジスタンス集団、アメリカが支援する覚醒会議に参加していない連中や、いわゆる「関連する地方市民グループ」を含めた会談が行われているという報告がある。アラブ・プレスによると、イラク政府と政党の代表も入れたカイロでの会議の準備として、6つのスンナ派レジスタンス党派がイギリスで会合した。ベイルートでの会合でも、並行する試みが進められている。またフランスのニコラス・サルコジ大統領が現在中東を歴訪中だが、彼はイラクで敵対している政治党派を一緒にさせようというフランス案を再提案した。サルコジは「暑さと激情から遥か離れた中立的な土地フランスで、できるだけ大規模なイラク内ラウンドテーブル会談を主催しよう」と提案した。サルコジが提案した会議が武装抵抗勢力の代表を含めるのかいなかは定かではないが、それも可能だろう。(同じような会談を主催するというフランスからの以前の提案は、マリキからは無視され、アメリカ合州国からも激励はなかった。)
サドルのブロックが対立するブロックに参加しようとしているという事実は、決定的に重要な意味を持つ。サドルはイラク国会で32議席を率いているのみならず、バグダッドと南部では、彼のマフディ軍団民兵は手ごわい勢力だ。ファディラ党も、石油産業とイラクの輸出の大部分を支配しているイラク第二の都市バスラ内部と周辺で、大きな力をもっている。
イラクにおけるあらゆる政治再編の決め手は、強力で新たなサフワ(覚醒)運動、つまりイラクの部族指導者を中心とする総勢100,000人の民兵軍団の動向だ。現在、サフワ運動は、首都の西と北、アンバール、ディヤラ、サラフディンとニネベ県、バグダッドそのもの、およびバグダッド南部の郊外ベルト地帯で強力だ。サフワは政党ではない(したがって国会に議席を持っていない)ものの、評価すべき勢力であり、新たな民族主義者連合とダーワとISCIから、熱心に口説かれている最中だ。選択を強いられれば、部族指導者達は、特にISCIをイランの手先と見なしているため、サフワ運動はシーア派の宗派政党とより、民族主義者と手を組む可能性が遥かに高い。
これ迄のところ、アメリカ合州国は、その不評が高まりつつあるにもかかわらず、マリキの不安定な政権を支え続けてきた。アメリカ高官は、特に大統領選挙の年に、もしもマリキが倒れるようなことがあれば、結果は予想がつかないことになると恐れている。さらに、民族主義者達は、マリキとは違って、マリキとブッシュ大統領が、7月迄には署名するつもりでいる、アメリカが提案するアメリカのイラク駐留長期延長には到底署名しそうにない。
今週、イラク国防相、アブドゥル・カデール・モハンメド・ジャシムがアメリカ合州国訪問を延長し、その間彼はペンタゴンで長期計画参謀と会合した際、アメリカのイラク駐留がどれほど定着しているかという一端がみられた。訪問の際に、2018年まで更に十年間、かなりの数の軍隊がイラクに駐留せねばならないとジャシムが宣言したのだ。
1月11日国会で、いわゆる「説明責任と公正法」が通過したことは、一年前の米軍増派の時点に設定されたベンチマークの少なくとも一つが実現した印だとして、ブッシュ大統領を含めたアメリカ高官によって広く歓迎された。この法律は、何十万人ものイラク人を政府機関や仕事から排除した過酷な反バース党規則を、和らげるものと期待されていた。
半ば空の国会で、つまり275議席のうち、わずか140議席しか選出されていない議員が出席して、法案は通過した。それが助けるべきはずであった、いくつかのスンナ派や非宗教的党派や元バース党員を含む国民によって広く非難されており、新たな法律は、何千人もの元バース党員を治安業務から追い出す、イラク国防省、内務省、軍や警察におけるパージの引き金となりかねないように見える。言い換えれば、まさに上っ面とは全く逆の目的だ。実際、サドルのブロックが極めて反バース党的なので、意見が分かれる問題を新たな連合における潜在的パートナーからサドルを分離させるくさびとして利用するため、マリキがこの瞬間を狙って法律を強行通過させる可能性もある。
要するに、イラクは依然として崩壊した国家だ。イラク経済は壊滅状態にある。宗派間内戦は和らいだが、戦闘はいたるところで起きている。前の週、アメリカの二つの大規模軍事行動、バグダッドのすぐ北での徹底的な攻勢と、首都の南部地域に対するもっとも激しい空爆の一つで、多数が亡くなった。キルクーク周辺は一触即発状態だ。バスラや他の南部の都市におけるシーア派内部の戦闘は、内戦レベルよりわずか下であり、今にも爆発しようとしている。アメリカの干渉なしでさえ、安定したイラク人の連合が根付くまでには、魔法が必要なのかもしれない。
ロバート・ドレイフュスはネーション誌の寄稿編集者であり、Devil's Game: How the United States Helped Unleash Fundamentalist Islam 「悪魔のゲーム:いかにアメリカ合州国がイスラム原理主義者を解き放つ手助けをしたか」(メトロポリタン刊)の著者である。
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