アメリカ・マスコミというポチ
発作的なうわっつらの自己批判はしても、戦争のこととなると、アメリカ・マスコミはホワイト・ハウスのせりふに追随する点で卓越している
ノーマン・ソロモン
2007年11月19日、3:30 PM
時には、戦争への道に大きな敷石を置いたずっと後に、アメリカの大手マスコミは、次はもっと自主的になろうと決心したりする。それも当然だろう。マーク・トゥエインが言ったではないか。「禁煙するのは簡単だ。私は何百回もやった。」
大統領とそのチームが戦争のためのマスコミ地盤作りに着手する時には、連中はアメリカのマスコミに蔓延している「反復」という衝動脅迫をあてにできる。大手マスコミはホワイト・ハウスによる戦争を目的とした話題設定には逆らえないもののようだ。この問題はもう何十年にもわたって続いてきた。ベトナムからドミニカ共和国、グレナダ、パナマ、イラクとユーゴスラビア、そしてアフガニスタンから再びイラク、そしてイランも来年にはこのリストに加わりそうだ。
その間、1991年の湾岸戦争から始まり、アメリカのマスコミと比較すると、イギリス・マスコミの成績の方が宜しいが、まあそれとて低い基準を越えた程度に過ぎない。それすらもイギリス政府が、欺瞞に基づくアメリカ主導の戦争行為に兵隊と兵器を提供し、特別な関係に、最悪の面で報いるのを止めることはできなかった。
こうした悲劇的な戦争を行うという政治的実行可能性は、アメリカ・マスコミがワシントン政権に対し、反射的に降伏し、厳しい精査どころか、往々にして速記サービスをしていることが原因だ。
アメリカでは、うわっ面の自己批判は巨大マスコミ企業の定例儀式になっている。しかし独立したジャーナリズムであるべき上の基本的、慢性的欠陥が、いつものように真剣な検証を免れてしまう。ニューヨーク・タイムズの「パブリック・エディター」によるものであれ、あるいはワシントン・ポストの社内メディア・コラムニスト、ハワード・クルツ、彼は長らく二社から金を稼いでいて、CNNの給料も貰って、いつも手加減しているメディア評論家だが、その彼によるものであれ。このようなメディア企業では、根深い戦争報道パターンなど分析しても無駄だ。
アメリカ・マスコミで、遅ればせで曖昧な見直しが姿を現すのは、えてしてリアルタイム報道がワシントンの戦争立案者どもを手伝い、扇動をしたずっと後になってから、になりがちだ。そこで今日、強力なアメリカ・マスコミからはほとんど懸念のつぶやきもなく、イランの「脅威」にかかわる報道の品質は、もうほとんど公式ホワイト・ハウスのせりふの焼き直しにすぎず、我々が5年前に聞かされた無数の「サダム・フセインのイラクの脅威」の類だ。
長編ドキュメンタリー映画、War Made Easy: 大統領と評論家どもによる、我々をだまして死の道に導く方法(同名拙著に基づいたもの)を去年夏に公開して以来、この映画が批判しているCNN、Fox、MSNBC、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CBS、NBCそしてABCを含むマスコミ連中は、映画を全員一致で避けてきた。どの社もこの映画については、一瞬たりとも放送したり、一言も印刷したりしていない。この映画ではシーン・ペンがナレーションをしており、アメリカで最も権威あるマスコミ組織だなどという見せかけの土台を堀くずすような衝撃的な記録資料場面も入っている。ドキュメンタリーによる批判が根本的なものであるため、この映画が挑戦している相手、マスコミによる不消化も、根本的になる。
極めて重要な前提がアメリカ・マスコミ上層部に生き続けている。つまり、戦争支持派であれば客観的と言われる。反戦派であれば、偏向していると言われるのだ。
かくして、War Made Easy中のマスコミ報道場面で見られるように、広く尊敬されている当時ABC特派員のテッド・コッペルが、2003年3月イラク侵略開始時、前線でカメラの前でこう唱えることになった。「申し上げねばなりません。私は考えようとしていました。このような場面に、何か相応しい言葉を考えようとしていました。よくあることなのですが、思いつける最善のものといえば、まあシェークスピアが「ヘンリー五世」で描いた「『情け無用』の雄叫びをあげ、戦争の犬を解き放て」でしょうか。」
最ももてはやされているアメリカ人ジャーナリストが、報道という職務の上で、最近のアメリカの戦争行為を応援したことに対し、眉をひそめた人々はごくわずかだ。私が映画の中で言ったように、「ニュース解説者は戦争を支持するような発言をしても、決して激しい批判は受けず、戦争に反対するような発言をすることなど夢にも思わない。」
War Made Easyのイギリス初の公開上映は、11月27日火曜日の晩、ロンドンのフロントライン・クラブで行う予定だ。このドキュメンタリーは、戦争中止連合が後援する会合で、翌日の晩も映画館上映される。(後日、この映画はアムステルダム国際ドキュメンタリー映画フェスティバルにデビューする。)
アメリカ大統領とアメリカのマスコミが、過去50年間、戦争開始用の主要なプロパガンダ・コーラスを協力して担ってきた程度のひどさをご覧になって、イギリスの観客は面食らわれるかも知れない。だが現状に満足されるのは軽率だろう。戦争と平和という大問題を報道しながら、ジョージ・ブッシュとトニー・ブレア二人の策謀は報道しないアメリカのマスコミは、特に堕落した意気地ない状態なのかも知れない。今やテヘランに向けられたワシントンのときの声に、現在のイギリス政府が立ち向かおうとしたがらないということは、この両国の政治あるいはジャーナリズムの全体的な健康さを証明するわけではない。
ガーディアン記事翻訳
記事原文url:http://commentisfree.guardian.co.uk/norman_solomon/2007/11/us_media_poodles.html
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宗主国のマスコミにして、この程度。まして属国のマスコミに期待するのは正気ではあるまい。
マスコミの限界(本質について触れた記事の翻訳)
クリスマスの手紙「百万長者対貧乏作家」 2008/12
マスコミはどのように階級戦争を隠蔽しているか 2007/12
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